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この時彼女はまだ帽子をかぶっていなかった
2019/06/12 15:17
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第2回すばる文学賞受賞作。(1978年)
人はいつ青春のおわりに気づくのだろう。
あるいは、人はいつ自分の老いの予感に恐れるのだろう。
「夏が、終わろうとしていた。」という一行から始まる、このデビュー作を書いた時、作者である森瑤子は37歳の専業主婦だった。
そして、この物語の主人公ヨーコは35歳の主婦。英国人の夫と娘が一人。
「三十三歳を過ぎた頃から、自分はもう、若くはないのだ」という考えに捉われ始めた。
彼女を脅かしたのは肉体の衰えでなく、「精神の緊張感を失う」ことだった。
そして、「セックスを、反吐が出るまでやりぬいてみたい」と、数人の男たちと関係を持ち、この夏また新しい男と知り合う。
それがレイン。
関係を持つ最初から不安な感情に持ちながらもヨーコはレインに魅かれていく。
しかし、たった一つの嘘、結婚していないという嘘が、彼女を苦しめていく。
これは愛情なのか、それとも単なる情事なのか。
森瑤子はこの作品をきっかけにして人気作家の道を駆けのぼっていくのだが、おそらく彼女を支持したのもまた彼女が作品の中で描いたような女性たちだったのではないだろうか。
正確にいうならば、小説の主人公のような行動はとれないまでもそこに至る感情を共有した女性たちといっていいかもしれない。
本名伊藤雅代は「森瑤子」という名前とともに、たくさんの「ヨーコ」を読者にしたのだ。
そして、またちがった夏が、彼女に始まるのだが、それはもう本当の夏ではなかったにちがいない。
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文体がいい
最初の1ページが特に素敵
もちろん同じシチュエーションになったことはない
でも主人公と同じ年なんだよ
自分でビックリ
森さんの作品で好きなのは実はこれだけ(汗)
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おしゃれな大人の女の逢い引き、というイメージ。私には関係ない?かな。こんな小説ばかり読んでると、不倫もOKか?と錯覚してしまう。
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「情事」について。これが処女作っていうんだからスゴイ。どちらかというと2つ目の「欲望」が好き。
素直になれずにどんどん崩壊してゆく関係。そこに思わぬ悪魔のささやき。
欲望との葛藤〜結末まで、揺れ動く女性の心に切なくてもどかしくて、そして安堵。
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ねっとりと甘い。
心にささった棘からじわじわ膿がでてくるような
大人のけだるい甘さが漂っている。まだ腐りきってない濃厚で
でも鼻をそらすことのできない芳香。
ふと主人公の年代が自分とばっちりとかぶっているのに
気づいて愕然とする。こう展開のは、「大人」な空間故だと
思っていたのに、気がつけば自分もその領域にいる。
こういうシナリオが非日常に感じない
自分にちくんとする痛みを感じるのは、
この小説の主人公の気持ちがわかるというのは、
もうがむしゃらで青かった青春時代が終焉してしまったということだから。
でもね、会ったばかりの男がいくらスマートでも
美しくてもやんちゃでも、それを「愛」と言ってしまうのは
私は”逃げ”だと思うな。そういう状況に陥らせる
完全な大人になる直前のあせりを理解はしていても。
この種の甘さは飲み込めば飲み込むほど
乾いていくそういう種類のものだから。
週末に読む恋愛小説に、分別を知るつまらない(けど”良識的な”)
大和撫子をはなっから期待はしないけれど
(森瑤子だもの!)ぐらぐらと落ちる直前のところで、
はらはらさせながら最後のスパートにすらりともちこんだ
「誘惑」のほうが私は「情事」より好み。
やっぱりさ、女はいくらいい男でも簡単に寝てしまってはだめなのよ。
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誰かを愛する事
愛して愛してどうしようもなくなる事
愚かな事
えげつない事
切ない事
めくるめいて悦ばしい事
秘めて苦しい事
官能にうちふるえる事
そんな事のひとつひとつが、
研がれた美しいナイフのように
体の細部を突いてくる
野生の獰猛のごとく
体中をすばやくめぐる
