紙の本
先導者の帰還。
2023/03/06 00:00
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ファイト・クラブ」や「サバイバー」で資本主義や拝金主義に染まった現代社会を風刺し、自らの人生を社会や他者評価から奪還せよと私たちに訴えかけたチャック・パラニューク。
そんな彼の18年ぶりとなる新作長編である本作は上記二作同様、誰しもが見て見ぬふりをしている社会の暗部を抉り出し、我々が生きる今の時代を批評的に切り取って見せる。
しかし一方で上記二作とは異なり、本作は一人称で物語が語られるのではなく三人称視点で物語が綴られており、それによって過去作以上に社会に対する冷めた視線や諦観と共に共存する暴力への魅惑を感じることができるだろう。
そして何より三人称視点で物語を紡ぐことで、チャック・パラニューク史上最もミステリー要素を含んだ物語の構成を生み出すことに成功している。
厭世的で暴力的な表現からテロリズムを誘発する扇動者だと誤解されがちな彼だが、本作を読めばそうしたイメージは払拭されるはず。
社会に蔓延る欺瞞や不平等さ、心に傷を負い病んでしまった人間の抱える虚無感を的確かつシニカルに描く彼は、誰よりも先見性に富んだ作家であり先導者に他ならない。
突拍子もない人物設定とストーリーラインによって社会を批判し、自らの人生に対して生きた心地がしない人物たちに寄り添う彼の作品は、前作が刊行された18年が経った今なお我々に必須と言えるだろう。
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あ〜とか、う〜とか、思わず唸ってしまうほどの、陰鬱な描写や展開があり、精神的負荷がかかりすぎて、読み終わるのに時間がかかった。
その癖に、最後に謎の爽快感がある。
最悪なのに、最高。そんな変な小説。大好きです。
文は短く、テンポが良くて読みやすい。声に出して読みたい日本語。
フォスターとミッツィの運命が、段々と引き寄せられ、遂に交差する感じがたまらなかった。
途中で挟まる、謎の雑誌の内容に気づいた時や、見覚えのある描写が出てきた時、先の展開が予測された時、前のページに何度も戻り、確かめた。
待てよ、ロートンって…嘘だろ、そういうこと?
ん?真珠のネックレス…うわー。
え?シェローってもしかして…
フォスター、その先は地獄だぞ…
的な。
こんな身近で全部重なるわけないだろ、と思うかもしれないが、それは全部陰謀だから。
是非ハリウッドで映画化してください。
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面白くて一気読みした。作者は『ファイト・クラブ』の人。陰謀と暴力が渦巻くハリウッドを舞台に、天才的な音響効果技師と、かつて失踪した娘を探す父親二人の思惑が交錯する。攻撃的かつリズム感のある文体にあてられる狂騒と頽廃の文学。
人身売買、ダークウェブ、陰謀論と現代的で忌まわしいテーマを扱っており、所々の安直さや全体の暗さはおそらく意図的。
「世界は映画のように芝居ががかったものであり、映画とは理想の自己像だ。ならばこの世に一つでも"本物"といえるものはあるのだろうか?」
こういった作者の映画や小説に対するメタ的な視点が垣間見える、切れ味の鋭い作品に仕上がっている。
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完璧な悲鳴を作り出す音響技師と失踪した娘を追い求める男。2人が交錯する時に世界が大きく崩れ落ちる。恐怖や怒りの感情ですらも消費するために虚構を作り出す現代の資本主義社会の構図が、モチーフとして物語のあちこちにリバーブしている。カミソリのような鋭い描画と、骨を砕くハンマーのような動詞主体の文体が力強く物語っていた。
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割とエグいことが起きるがそれらはさらっと書かれていてすっきりとした読み心地。相変わらずの短いフレーズの繰り返し、殴り書きのようなテンションにピークではなる。終わり方が割と良いと思った。
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ストーリーはめっちゃ面白かった
読み終わっても理解できてない(説明されてない?)部分が残っちゃって、3章を読み直したけどあんまり分からなかった
ほんとうにロブとかドクターアマダーとかのサポートグループのメンバーは偽りで、〈ビッグ・ストア〉と呼ばれる悪の工作員なの?
