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商品説明
利権、暴力、ナショナリズム…。権力がうごめくこの世界をどのように読み、生きるのか? 権力の問題を、私たちをとりまく現代世界の状況と、ミシェル・フーコーの権力分析をめぐる理論的考察の2つの側面から論じ、考察する。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
萱野 稔人
- 略歴
- 〈萱野稔人〉1970年生まれ。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。津田塾大学国際関係学科准教授。著書に「国家とはなにか」「カネと暴力の系譜学」など。
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紙の本
ブルースは加速していく
2007/08/24 01:08
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
そんな青い歌声がまだ街角に流れていた頃、会話が煮詰まってしまい、ふと思い出した、下記のようなうろ覚えのアイヌの昔話をしてお茶をにごしたことがあった。
「昔、熊になった女の子か、女の子になった熊、を裏切って。呪われた男が、こんな罰を与えられたんだってさ。上半身を思い切り前方にかがめられてしまうんだ。男の口が自分の尻の穴にくっつくほど。その後一生その男は、そうやって自分で出したものを食って生きていかなきゃならなくなった。飢えることはないんだ。でも食べ続けなきゃならない」引かれました。
本書読了後、その昔話(自分が勝手に捏造したかもしれぬ)の男の姿が思い浮かんだ。
本書は序論・状況1・状況2・理論の4部から構成されている。
「序論」においては、国家権力と切り離されて捉えられがちだった、フーコーの「権力論」:「身体の政治的テクノロジー」(身体をとりまく戦略的で工学的な仕掛けのもたらす権力:例えば「メタボリック」の現在の拡がりだろうか?)と法に基づく暴力(に対する合意の確保)を主導力とする国家権力が、別の水準に位置しながらも、互いに補完しあっていることを、平易かつ丁寧な、端的に言えば漢字や造語が少ない文章で解説する。
「状況1」、においては、アメリカの対テロ戦争下の状況を「通常の法が執行停止される」例外状況として捉え直し、ヨーロッパに代表される主権国家システム(まず国境が存在し、それを挟んで主権国家同士が対立するという枠組)とは根本的に異質な、脱国境的なアメリカの「例外的」本質を指摘する(なぜキューバに米軍のあのグアンタナモ基地:収容所が存在するのか?)。その「例外的」アメリカと、「死の恐怖」を中心として構成される欧米的価値観と根本的に対立するかのように語られてしまう「自爆テロ」を行う人々の「例外性」がどのように絡み合っているのかを分析する。それに続く章では、その「例外的」アメリカを中心としたグローバリゼーションの進行に対応した、小泉前首相「郵政民営化」に代表される「構造改革」をイラク等における「戦争の民営化」にも通底する「権力の再編成と利権の回路の再配置をめぐるひとつの運動」として、批判的に捉えている。
「状況2」、においては、「フランス暴動」→「サルコジ政権」に代表される、自らの失われつつある拠り所を、自らを排除しつつある国家そのもの:ナショナリズムに求めざるをえなくなっている人々自身が支え、現在ヨーロッパにおいて、勢力を増している、左右を問わない「ポピュリズム」がどのように機能しているかを、諸国の情勢を踏まえたうえで、分析する。 「理論」、においては、フーコーにおける「知」と「権力」を巡る理論を、諸事情もあって難解であることでしられる「知の考古学」に取り組み、明快かつ簡潔にそのエッセンスを腑分けすることを試みている。(ただ本章はさすがに他の章とは異なり、難解である。個人的な理解力の限界だと思う。ただこのような、正面からフーコーに取り組んで、ここまでかみ砕き、かつ、マジックワードに逃げ込まない論考は、これまで読んだことのないタイプのものだった。)
フーコーという名が気になっている、特に若くて元気な方には、お勧めしたい一冊です。
しかし、上記の昔話ではないが、本書が描き出す、この「全体」に「呪われている」ようにも思える、閉じた「回路」としての世界を、このように明快に提示されると、正直たじろいでしまう。
たぶん。心の弱さが。「誰か」に呪われていると考えたがり、その「誰か」を特定しようと走り出してしまうのだ。それが熊であれ女の子であれ、熊になった女の子であれ、女の子になった熊であれ。あのアイヌの昔話のオリジナルを読んだのは、確か「ひとつぶのサッチポロ」という本で、だったと思う。