紙の本
ミトコンドリアが関係する生命現象を総合的かつ体系的に解説した書
2008/05/04 14:02
12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミトコンドリアが関係する生命現象を、量子生物学、分子生物学、生化学、細菌学、生理学、病理学、進化論とあらゆる分野から、総合的かつ体系的に解説した書である。細胞内小器官のミトコンドリアが、本来は独立の細菌であり、寄生したか飲み込まれたかして共生し、本来持っていた多くのDNAが核に移動したということが、定説になっている。この事実が、真核生物の発生、多細胞生物の進化、雌雄による両性生殖の発生、および老化とどのような関係があるのか、を解説している。
最先端の科学は細かく分科しており、同じ生物学の研究者といえども専門分野が違えば、互いの研究内容を理解することも容易ではない。このように幅広い研究分野にわたってそれぞれの内容を理解し、それらの関係を体系化して、これまでに分かったこととあいまいなこと、いろいろな仮説と検証について、素人に理解させるということは、大変な労力である。著者の精進と労苦とに感謝したい。
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ミトコンドリアを主軸にしたワクワクする進化生物学の一冊
2015/10/30 04:46
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:梨生菜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
実のところ、「ミトコンドリアが進化を決めた」っていうタイトル見たとき、一体全体ミトコンドリアが進化を決めるって何じゃろな、なんかトンデモがかった新奇な進化学説でも開陳されるのじゃなかろか、という一抹の不安が脳裏に浮かびました。ところがどっこい、読んでみると、なかなかどうして極めてまっとうな進化生物学の本じゃありませんか。
細菌は生体エネルギーの生成(ATP合成)を細胞膜面で行うしかないから、比較的小さなサイズで、また小さなゲノムをすばやく複製し、分裂して個体数を増殖するほうが有利である。こうした選択圧がかかるため、細菌は大型化できないし、比較的小さなゲノムをもつ単純な生物以上には進化できない。こうした進化の壁を破って、千変万化な真核生物へと進化するためには、古細菌のメタン菌が好気性の真正細菌の共生し、さらに細胞内共生によってミトコンドリアという好気呼吸器官を獲得するという珍事(特異事象)がなければならなかったというのが、この本の一番の主張なのだろうと思います。これによって、真核生物はミトコンドリアというエネルギー生成エンジンを内部に多数抱えエネルギー効率を高めて大型化し、細胞壁を脱ぎ捨て活動的になりました。また大きなゲノムを蓄積できるようになり、多様化し更には多細胞生物への道を切り開くことができたのです。「ミトコンドリアが進化を決めた」という邦題は、このことを表しているのだと思えば、合点がいきます。
この本はさらに、細胞の自死ともいうべきアポトーシスがどのように獲得されたか、ミトコンドリアにとどまっている遺伝子があるのはなぜか、非対称な雌雄という二つの性があるのはなぜか、哺乳類や鳥類の内温性はどのように生じたか、老化という現象がおこるのはなぜか、そうした話題をミトコンドリアを軸に説得力のあるやりかたで解き明かします。
凄腕のシェフが鮮やかな手さばきで調理して出されたコース料理のような、ワクワク感のある説得力のある本でした。
ただ、この本は一応ポピュラー・サイエンスというジャンルに属すると思いますが、なかなか手強い本で、生化学や細胞生物学の基礎知識(たぶん高校の生物学くらいの)はあったほうが楽しめます。
紙の本
ミトコンドリア
2020/07/20 13:44
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投稿者:ペンギン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミトコンドリアって、実はスゴいんだな。私自身、真核生物でありながら全然知らなかったよ。彼らのおかげで進化したんだから、もっと感謝しよう。ありがとう(合掌)。
まあ、老化とか有限の生とか嬉しくないのも一緒についてくるけどしかたない。人生が有限で辛くても、老化が辛くてもないよりましだ。老いるくらい長生きできるのは幸せと思わないといけない。
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みすずブランドで購入したのだが、手に余る。いつかは読みたい。おそらく良書だろう。みすず書房の名前には弱い。
