紙の本
ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション
2011/05/01 16:02
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
このようなタイトルと内容の本は「ビジネス書」としてレビューされることはあまりないだろう。だが、本書はすぐれた「ビジネス・ノンフィクション」である。読んで損はないというよりも、企業人であれば読む価値のある本だといってよい。
なぜなら、ビジネスパーソンにとっては関心の深いポイントが網羅されているからだ。オーナー企業の本質、ドライな経営と持たざる経営の意味、サプライチェーンからみた経営、スペインのZARAと比較して知るユニクロのビジネスモデルの違いなど、強みと弱みの両面を知ることで、読んでいてアタマの整理になる内容である。
物流業界紙の記者という経験をもっている著者の視点は、オモテからは見えないが、きわめて重要な存在である物流(ロジスティックス)を熟知していることからくる強みがある。
著者の名を高めたビジネス・ノンフィクション『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(2005年)では、著者は現場で半年間働くという体験取材をしてアマゾンのロジスティックスの現場の意味を明らかにしている。
だが、本書ではユニクロの店頭やバックヤードで働くという体験取材を行っていないのが、ちょっと残念な感じもしないではない。もっとも、ユニクロの場合は、アマゾンのようなネットショップというよりも実店舗が中心なので、実際に店舗にいって観察していれば、読者もある程度までは推測することはできるということだろう。
そのかわりというわけではないだろうが、著者はユニクロの「SPA(製造小売)というビジネスモデル」において重要な意味をもつ中国工場への独自取材を敢行している。
中国にかんしては、『中国貧困絶望工場』(2008年)の著者アレクサンドラ・ハーニーのコメントも入っているが、中国での委託製造モデルに限界が見えていることは、ユニクロ自身もとうに気がついているはずである。いまの中国の現実は、アレクサンドラ・ハーニーの本が出版された当時よりも、さらに先をいっているからだ。
著者の取材にはユニクロ会長の柳井正氏自身も応じており、包み隠さず語っている質疑応答の内容は第8章に詳述されており実に興味深い。本書全体を読んで、著者の解釈に賛成するか、あるいは違和感を感じるか、ここから先は読者の判断次第である。
質の高いビジネス・ノンフィクションとして、ぜひ読むことを薦めたい。
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見かけた瞬間からとても興味をそそられた本。優良企業と名だたるユニクロの影の部分に興味があったし、あの柳井氏でさえ後継者の育成ができていないその根源の問題は何かということが知りたかったということもあります。社員育成や後継者の姿勢に対する柳井氏の言い分もわかりますが、少なくとも今はそれでは現実的ではないように感じます。自分の主義・主張・こだわりと現実との開きをどこで妥協し調整するかというのことも承継する側の人間にとって必要なのではないか。自分の考えを周りを調和させ妥協しアレンジしていくことはひどく難しいことなのだと思います。とは言ってもいつかは誰かが引き継ぐことになるのであろうから、そうなったときにユニクロがどう変わっていくのかに興味がありますが、しかし本当の新・ユニクロは柳井さんの目の黒いうちは難しいのかもしれないと感じました。
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ユニクロと柳井正の裏側。
ワンマンだろうが、正社員の比率が低かろうが、柳井さんの好きにやればいいじゃんと思った。
でも、この人のやりたい事って、ただ会社を大きくするってだけなのかしら、凡人にはわからないわ。
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切り詰めた人件費だけで利益をあげてる、という意見一辺倒にならないギリギリの線。とはいえ発見も多かった。
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実は昔ユニクロでバイトしてた自分。
退社後だいぶ経ってからこの本を見かけて読んでみました。
僕が働いていたのはいわゆるフリースブームよりもずっと後の時期でした。
この本は前半が柳井氏の考え方について、主に「一勝九敗」、「成功は一日で捨て去れ」からの引用を多く交えて語られています。
メインは後半にあると言ってもいいでしょう。
まさにユニクロの「闇」と定義されている部分。
全国に広がるユニクロ店舗の店長、アルバイトや中国にある工場で働く人たちの過酷な労働環境。
自分が働いていたときには意識していませんでしたが、今この本を読んであの時の店長の気持ちが少しわかった気がします。
そういう闇を抱えつつもなお繁栄し続けているユニクロという企業の、