ロブがフォスターに工作員として期待してる動きってなんなんだろう
オスカーの会場で、参加者が死ぬことを理解しながら、警備員に無理やり会場にぶち込まれるのはなんなんだろう
パニックルームの中でのロートンの話が好き
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チャック・パラニューク。この名前に反応してしまう。嘘だろ? と思う。あれからこの作家はどこで何をしていたのか? 何故、忘れた頃、今になってまた目の前に登場?
ぼくとしては現代における最も濃厚なこのノワール作家の日本語版翻訳は、なんと18年ぶりだと言う。本書では17年前に行方不明になった娘を探し続ける父親が出てくる。それよりもパラニューク自身が18年前に行方不明だったではないか。
なのでまずは18年前の自分を探しにゆく。あった。『ララバイ』のレビューが。読んでみると、驚いたことに本作『インヴェンション・オブ・サウンド』にそのまま適応できるレビューではないか。
「ある意味、作品をまたぐ共通項は存在する。現在の時制にこだわった悪夢的なリフレイン文章の挿入。豊富なイメージのコレクション。雑学の広がりと深まり。最初に衝撃と謎を置いてスタートする、スピーディでテンポのよい構成。伏線、また伏線、一見収集のつきそうにないストーリー展開を、最後に手際よく纏め、そして心を引っ掴んでゆく得体の知れない何か。」
「これはノワールである。類稀な破壊衝動と暴力とに満ち溢れた、世界最悪の物語だ。それでいてスタイリッシュ。綺麗でお洒落な作りであるところは、これまでと全然変わらない。しかしそれでも、負の迫力だけはやたらに強い。」
「だからこそ主人公の葛藤がある。だからこそ、戦いへの決意があり、必死がある。だからこそ、徒労がある。再生がある。愛がある。慈しみがある。世界は暴力に満ちていて、突然の死に満ちている。」
すべては本書にも言えること。パラニュークのすべての作品に言えること。
さて本書は、映画の音声を作り出す音響効果技師の女性ミッツィと、さらわれた娘を探しにダークウェブや少女売買の世界を彷徨う父親フォスターの二人の描写を交互に、それもとても頻繁に交互に視点を変えて描いてゆく物語だ。ミッツィは、音響効果の中でも悲鳴の専門家である。音を収集し増幅し、効果的に作り出す職業。一方、フォスターは、女優ブラッシュ・ジェントリーの手を借りて娘を探索する。映画やドラマという世界で二人の人生は交錯するのだろう。しかし、それは未だ先の話だ。二人の奇妙な行動を謎めいた暴力的な描写で表現しながら、パラニュークは物語ってゆく。
特別な人しか出演しないドラマ。平凡な人は登場しない小説。異常な闇のストリートを、個性の塊のような男たちと女たちが、喘ぐように彷徨する。物語の力をフルに起用して、彼らの航路は行き違い、波濤は創り破壊する。引き込まれるようにしてパラニュークのあまりに独自なイメージ世界を歩いてゆく独自で奇妙な読書体験。感覚でしか読めないかもしれない作品群。
18年ぶりの復活の狼煙が上がった。『ファイトクラブ』という破壊力のある映画で勇名を馳せた作家の復活の狼煙が。
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私の読んだ墓暴き小説の第三位です。ちなみに1位はスティーヴン・キングの『ダーク・ハーフ』、2位はチャド・ハーバックの『守備の極意』です。読んだすぐなので興奮冷めやまない状態ですので、少しおちついてから振り返りたいと思います。
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ストーリーが気になってどんどん読み進められました。えげつないシーンがこの後来る…!来るぞー…!と思ってると、サラッと流されたので、意外とさわやかに読めました。読み進めていくと、サラッと流されたのにも理由があって納得。
後半は風呂敷がどんどん広がっていった印象がありました。個人的には中盤くらいまでが面白く読めました。
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なに?これ?