未読。
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出会わないはずの好気性細菌と嫌気性の古細菌が共生を始めたことが複雑な真核生物とその繁栄の始まりだった。
従来のミトコンドリア共生説の難点を克服し、ミトコンドリアの存在が真核生物に
必須であるとする「水素仮説」と多細胞化、性別と有性生殖の出現にも
ミトコンドリアが深くかかわったという斬新な説を提唱している。
さらに恒温動物の進化とその中でも比較的長命な生物とそうでないものがいる理由
を呼吸により発生するエネルギーをうまく熱として放散できるか否か、という点に帰着させ長寿研究の方向性にこれまでにない指針を与える。
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生命進化を「操る」したたかなミトコンドリアの論理を手がかりとして、生命の起源から人類の現在までの40億年を語り切ってしまうダイナミックな科学書。われわれヒトを含むすべての真核生物の誕生を可能にしたのは、ミトコンドリアの内部共生という進化史上の特異事象だった。以来、多細胞化や、複雑な形態など生物の際立った特徴が、内部共生体ミトコンドリアとその宿主である細胞の、ほかに類例のない進化戦略の結果として生じてきたといえる。さらに著者は周到な議論によって、生命の起源、性の起源、老化の原因など、進化の主要な問題にミトコンドリアが果たす決定的な役割を明らかにする
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3年かけてやっと読了した。テーマとしては面白く手に取ったのだが、専門的な本なので、完全に理解したとは言えない。よく理解できなかった用語が沢山あった。でも、何となく分かったような気がするところもある。
生物にとっての様々な謎にミトコンドリアが深くかかわっているのだなということがよく分かった。
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この手の読み物には惹かれる性質(たち)である。
いわゆる「文系」人間なのだが
「文系」だからだろうか
物理学とか生物学が哲学的に首を傾げてつぶやくテーマに惹かれる
ボクってナニ、セカイってナニ
そんな問いへの考え方が好きなので
そしてたぶん、
イワユル理系とよばれている学問のメソドロジーが合わないのだろう
閑話休題
2つの細胞の共存から始まった
ミトコンドリアと真核細胞との不思議な共生
真核細胞にくるっと囲まれて
エンジン役になって
細胞の大型化と複雑化を促して
寄主の死までツカサドル
読みながら、わくわくできる
表現が分かりやすく、生物学が分からない人にも楽しく読める一冊。
ただ、最後の「老い」の章はなぜか読めなかった
読む気が湧いてこなかった
誕生とか変化とか、そして死とか
そこまでは関心があったのに
まだ食指が伸びないテーマなのかな。「老い」って。
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四六判サイズで460ページもある厚い本、しかも、8ポイントくらいの小さいフォントで
びっしり書かれています。
まだ、40ページしか読んでませんが、正直、難しくてサッパリわかりません。
でも、異分野を知ることで脳の活性化ができるとか、なので頑張ってます。
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第1部 ホープフル・モンスター
第2部 生命力
第3部 内部取引
第4部 べき乗則
第5部 殺人か自殺か
第6部 両性の闘い
第7部 生命の時計
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ミトコンドリアマニアにはたまらない一冊。あなたをヤル気を生み出すのはまさにミトコンドリアそのものなのだ。
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これまで読んだ本の中でも最も難しい本のひとつであることは間違いない。読み応えがある、というレベルを超えている。それにも関わらず、先を読まないといけない、と思わせる力をこの本は持っている。生命の起源の真実がまさしくこの先にあるよ、と魅惑的に誘ってからだ。DNAによるセントラルドグマだけでは説明できない生命のミッシングリンクを、ミトコンドリアの論理と物語が埋めてくれるように思わせぶりなしぐさで語る。
