南方熊楠+伝奇SF
2024/12/30 16:38
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投稿者:タマミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
実在する博物学者、南方熊楠を主人公としたSF仮想歴史。
熊楠の主要な研究対象である、「粘菌」がキーとなって発明された「天皇機関」をめぐり、戦前昭和の偉人、怪人たちがドタバタ争奪戦を繰り広げる。
ちょっと「帝都物語」に似たテイストを感じた。
あの小説家が「探偵」として登場するのに驚き。終盤ではとんでもないゲストも登場する。
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柴田先生の魅力はわちゃわちゃ感にあるのではないかと感じた。それは今作で言えば天皇機関の見せる夢のわちゃわちゃ感、二・二六事件のお祭り騒ぎにおけるわちゃわちゃ感、『ニルヤの島』終盤のわちゃわちゃ感。彼の仕掛けるSF的なギミックによりあらゆるキャラクターや世界が翻弄されていく、その様に「生」を感じる。SF的ギミックそれ自体よりも、それを人々がどう受け入れていくのかに真髄がある。
本作に関しては惜しいかな、と感じた。非常に魅力的でドッタンバッタンなエンターテイメントとして楽しくは読めたが、1本のSFとしてはまとまりきっていない印象を受ける。天皇機関、という踏み込んだものを作成したはいいが、そこまで深くこの国の天皇制というものの在り方に切り込めたわけではなかった。あるべきは夢の世界と現実の対立ではなく、全能の機械人形を天皇に据えるべきなのか、そのときこの国の在り方はどう変わるのか、という議論だったのではなかろうか。もっとも、ただの粘菌でしかなかったはずの「少女」は果たして何を望んだのか、という命題も、それはそれで面白かったのは確かだが。
昭和伝奇ものとしても、比べるものではないとはわかってはいるが、似た構成を取る『屍者の帝国』がアフガンでワトソンとカラマーゾフを絡めるような納得感のある面白さがあったのに対し、本作はなぜその人物がその時期にそこにいたのか、という点がおざなりに感じることがあった。
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昭和初期、南方熊楠を中心として紡がれる壮大な因縁曼荼羅。
熊楠、乱歩を初めとする実在人物を、現実のエピソードを基に魅力的なキャラクターとして描く。
かつ、昭和天皇即位〜2・26事件の激動の日本を舞台とした血湧くSF展開。
夢久、PKディック、大槻ケンヂ、エヴァに通ずる奇想。
新元号1冊目の読書として申し分ない、大々満足の読書体験だった。
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予想外にこれも波動関数SFで、仏教の”因縁”で波動関数が収束するというストーリー。 宮沢賢治等、実在の人物が作中に出てくるのが面白い。しかしながら、登場人物のほとんどが男性で、その男性たちが少女の死体からオートマタを作るという流れにはアリガチ感が否めないのと、その罪に無自覚なのがまたアリガチ。なんでオートマタって大体少女の形態なんですかね…
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柴田勝家の最新作。
南方熊楠を主人公に据えた本書には、実在の様々な人物が登場し、縦横無尽に活躍している。何となく『帝都物語』を彷彿とさせるシチュエーションの伝奇SFだが、終盤、夢と現実の境目が曖昧になって行く様子なんかはサイバーパンク的でもある。
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1920年代~30年代を舞台にしたお話で、実在の人物である南方熊楠を主人公としています。人間の動作(右手を上げる、左足を上げるのような)を膨大な数粘菌に覚え込ませ、それを組み込んで自動人形を作ろうというお話。SFぽくもあり、和風ファンタジーぽくもあり。
