10万年越しの恋
2019/10/22 02:24
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投稿者:1ベクトル - この投稿者のレビュー一覧を見る
三十歳代の後半にさしかかった日本人男性〈井上由祐〉と、三十歳代はじめのオーストラリア人女性〈キャロライン・ホプキンス〉の恋物語。間にあるのは一人の男性〈高橋陽平〉の死。彼も日本人で、二人よりも年上だった。
既に完了した彼(高橋陽平)の生が、現代を生き続ける彼(井上由祐)と彼女を引きつけ、結びつけ、離れなくさせる。その姿を追う吾々もまた彼(高橋陽平)の言動・行動にフォーカスせざるを得ず、いつの間にその肩越しに、感情移入している。
時空のスケールが桁違いに大きくて、爽快な笑いが突き抜ける。凄いなあ。これは天才だよ。文庫なら400円+税で浸れる圧倒的な世界。はじめに文庫で購入して、その後に単行本も購入しました。この投資は全然惜しくない。
『私の恋人』は悲劇の道程も愛おしく壮大なラブストーリーに変える
2017/02/16 16:21
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投稿者:mino - この投稿者のレビュー一覧を見る
わたしは
何度も生まれ変わり
まだ見ぬ運命の恋人を探し続けている
はるかむかし10万年まえから
わたしは
「あなた方人類」の行く先を予見し
繰り返す愚かな歴史を見守り
「三周目の行き止まりの旅」に
同行している
わたしは
予見している
いずれ現れ「あなた方人類」に変わり
四周目の主役となる「彼ら」の登場も
はるか10万年のむかしに
「あなた方人類」は
行き止まりの旅の果てに
何を望んでいるのか
一体 なんのために
かわいそうな「あなた方人類」ーーー
10万年の時を生まれ変わりながら、運命の恋人を探し続ける、彼。
彼が一体なにものなのかは明かされていないし、彼自身もわかってはいません。
彼はただ、人類の行く先の全てを見通しています。
彼のいう通り、私たち人類に降りかかる全ての災厄が、旅路の果てに待つ災厄の前準備でしか無いとしても、私たち人類は旅を続けるでしょう。
そしてその旅の果てに、四周目の主役に変わるかもしれない人類の上位者である「彼ら」の事も、必ず生み出してしまうのでしょう。
ーーー「かわいそうなあなた方人類」。
けれどもしも人類史が、彼と同じようにたった1人の運命の恋人を探し続けた記録だとしたら?
行き止まりの人類の旅は、愚かしい悲劇の道程ではなく、愛おしく壮大なラブストーリーになり得るのだと。
たまらなく可愛い『私の恋人』は
そう教えてくれるのです。
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ラブストーリーのように思わせてそうではないのだな、と思わせておいて、最後はやっぱり「ラブストーリー」らしい読後感があった。
何だかひどくもの悲しい気持ちになって、涙が出そうになった。
愛しい愛しい、たまらなく可愛い、私の恋人。
巡りあうまでに私は10万年の時を生き、地球を3周もしたのだ。
どうやら「語り手の視座」ということが最近の純文学系のキーワードらしい。
「私」は輪廻転生を繰り返し3回目の現世を生きている。けれどその語りはどちらかというと1回目の過去世にあり、そこから10万年の時間を睥睨するような視座で物語は進んでいる。
だから、語り手はすでに死んでいる(しかも10万年前に)のだから、物語に一種の閉塞感というか虚無感というか、もの悲しさが漂っているように思う。その一方で、「来世に期待しよう」ではないけれど、どこか希望のようなものも感じさせる。この語り手の視座が、物語の雰囲気を決定付けているのではないだろうか。
人類の歴史を「地球3周目の旅」と表現する発想が、単純に面白いと思った。それから「旅の終り」「旅の始まり」という歴史観に単純に納得してしまった。
現在の人類は「3周目の旅」を始めたところであり、人類が「彼ら」を生み出したところでその旅は終わるのだという。そして「4周目の旅」を始めるのはおそらく「彼ら」なのだろう、とも。
それならば、人類は誰からこの世界を引き継いで、「1周目の旅」を始めたのだろう? 人類は誰の、何周目の旅の終りで生まれたのだろう? 言い換えるなら、誰の、何周目の旅を、人類は終わらせたのだろう?