原題は"Power, Sex, Suicide - Mitochondria and the Meaning of Life"。すごいタイトルだ。邦題も悪くないが、この原題は、生体が利用するエネルギー生成、有性生殖、老化と寿命、という重大な謎にミトコンドリアが深く関わっていることがストレートに表現されている。そしてタイトルの最後の"Meaning of Life" ― 生命の意味 ― は、著者がこの本の最後に持ってきた言葉でもある。突き詰めていうと、生命の意味の探求がこの本の目的と言ってもいいだろう。何よりも、性と老化というわれわれを悩ませるものの起源とメカニズムをその根源から解明しようとする意志を感じることができる。老化にいたっては著者が考えるいくつかの解決案まで提示されている。
そもそも、これまでミトコンドリアについて学校で習ってきたのは、それが内側にひだをもった袋状のもので、エネルギー生成の源になっているということくらいだ。こんなにも生命にとって本質的なものだとは思わなかった。「ミトコンドリアのイブ」によって、その母系遺伝の性質が注目を浴びたこともあったが、ミトコンドリアはその有名な逸話よりももっと根源的な形でわれわれ生命というものを規定しているというのが本書で示されている命題だ。
著者は冒頭で「ミトコンドリアは、開きかけた秘密の箱だ」(P.2)と告げる。多くの価値と意味がそこに詰まっているが、それが何であるかまだ完全には分かっていないが、いま分かりつつあるとことを本書で示している。そういったミトコンドリアの世界を著者は懇切丁寧に説明してくれている。それでも半分も理解できないのであるが、きっとそれは自分のせいなんだろうとくらいは思ってしまうくらい熱が入っている。著者だって「本書の一部は必然的に難解になった」とか、「細胞生物学の基礎は知っていることを前提とせざるをえなかった」とも言っている。自分もATP(アデノシン三リン酸)なんて基礎的な用語も高校時代の生物の授業で習ったかなとおぼろげに思い出したくらいだし、フリーラジカルや呼吸鎖と言われてもさっぱりわからなかった。ただ、そうした基礎的知識不足が理由で理解が困難であったとしても、この本は苦労をして読む価値があると断言できる。
生物進化上において、ミトコンドリアのポジションを特別なものにしているのは、それが真核細胞の誕生を可能にしたからだ。真核生物の誕生は、細菌や古細菌からの大きな進化上のステップだ。どの真核生物もミトコンドリアを現在持つか、過去に持っていたという事実は、ミトコンドリアの獲得が生物進化の上でのたった一回の出来ごとだったということを示している。そのことから細菌がミトコンドリアを得て真核細胞となったのはあまりにも幸運で貴重な出来事であったと結論付���られる。
そして、細菌がミトコンドリアを受け入れたそのとき、多細胞のコロニーとしての生命は有性生殖と老化と死を不可避的に受け入れることになったのだ。
そのあたりのロジックは実際にこの本にあたってほしい。生命に関する科学的見解を、その生命のひとつであるもの ― われわれ人間 ― が理解しようとしているのは感慨深い。そして科学的知見をわれわれが総動員をした今でも、果たして生命の意味とは何なのだろうかというのは謎のままだ。その上で、われわれは著者の本書の最後に置かれた次のメッセージを真摯に受け止める必要がある。
「ミトコンドリアは、なぜエネルギーを消費する温血動物が環境の足かせをかなぐり捨てて登場したのか、なぜわれわれが性の営みを行い、ふたつの性をもち、子をもうけるのか、なぜ恋愛をするのかを教えてくれる。そのうえ、この世で暮らす日々には限界があり、最後には年老いて死んでしまう理由も明らかにしてくれる。どうしたら晩年がより良いものになり、人を苦しめる悲惨な老化を食い止められるのかもわかる。生命の意味はわからなくても、せめてそのおぼろげな形はわかる。それがわからなければ、この世界でそもそも意味とは何だろう? 」
せっかくそこにおぼろげなる形があり、その形を見せようとするものがあるのだから、それを見るようにするべきではないだろうか。ニック・レーンはもっと読まれるべきだと思う。
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[ 内容 ]
生命進化を「操る」したたかなミトコンドリアの論理を手がかりとして、生命の起源から人類の現在までの40億年を語り切ってしまうダイナミックな科学書。
われわれヒトを含むすべての真核生物の誕生を可能にしたのは、ミトコンドリアの内部共生という進化史上の特異事象だった。
以来、多細胞化や、複雑な形態など生物の際立った特徴が、内部共生体ミトコンドリアとその宿主である細胞の、ほかに類例のない進化戦略の結果として生じてきたといえる。
さらに著者は周到な議論によって、生命の起源、性の起源、老化の原因など、進化の主要な問題にミトコンドリアが果たす決定的な役割を明らかにする。