一言で言うと、どこを目指しているのか、なにがいいたいのかわからない物語だったなぁ。登場人物だって少ないし、ややこしい関係性もないからわかりやすい筋書きなんだろうけれど、どうも理解しにくいお話だったな。
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娘を探し探す男と叫び声専門の音響技師の女。危険すぎる絶叫の演舞 #インヴェンションオブサウンド
■きっと読みたくなるレビュー
この本は凄い、そして危険。
おそらく次世代以降の価値観や芸術観で、本を読む力がないと理解できない(おそらく私も十分に理解できていない)。起承転結もあるミステリーではあるけど、イメージとしてはもはや純文です。
本作のスゴイところは、狂気、暴力性がテーマになりつつも、直接的な描写は少ないところ。そして丁寧な説明やプロットで提示してくれず、ただ場面場面や1on1の会話を提示してくる。
怒りや激情を荒々しく表現するのではなく、もはや狂気は日常となってとり憑かれてしまう。しかも読者をほっとさせてくれる瞬間は一片もなく、クレイジーな世界観に閉じ込められる。
その理由は主役である二人がヤバすぎるんです。
フォスター:娘をさらった犯人を捜している、復讐のために文字通り命を懸けている男。
ミッツィ:人の悲鳴の音源を生業とする、薬物中毒の女。
彼らの常によくわからない行動や暴力行為によって、読み手の価値観が歪ませられる。もはや正しさの判断基準がわからなくなってしまう、狂気と絶望が極まる作品でしたね。
しかしこの独特の表現力は圧巻です、パンキッシュな読書体験をぜひ。
■ぜっさん推しポイント
私はどこにでもいる平凡な一般人で、もちろんドラッグ、暴力、殺人などといった犯罪に関わったことはありません。まわりの人を不幸にしたくないですし、そもそも犯罪を犯すような勇気なんてありませんしね。
これまで数多くのミステリーで、殺人シーンを読んできたのですが、所詮はフィクションなのは分かってますし、作家先生も心情描写を丁寧に描くことはあっても、エグくは描きません。そのためリアルさは感じないんですよね。
ただ本書は違うんです。犯罪を犯す、人を殺めるというのは、こういう感じなのか… という、現実味のある体験ができてしまうのです。
貴重な経験をさせてもらえるんですが、なんともなんとも、恐ろしい本でした。
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すごく引き込まれて、ぐいぐい読めた。翻訳ものが苦手で、いつも読むのに手こずる私にしては驚くほどスムーズに。
だけど、終始、何が書かれているのかよくわからない。比喩は比喩なのだとわかるし、話の流れもわかるけど、何を書きたいのかがわからない。小説だからいいんだけど、荒唐無稽な印象が拭えなくて、どうしても入り込めない。でもとても、映画に向いてそうなストーリーだなと思う。
嫌いじゃないけど、むしろ好きかもしれないけど、なんだったんだこれ、って感じ。
作者の狙いとしては、成功しているのかな。
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パラニュークはいつ読んでも狂ってる。この何ともいえない余韻は彼にしか出せないと思う。いまだにジェネレーションX世代の作家の影響力は群を抜いている。
個人的にはイギリスのパラニュークとも言われている新鋭作家Will Carverの翻訳も見たいかな。ブレット・イーストン・エリスっぽくもあるらしいので興味がある。
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狂気の音響技師ミッツィ、行方不明の娘を探すフォスター二人の視点で進みながらその運命が交差する。共振による授賞式会場の崩壊という滅びの周辺でいくつもの謎が繋がっていく。なかなかスッと頭に入りにくいストーリーで最後までモヤモヤしながら読了。
悲鳴をそのまま音響にする、まんま殺人が普通に行われるのが気持ち悪かった。
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チャック・パラニューク18年ぶりの邦訳は彼らしい怒りと狂気に満ちていました
すごいです
なにがすごいって私チャック・パラニューク初読ですからね
初読で冒頭から「彼らしい」とか言っちゃってますからね
さすが通
そうね〜
分かる、分かるんだけどね
おそらくこの文体と余白が魅力なんだろうなって
これはがっちりした固定ファンがつくだろうなと思うし
読み取れなくはないんですよ
私だってね
通ですから
ただやっぱりもう少し説明してくれないと読んでて疲れちゃいます
脳の体力がある人向けの世界観だなぁって
倍くらいのボリュームでやってくれた方が読みやすいだろうけど
たぶんそれをやっちゃうとパラニュークじゃなくなっちゃうんだろうなぁ