結構ハチャメチャなお話です。幻想小説ぽくもあり、読む人は選ぶかもしれません。実在の人物が多数登場するので、歴史に詳しいと楽しいかも。
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知の巨人で変人の南方熊楠が、主流からハミ出してしまった異端の学者たちと一緒に、思考する粘菌を搭載した美少女生体カラクリ人形を作って世間をあっと言わせようと奮闘するお話。
後半からは敵キャラも登場してきて、戦前日本のオールスターが勢揃いする冒険活劇に。
作者独特のフワフワ感を残しつつも『高丘親王航海記』『帝都物語』『一九三四年冬–乱歩』の絶妙なブレンドを読んでいるかのようなテイストが心地よくて一気に読了してしまった。
自分的には福来博士のキャラ付けがすごく好きb(^^)
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今様「帝都物語」、あるいは、「學天則は粘菌エンジンで夢を見るか」、か…
SFだと思って読み始めると、なんだ落語か、と思っていると、お約束の量子論SFにシフトし、と、まぁこれも今様か。
(「死体人形」の時点でリアリティを失っているのだが、パンクな夢ならなんでもありなのかね…)
「チョウたちの時間」や「宝石泥棒」に感激していた昔なら狂喜したかもしれないけど、今さらこれ読んでもなぁ…
結論:
荒俣宏+奥泉光 < 柴田勝家、とはならず、残念。
(小さん師匠は登場しなかった、これまた残念)
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昭和初期の人物や事件をなぞりつつ粘菌コンピュータが完成したことで大事件に巻き込まれていきます。飄々とした描写と登場人物たちが動き回る様子は読んでいて気持ちの良いものでした。
そして粘菌です。粘菌好きなので粘菌がどうコンピュータになるのかなどの描写が最高です。粘菌コンピュータを通して人を人としているのは何かを考察していくのも良いですね。
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時は昭和2年。粘菌学者の南方熊楠は昭和孝幽学会という謎の団体に勧誘される。そこは、本流を外れた亜流の学者集団であった。自動人形"天皇機関"を作り上げ、天皇に献上することで自らの存在を知らしめようとする彼ら。南方は天皇機関の頭脳となる粘菌コンピューターを完成させるが、そこに革命家の陰謀が介入し事態は混沌を極めていく。
もしも昭和初期に粘菌によるAIが完成したら、という歴史改編SF。登場人物表を見れば江戸川乱歩や宮沢賢治など有名人の名前が並び、それを見ただけでもワクワクする。
また、著者は本書の内容について「きらら4コマ」に例えている。確かに宿場に集まって騒がしくも天皇機関を作り上げようとする様は、謎の文化部が舞台の日常系と言っても過言ではないかもしれない。(ただし、性別、年齢、鯨飲、吐瀉物には目をつむることにする。)
昭和初期の怪しいやつらオールスターゲームに並行して展開される現実の認識に関するSF的考察。いろいろ盛りだくさんで大満足の一冊です。
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南方熊楠、昭和2年―
粘菌コンピュータ搭載の自動人形「天皇機関」を発明。
上は帯の文句であるが、もうこの時点で最高である。
中身はというと戦前の名士オールスターが、ある陰謀と闘うドタバタSFと言う感じ。
あらゆる夢が入り交じる東京決戦のシーンは映画『パプリカ』を思い出すような凄まじいもの。
脳の中のあらゆる要素が一致したなら...なんて誰もが考えたことありそうな発想から夢・千里眼、粘菌コンピュータまで飛び出てくるいいSFでもあったし、
なんやかんやで最後キレイに締まって読後感もスッキリ。
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主人公が南方熊楠の帝都物語という印象。機関の出てくるシーンや幻想現実入り乱れる辺りは動画や映像で見たいなと思ったけれど、嘔吐脱糞シーンも多いのでやっぱり嫌だな。