[ 目次 ]
第1部 ホープフル・モンスター―真核細胞の起源
第2部 生命力―プロトン・パワーと生命の起源
第3部 内部取引―複雑さのもと
第4部 べき乗則―サイズと、複雑さの上り坂
第5部 殺人か自殺か―波乱に満ちた個体の誕生
第6部 両性の闘い―先史時代の人類と、性の本質
第7部 生命の時計―なぜミトコンドリアはついにはわれわれを殺すのか
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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原題は、"power, sex, suicide"と刺激的。だが、直接的に人間や社会の「権力、性、自殺」についての本ではなく、生命進化における、「エネルギー、性の発生、細胞と個体の死」の話。そして、それらはすべて、ミトコンドリアの役割であるとのこと。
個人的には、生命の謎は、いくつかあって、
a. そもそも何故生命が発生したのか
b. なぜ、細胞が集まって多細胞の生物ができたのか
c. そしてそれが、人間という知性を持つまでかくも複雑に進化できたのか
というもの。どれも、確率的には限りなく低そうで、インテリジェント・デザイン論者であれば、ダーウィン的なランダムな進化では無理であることの根拠になる。
ハードコアなダーウィン主義者のドーキンスも、aの確率の低さには同意する。が、aが偶然に偶然が重なったものとするなら、さらにbやcまでが偶然というのは説得力がないと考え、aが生じれば、必然的に漸進的な変化と自然淘汰で、bやcは必然的に生じるとする。
しかしながら、その辺の議論、かなり怪しい気がしていた。
で、この本、従来の核DNA至上主義を改め、ミトコンドリア至上主義というか、少なくとも核DNAとミトコンドリアの相互作用のなかで生物の仕組みを考える。
そして、生物進化の重要なステップであり、従来のDNA至上主義的進化論では説明できない不可解なステップ、真核細胞の誕生、多細胞生物の誕生、性の発生は、ミトコンドリアの役割なしにはあり得なかったとする。
ドーキンスなんかの進化論より、圧倒的に説得力があって、かなり説得された。
とはいえ、かなりこの本、難しいというか、読みにくい。つまり、最新の結果をもとに分かりやすく説明していくというスタイルではなく、ミトコンドリアに関する学説の発展に伴って、ある説が提示され、それに対する批判がなされ、それを乗り越える新しい説や実験がでてきて、というプロセスに沿って書かれているのだ。素人にとっては、いろいろな説の違いが正直いって、よく分からなかったりする。
もう少し、この分野の本を読んだあとで、再読すると、科学の発展していくリアルな思考プロセスがスリリングに思えるかもしれないけど。
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ミトコンドリア。それは複雑な真核生物に備わる細胞小器官の一つで、生体エネルギーのほぼすべてを生み出す重要なパーツであり、そしてその起源はかつて我々の祖先真核生物に取り込まれた自由生活性の細菌である。。。という従来の常識?を大幅にアップデートし、新たな生命進化の物語を語りきってしまう壮大な啓蒙科学書。ミトコンドリアは我々の”重要なパーツ”なのでは全くなく、我々(複雑な真核生物)の起源そのものであり、(もとは単純な細菌にもかかわらず)複雑な多細胞生物に進化するために必須な諸要素の源であり、我々の祖先が取り込んだのではなく“共生関係”からスタートしたという本。原始真核生物がミトコンドリアの祖先を取り込んではなく、我々はミトコンドリアの祖先と共生することが真核生物に進化する必要な条件であった。そしてその共生は生命の歴史の中でただ一度しか生じなかった稀有な出来事(その意味では生命の誕生と同等の意味を持つ)で、それがあったからこそ複雑な多細胞生物が進化できた。(細菌と古細菌は40億年その形態を変えておらず、小さく単純なままである。一方彼らに20億年遅れて誕生した真核生物は、複雑極まりないシステムを進化させている。なぜ細菌と古細菌はは40億年も元の形態を維持し、真核生物は絶えず形を変えて複雑化してきたのか。ということもエネルギーを鍵にして説明している。)そして、我々が複雑な多細胞生物に進化するために必要な諸要素がどのようにミトコンドリアから与えられたかも全く意外だが著者のスケールは大きいが緻密なロジックの組み立てにより非常に説得力を持った記述が展開される。その諸要素とはなんと(ご存知エネルギーに加え)有性生殖と死という我々の背負う運命そのものであるという事実は、分子生物学の本に哲学的な色合いをも付与している。