ソフトパワーというか、魅力を感じさせることが上手な性格というものについて深く考えさせるきっかけを与えてくれる本ではないでしょうか。
ただ、自分が働いていたときにも感じましたが、
いわゆるワーカホリックな人たちには最適な企業ではないかと感じます。
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今の日本経済を席巻しているのは、間違いなく孫正義とこの柳井正である。彼がどんな思いでユニクロを経営しており、そして何を目的としているのかが、この本からは読み取れる。本の中で特に印象に残ったのが、人件費をできるだけ抑えるという合理的なシステムと、もうひとつが彼自身の性格にかかわる部分である。固定コストとしてかさむ人件費を抑えることが、会社を発展させる上では欠かせないと述べており、そのためのマニュアル作りから、成果への処遇を含め、確固としたものになりつつあるように思えた。性格に関する言及は、友達が少ないことやなぜか腹を割って話せないなど、どこか自分にも似たようなところがあるようで個人的には違和感を感じなかったのだが、それが部下からの関係・信頼という点を踏まえると、やっぱり難しいのだなと思えてしまった。リーダーは孤独でかつ、その環境を楽しまなくてはならない。利益を出し続けることこそが企業の生きる意味であり、過去の失敗から多くのことを学ばなければならない。企業を去った者は悪く言い、そこで正当な評価を受けている者はそう多くを語らない。今後10年、20年過ぎたときに、ユニクロがどんな成長曲線を描いており、世界の中でどんな立ち位置にいるのかが良くも悪くも楽しみである。
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★なんだか粗い★立ち読みでざっと。ユニクロの影(光はあまりない)に焦点を絞る。山口時代の生い立ちや元店長らにも取材をしているが、なんだか肝心なところがごっそり抜けている気がする。柳井氏本人には1回しか会えていないし、取り巻きや過去の取り巻きにも話を聞けていない。話すと柳井氏から徹底的にいたぶられるから口をみな開かないというが、それを聞いてこその書籍のはず。最後の2章はユニクロの中国の委託工場とザラがそれまでの流れを切って登場する。海外にも取材に行きました、というのは分かるけれど…
【追記】20110501の朝日新聞での山形浩生の書評で、嫌味たっぷりに褒められていた。中国の事業者いじめは優れた労務管理、店舗の抜き打ち検査は店舗管理であり、著者は否定的に評価するが、見方を変えればひねりすぎた称賛本にすら見えるという。「批判的な視点ゆえに結論以外の記述は信用でき、取材も深い」。前段は良いとして、後段は個別の取材が不十分とは言わないがやはり総花的で散漫に思える。
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経営者として見た場合、地方の一衣料品店をグローバル規模にまで成長させた手腕は凄い。
しかし、一個人として見た場合、自分の理想を追求するあまり、部下に厳しすぎるところがある(ある意味、信用・信頼していないようにも思える)。
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ある意味ここまで徹底するからここまできた、という感じ。プロフェッショナルマネジャーをバイブル的に・・・というのをどこかで見たが納得の仕事の仕方。どの企業もそうだが創業者はそれなりにスゴイがバトンを渡してどうなるか。サムスンの話にも近さを感じるがサムスンは人材の育成に力を入れている点が違うか。ZARAがスゴイな。
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柳井さんをユニクロを第三者目線から見た書籍。否定的に書かれているが、会社の本質が見えてくると思う。
ただ、この作者を通して見た柳井さんと一生一緒に働く事はできないと思う。ただ少しの期間で学ぶには適した環境だと思う。
このやり方でどこまで残るのか、後継者はどうなるのか、人が通り過ぎる過程に位置していると思われている企業で良いのか。どう変わるのかなど、これからのユニクロがどうなるのかが気になる作品だった。
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タイトルからするとこの手の本は、「影」の部分が大きく取り上げられているのかと思ったが、実際に読んでみると「光」の部分もちゃんと書いてある。有名企業であり、カリスマ経営者にはこの類の本は多いが、中国に取材に行き、ZARAの本社、スペイン、までちゃんと取材していて、好感がもてる。
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誰でも知っているユニクロ。社長は宇部の出身で、商店街の小さな洋品店から出発。短期間でなぜ国民的ブランドにのしあがったのか?著者の意図は急成長の裏側―冷酷非情なワンマン経営、役員のほとんどが精神的にボロボロになって辞めていく、業績主義の苛酷な労働条件、中国の工場に徹底した品質改善とコスト低下を要求…。などを描いている。逆に考えれば、それがユニクロの強さでは?