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SF物は久しぶりに読んだ。南方熊楠が主人公。1860年〜1910年位までの実在の有名人がわんさか登場。2.26事件も絡み、最終対決の北一輝と南方熊楠との闘いは…という話。死体を使った生き人形を製作するまでには、たくさんの人が絡む。最終目的は違っても意思を持つ人形製作の情熱は本物。宮沢賢治、江戸川乱歩も登場。昭和初期に詳しい人ならより楽しめそう。
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え、戦国武将の名前のSF作家!? と著者の「映え」には数年前より惹かれていたが、要はオタクを突き詰めた結果なんだろうと、飛びつくことはなかった。
が、南方熊楠の歴史改変SFと来れば手を伸ばさざるを得ない。
真っ先に連想したのは荒俣宏「帝都物語」だが、実は小説も映画も未見で、藤原カムイや高橋葉介の漫画で読んだ・見た気になっていたのだ、と自分にびっくり。
また連想したのは、円城塔/伊藤計劃「屍者の帝国」、山田風太郎「魔界転生」映画化は深作欣二。
まずは南方熊楠が視点人物というのはほぼ一貫しているが、地の文に「私は」とか「俺は」とか書かれず、最低限「こちらは」とか。
敢えて語りのカメラ位置が少し浮いている、というか。
これにより、一人称なのに三人称に近づける、という独特の文体。
こんな手法もあったのだなと、まずは文体礼讃。
そして全体を通して(ネットで拾った文言だが、他に表現のしようがない)「昭和やべえやつらアベンジャーズ」。
稚気と研究心が駄々洩れの親父達(主に関西の。中央から締め出された)の祭り。
湯浅正明や今敏のカーニバル感覚・ドタバタ感覚に似ているので、「文豪ストレイドッグス」の余波を受けてアニメ化してくれないかなーと夢想。
個人的には、宮沢賢治が深層、江戸川乱歩が表層、というあたり、作者わかっているなーと鼻息を荒くしてしまう。
だいたい、登場する人物は皆、それぞれに研究者がついたり、それぞれで一冊どころか数冊研究書が成り立つくらいの、人物たち。贅沢な小説だ。
全体が3部に分かれており、1部における黒頭巾で顔を隠した匿名性が、徐々にほどかれていくという構成も、巧み。
結局はエヴァ的な人類補完計画っぽい話に落ち着くのだが、決して物足りないという感じはない。
乱歩の「夜の夢こそまこと」も例に漏れず、時間・空間・古今・東西を問わず、想像力の限界なのだろう、現実と夢というのは。
ちなみにタカハシヒロユキミツメのカバーイラストは、かなりよい。
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歴史改変ものが好きなら、是非オススメしたい一冊。スチームパンクではないし、話の核となるガジェットも全然違うけど、分かり易く言うなれば、昭和初期の日本で『屍者の帝国』をやっている感じ。この時代にもっと詳しければ、史実との違いを踏まえた上で楽しめたんだろうなぁ、とは思うけれど、物語を追うだけでも十分楽しめた。
設定や舞台が漂わせる浪漫のみならず、ときおりコミカルな(一方で文章の堅実さをかなぐりすてることもない)描写が顔を覗かせるのも、読んでいて面白かったポイント。
一方で、SFとしてどうか、と言われると、完成した天皇機関はともかくとして、もともと組み上げるつもりだった、粘菌とパンチカードを組み合わせた仕組みというのが、果してそれで歯車と上手く組み合って動くのか、という点で今一つピンと来なかった。現行の粘菌コンピュータを知らないから、或いは上手く想像が及ばなかったというだけかも知れないけれど。
ガジェット的なものに対しては、そういう感想を抱いた一方で、作中で取り扱われる観念の解釈・アプローチに関しては、非常に好ましく思った。オカルト的な要素をブラックボックスで終わらせず、理論的な仮設を立てて説明していく様子は、非常にSFらしいアプローチであったし、以前の仮定を踏まえた上で、新しい解釈を示し、やがて結論へと導いて行く構成は、理路整然としていて、腑に落ちた。
非常に読みやすく、一方で平易になり過ぎず、昭和初期の残り香のようなものを味わえる。派手な剣劇などはないが、大いに楽しめる歴史小説だった。