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商品説明
半隠遁生活の中年教授・新月、若手有望研究者・間占、熱意満点大学院生・森々の三人が織りなす理論経済ワールド。これは知の冒険か、はたまたただの蒟蒻問答か? テンポよい戯曲形式で社会科学のあり方を問う異色作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
金子 守
- 略歴
- 〈金子守〉1950年東京都生まれ。東京工業大学大学院博士後期課程単位取得退学。理学博士。一橋大学経済学部助教授などを経て、現在、筑波大学社会工学系教授。
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紙の本
経済学とゲーム理論の根底からの洗い直し
2003/05/02 18:54
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:守屋淳 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ゲーム理論や経済学の現状に危機感を抱いた著者が、二つの学問で当たり前と信じられている前提を掘り起こしていくという、意欲溢れる一冊です。ヘンテコな題名に戯曲形式という一見軟派な外見ですが、実はこのためにハードな専門用語の飛び交う歯ごたえの強い内容ともなっています
前提を疑うことの面白い例としては、「完全競争経済」という概念。これをよくよく突き詰めて考えていくと、
《「完全競争経済」では、真に個性的な芸術・学問は許されない。さらに、「完全競争経済」では伝統的社会の束縛とも相容れない。なぜなら、社会の伝統や慣習は経済行動の実質的自由に束縛を与える。したがって、伝統的な美徳、例えば、友愛、誠実、信頼、勤勉、などは社会で尊ばれることもない》
という暗くて荒んだイヤーな社会になってしまうというのです。こんな社会を前提に物事考えている経済学って一体ナニって感じにもなりますよね……
表題にある「蒟蒻問答」も、ゲーム理論の前提を掘り起こすためのキーワードの一つに他なりません。
もともと「蒟蒻問答」とは、落語の傑作の一つで、二人の男が身振りだけの会話をするはめになり、一人は高尚な禅問答、もう一人は蒟蒻の話だと思っていて、まったく噛み合っていないのに、最後には双方が納得するという出し物のこと。
これがゲーム理論にどう関係するかというと、ゲーム理論の「人」や「プレーヤー」って、完全に理性的な人だったり、学習能力のない人なんかに措定されているんだけど、でも当たり前ですが現実にそんな人って存在しないですよね。逆に、蒟蒻問答みたいなことが頻繁に起こる方が現実に近かったりします。身近な例では、立場がまったく違う国同士——端的な例ではアメリカと北朝鮮——の駆け引きって、端から見ていると蒟蒻問答っぽかったりするし、学問の世界でも、ジャンルの違う学者同士が論争すると、お互いに「わかってないな、こいつは」と思い合って終るという蒟蒻問答パターンが結構あったりします。
つまり、蒟蒻問答みたいな新たな視点を導入して、ゲーム理論を根底から豊かにしていかないと学問的にダメになってしまうというが本書の危機感なのです。過激な口調を引用すれば、
《既存のゲーム理論を根本から問い直さずに、単に解釈し直したり、既存のものを組み合わせたり、といった新しい変種を作る研究はもう止めにしよう。それは産業廃棄物の山を増やすだけだ》
《産業廃棄物》というのは非常に強い表現ですが、それだけ著者がマジメな証でもあるわけです。ゲーム理論や経済学の現状を、批判的な解釈で知りたい方に、ぜひお薦めです。
(守屋淳/著述・翻訳業)