「私」とはだれか? 「あなたがた」とはだれか? 「恋人」とは? 「彼ら」とは?
いくつもの代名詞が、いかにも企み深く並べられている。
それらに「何」を当てはめるかによって、この悲劇的な予言の書は何通りにも読み出せそうだ。
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人類の遥かなる旅。
語り手は、輪廻転生(?)を繰り返しながら人類の歴史を俯瞰する。
色んな読み方ができそうだけど、DNAの物語みたいな感じ。「生き物は乗物」っていう感じ。
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三人目の私である井上由祐は、一人目の私と二人目の私ハインリヒ・ケプラーの記憶を持っている。一人目も二人目も成し遂げなかった恋人を得ようと、高橋和也の紹介でキャロライン・ホプキンスと出会う。
そして、彼女の口から語られる数奇な人生と高橋陽平との旅。
この作品に出てくる人物は、みな変わった経歴を持っているが、由祐もキャロラインも陽平も計算をして動いていてパキパキした印象を持った。
読了後、輪廻転生という言葉が脳裏をかすめた。
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最初の「私」から見た3代にわたる「私」とその恋人。遠く離れた「私」だからこそ、突き放したようなすっきりした文体で書ける。本と読み手が薄い膜で隔てられるようになるので、人によっては読みづらいかも。
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又吉に競り勝っての三島由紀夫賞。
でもよくわかりませんでした。
古井由吉の『仮往生伝試文』が出てきた。
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珍しく日本人の文章で入りがぐっとくる記述だなと思って読んだ。しかしなぜ日本人の描く恋愛はいつもこう重苦しく悲劇的で読んでいて気分が悪くなるのだろうか。小説の中ぐらいでさえ力強い理想が見たいものである。現実にはそんなドロドロ系は掃いて捨てるほど転がっているんだから。軽快さとか明るさをきたいしたいのだ、フィクションには。ラテンアメリカっぽいネガティブさを感じる。
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旧石器時代から一心に想い続けていた「私の恋人」を求める話。
1回目の生は旧石器時代の洞窟でひきこもり、思念と思考の限りをつくす。
2回目の生はナチスの強制収容所で閉じる。
3回目の生は日本で「私の恋人」と出会ったかもしれない今生。
すごい設定。
1回目の生で「私の恋人」を設定し、3回目の生でめぐり合ったかもしれないっぽいという。
純度の高い純粋さを感じつつも、とてつもなく高度なストーカーっぽくもある。すごい。実際、自分がこんなので「私の恋人」候補になってしまったのなら、全力で逃げる。
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新聞に「斬新な文体」といった内容で紹介されていたので読み始めた。
5行で挫折の予感。
意味のない言葉を繋ぎ合わせてひとつの世界観を作ろうとしているようだが、理解ができないので全然先に進まない。
「まずい」と思っている料理を、「オレのテクニックはすごいだろ? ほら喰え、喰えっ!」と言われ続けているようで、だんだん不愉快になった。
我慢して読み切ってしまえば、何か理解できるものがあるかもしれないが、そんな義理も時間もないので、10ページで見切りをつけた。
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三島由紀夫賞受賞作品です。
出だしが分かりにくく挫折しそうでしたが、慣れたら無味乾燥な文体がストーリーに似合ってて、意外と楽しく読むことが出来ました。
凝ったストーリーが斬新だし、人類の歴史の捉え方も面白く感動したのでちょっとあらすじ書いちゃいます。。
アフリカの地で人類が誕生し、世界中に人類が行きわたり有色人種が先住民となって定住するまでが人類一周目の旅。
大航海時代が始まり、より高い文明を持つ白人が先住民を迫害し、権力を握る。白人同士も支配される側にならないために闘う。画一化を計り自分に有利な価値観を広めた欧米が勝利するまでが人類二周目の旅。