経営の立場に立つか、そうでないかによって感じ方が変わってくる。光あるところに影あり!
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Amazonの潜入ルポで有名な横田増生さんの本。
前著「潜入ルポ アマゾンドットコムの光と影」はかなり内容に関する記憶があるのに、本自体が見当たらない。誰かにかしたのか、詳細なレビューを記憶してるのか自分でも不明。
業績好調企業の光と影シリーズを狙っていらっしゃるのかもしれない。
本書のテーマは「いい人には経営は向かない」という事。ただし、いい人でなければ経営に向く、というわけでも無い。
不十分条件と言えばいいのか?
柳井さんの過去の書籍「一勝九敗」「成功は一日で捨て去れ」から、人物像を膨らませ、実際に中国のユニクロ商品を製造している工場に飛び込み取材したり、意識をしているとされるZARAを取材して比較したり、直接インタビューしたりしている。
筆者は、柳井さんの意識を「経営に対する以上にも思える過度の危機意識」だと説く。
この『過度』に共感出来るかどうかが、筆者から見た柳井さんの像に共感出来るかのキモであると思う。
正直感じたのは、筆者は経済のフラット化を、安価な労働力を確保する題目と捉えていると感じたが、そう感じる理由については言及が無く不明。
柳井さんの発言については、これまでの世界観に準ずるのであたらしい発見は特に無かった。
ただ、めちゃくちゃ面白いと思った点は、SPAモデルの最大の利点を、生産リスクを取る事による価格決定権の獲得だとして、価格決定権の行使力がリターンを決めると定義している視点。
獲得した価格決定権をどこまで行使するのか(=遠慮しない≒いい人にならない)と言っているのであれば、SPAモデルはいい人で無い方がリターンは多い訳で。
価格決定権を得る事で無く、決定権の行使力は面白い視点だとおもった。
ただし、「高度資本主義におけるグローバル企業の方法論」(説明文)は明らかに言い過ぎです。
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ユニクロが本書を訴えたらしいが、それほど過激な内容とは思えない。
せいぜい中国で長時間労働を低給料でやらせている。と書かれている程度。
本書の途中でZaraとユニクロの比較が出て来る。
極限まで市場への新製品投入タイミングを短縮させ、常にお客に新鮮さと、二度と同じ製品を買えない危機感を与えているZaraのビジネスモデルの方がスマートで成功しているのは事実。
ところが実際に店舗で服を見ると、ユニクロの方がシンプルで買いやすいと思えてしまうのが不思議なところ。
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タイトルに「影」とわざわざつけるだけあって、筆者の主張としてはユニクロ批判の方向。一方で、強みもしっかり検証しているので、「やっぱ柳井さんすげーな」と思わされる部分もある。ただ、そのように公平に評価している(というスタンスを見せる)分、批判にも正当性が生まれるか。成功している企業を批判するのは難しいものだけど、同じ製造小売でありながら異なるスタンスであり、かつ経営規模が上のZARAとの比較で説得力を持たせている。個人的には、相当ユニクロへのイメージダウン効果があった。