情事のごとく耽溺しぬきたい小説
忘れ得ない一冊
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女、それを持て余しながら生きていく事。
女としての盛りを過ぎた後、どう生きるか。
若い頃は自分が30代になる事すら100年後のように思えた。
欲望が沈んだ澱のようにくすぶり続ける30代。
女について書いた作品。
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森瑤子を読み漁ろう月間。
大絶賛開催中。
実は、2度目の読了。
普段、本を読み返さない派の自分が珍しく再読させて頂きました。
やはり、濃厚。そして、何年も前に読んだのに、自分がいかにこの本に影響を受けていたのか、改めて実感させられました。
美しくて、濃厚で、素晴らしくて、決して取り戻せない、そんな小説。
何十回とある衝動のうち、たった1回だけを実行に移すとするわね。今度は、あなたの都合のことを考えて、後込みしてしまうわ。
――電話で、迷惑そうな声を聞きたくないの。
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30歳過ぎの既婚キャリアウーマンは、夫子が週末別荘へ行くのを狙って浮気をする。女として夫から見てもらえない不満から別の男へ走ってしまう。でも、夫子が一番大事であるからばれる前に別れてしまうが、その期間の愛情は激しく思う。これが本当の女心だと思う。
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森瑤子さんは、私が読書を始めた頃すでに売れっ子作家になっていたけど、年齢的に大人の恋愛ものというジャンルに手が出ず、読まないうちにお亡くなりになってしまった。
年齢を重ねて、恋愛ものも好んで読むようになり、今になって読んでみると、作品の空気がバブルの頃といった感があるものの、表現は繊細だし、関係が醒めてきている夫婦の閉塞感が伝わってくる。
「誘惑」の夫婦は、ラスト修復の可能性が見えてきているけど、あれで本当に修復できるのか疑問を感じますねえ……。
「情事」「誘惑」とも夫がイギリス人で、やけに外人の登場人物が多いんだけど、それがこの作家さんの特徴なのだろうか?
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この当時としてはセンセーショナルだっただろうな・・・と察しますが、いつの時代も女性とはこんな気持ちになるのかなと感じます。
読み終えるとお腹いっぱいになりますが、背景の景色や描写のさわやかさに助けられます。
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『情事』『誘惑』の二編。森瑶子さんを初めて読む。主人公が女性であり、女性目線であることがまた男性とは違う恋愛(浮気)感情を綴る。
登場人物がイギリス人である設定と美しい文章の表現が情景を一層浮世離れさせているのかもしれない。
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表題作の「情事」のほか、「誘惑」を収録しています。
「情事」は、夫がいるにもかかわらず、レイン・ゴードンという男性に惹かれ、彼にも激しく求められる洋子という女性の心情を描いています。「誘惑」は、夫婦の間に深い溝が生じたまま、夫の実家に帰ることになった妻の物語です。
どちらの作品も、イギリス人の夫を持つ美しい日本人の女性が、男たちの熱い視線を集めることができる残された時間を思いながら、別の男性にときめきを覚えるシーンを印象的に切り取って描写しています。
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結婚生活が不幸だ、もう女性としての賞味期限が終わる、とそんな理屈で夫以外の男に簡単に抱かれる女性が出てくる二編。こういう情念は理解できるし、別に夫側の視点じゃなくて彼女たちの情人側の視点で読めばいいのに、どうしてもなんかそうできずにしっくりと読めなかった。結婚を選んだ2人がすれ違っていく心理描写がとてもリアルで上手だった。特に「誘惑」では、なんだこの女って思える「情事」よりもとても良く描かれてると思った。しかし欧米人と結婚する日本人女性ってモチーフが好きな作家だなあと思った。面白かったんだけど、好きでは無い作品。
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とても好きな本
言葉が綺麗でラジオみたいにスラスラ入ってくる。
作者を好きになって、他の本も集めました。