第二次世界大戦後、インターネットが普及して国境が意味をなさなくなり、科学技術が飛躍的に発展したことで人類は「彼ら」を生み出す・・・現代は人類三周目の旅に入ったところ。
「彼ら」が出現したら・・・
これが、10万年前にクロマニヨン人だった異常に知性が高い主人公が予想した人類の未来の歴史です。
実際人類はその通りに発展し、その時主人公は2度目の転生をする。ナチスドイツに捉われ餓死させられたユダヤ人として。
そして3度目の転生は現代の日本人。
1度目の人生を生きたクロマニヨン人が理想の恋人も想定していたのですが出逢うことが出来ず、2度目のユダヤ人も出会う前に死に、3度目の日本人が初めて10万年越しにそれらしき女性と知り合います。
まあこんな話なんですけど、現代の日本にいながらクロマニヨン人やユダヤ人だったころの記憶に飛んだり戻ったり、複雑だけどその浮遊感が気持ちよかったし、人類そのものを俯瞰する視点なんかは興奮しました。まさに時間旅行。
また、人類の歴史、特に経済的価値観について資本主義という世界共通のルールを定着させて勝者になった欧米が主役の2周目の旅は終わり、現代は人類が行き詰っている様はよく言い当てているなあと感心しました。3周目の旅に出現するであろう「彼ら」のことははっきり示されてないけれど、このままいくと人類は「彼ら」に支配されるのか!と少し怖くなりました。
タイトルからは想像できない意外な作品でしたが、面白かった!
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不思議な味わいのある小説.10万年前のクロマニヨン人の私に立ち返りながら現れる人格と私の恋人.人類の歴史をいくつかのターニングポイントで4つの流れに捉えている.実験的な意味では面白かったが,非常に読みづらかった.
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三島賞受賞作というが、本書がさほどの傑作なのかはよくわからない。
作者が本書で高橋陽平に語らせているのは、現代は「人類の旅」の3周目であるという文明論だ。
1周目は古代の人類伝播、2周目は2発の原爆投下で終わった西洋文明の伝播、3周目は現在進行中であるバーチャル空間の制覇というか、人工知能による人類文明の継承だ。
主人公の3度の生の時期がこれと重なるのは偶然ではない。
「人類の旅」をなぞる高橋の旅に同行するのは、主人公が第一の生から空想する理想の恋人か現出したとも思える女性だ。
主人公は第一の生において高橋理論を含包、凌駕する考察をしたと主張するが、現世での「理く想の恋人」との関係において、既にこの世を去った高橋に追い付くことができない。
なしくずしに、だが定期的に主人公の部屋を訪れる恋人。
主人公は恋人に対する自らの愛情に気づく。
定刻をゆうに過ぎても姿を見せない恋人。
主人公がその関係を諦めかけたその時、ドアノブが乱暴に音を立てる。
作者の文明論において、恋人は何を象徴するのか。ドアノブの音は何を示唆するか。
単に主人公と恋人との関係だけに留まらない何かがあるはずなのだが。
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「私の恋人」
#kinoppy
世界史を小説にしたような感じ。
歴史観はポメランツのようで、第1期が原始人が世界中に広がる過程、第2期はスペインの世界支配から原爆投下まで、第3期は今の経済的支配。なかなか面白い小説。
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この類いは書き手の妄想に付き合わねばならぬわけで読み手も体調を整えなければならぬのだが本作に限っては多少下痢気味のほうが力が抜けて読みやすい。
どこが三島由紀夫賞なのだと考えてみた結果そう言や豊饒の海は輪廻転生!と至って凡庸な結論にたどり着く。
ではジャンルは何?と問われればその昔クイズグランプリに文学歴史のジャンルがあってその30くらいなのだろうと答えるしかない…たぶんわかる人しかわからないだろうが。
竹を割ったような感想を書きたいのだが前歯で支那竹をぐじぐじするようなことしか書けぬのはつまりそういうことなのであろうな…
すまぬm(_ _)m