紙の本
科学技術者に対する深い信頼
2015/05/10 11:04
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投稿者:はる - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ネタバレ」および引用を含みます。ご注意ください。
ごく近い未来を舞台に、衛星軌道上の陰謀を阻止すべく戦いを挑む人々の物語。躍動する場面展開が臨場感を盛り上げ、綿密な下調べに基づく非常に現実味のある社会的政治的技術的背景が、架空の宇宙テロを現実の危機であるかのように思わせてくれます。最初は夫々別個に動いている地理上も立場上も全く異なる人々が、やがて一つの流れを作り出し、異なる技能がパズルのように組み上がって一つの力になって行く様に心が躍りました。視覚的で美しいラストシーンや、後日談として描かれる白石の真の目的には涙が零れました。第35回日本SF大賞受賞作。
「上出来だ。なら、宇宙開発の火は消えない」(429頁) 軌道ホテルに滞在中の宇宙ベンチャー企業の経営者が、テロにより3時間後に殺されると分かっている状態で、地上の技術者に「危険を排除する方法は見つけたが、いつ、どんな風に排除できるか分からない」といわれて言う台詞です。自分の死によって宇宙への扉を閉じさせてはならないという強い意志が伝わってきます。この後、「君が提案する“理論上可能”なシナリオは、誰の耳にも馬鹿げたものに聞こえるはずだ。そうでなきゃ、誰かが思いついてる」(中略)「最高じゃないか、クレイジーな計画をやれるんだ。そのチャンス、逃すなよ」と続きます。
あまりにも至近の未来で技術的飛躍が少なく、これがSFなのかただのサスペンスなのか迷うほどですが、最後のエピローグでなるほどこれは壮大なビジョンの始まりを告げるSFなのだと得心しました。技術者の苦悩や持たざるものの悲哀が克明に描かれた本書は、著者の科学技術者に対する深い信頼に基づく楽観主義が快い読後感を与えています。
紙の本
わくわくする宇宙
2019/07/28 17:59
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投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
宇宙に関する最初の知識がちょっと追いつかなくて、とっつきにくかったけれど、しばらく読んでなれたらあとはおもしろくて一気に読みました。宇宙開発に関する日本人技術者が大挙中国にってのは10年くらい前までの日本の製造業のことだし、中国の宇宙開発の技術が先進国の模倣ってのもかなり前の話だけど、それは日本人読者に対するリップ・サービスなのかな?
電子書籍
近未来SF
2015/09/28 09:07
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投稿者:みるお - この投稿者のレビュー一覧を見る
話題のSF作。各拠点拠点の話がザッピングされながら進行するため、最初は戸惑ったがかなり現実味のある感じの話でグイグイ引き込まれる。SF好きはおすすめ。
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軌道上の雲。
近未来SFとしては面白かったのだが、サスペンスというには物足りなし。
人物の書き込みが薄い。生き生きとしてるは言い難い。ちょっと微妙。
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IT と宇宙とテロリズム。
それらの要素が渾然一体となったストーリーが楽しい!
あと、個人的に Raspberry Pi 等の小物がとっても「らしくて」好きです。これも IT 系の知り合いに進めたい一冊!
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面白かった。文章も大変読みやすいし。
でも何か。何か引っかかる。
私は全く技術的なことの検証はできないので、そう云った方面での引っかかりは全くないのだが。
若干こう、身内が身内を褒め過ぎている、様な、それが居心地の悪さに繋がっている様な…。
…直接関係ないのだけど、ハリウッド映画を見たときに、CIAを正義として描いた作品ってあんまり目にした記憶がないのだけど…。
アメリカ人にとって、CIAってどういう立ち位置の組織なんだろう、とか思いつつ。
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『Gene Mapper』と比べると少し設定の煮詰まり具合が低い感はあるものの、宇宙、コンピュータだけでなく国際謀略まで広げて、ちょっとやり過ぎな気もしましたがダイナミックな展開は一気に読まされました。F15やF22、NORADとかはその分野が好きな人へのサービスでしょうか。
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間違いなく、個人的今年のベスト。
宇宙開発に関心のある人と、ソフトウェアに詳しい人(できれば両方)なら、相当に楽しめると思います。
SF に分類されるんだろうけど、現代と地続きというより、ほとんどの技術は現代でも実現できるような、そんな近未来ものです。
主人公の一人の宇宙(軌道上物体)に関する身体的理解とか、ヒロイン役のギークさ(Raspberry たくさん買い込んでシステム構築したり)とか、わくわくしますね。
デブリの問題もけっこう現代的。
Gene Mapper がいまいちと思った人も、もう雲泥の差のできなので、是非。
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衛星軌道上で不審な動きを見せるスペース・デブリの観測から始まる、スリリングな物語。 宇宙工学や物理関連用語が頻出するので、文系にはちょっと辛い部分もあるけれど、丁寧に噛み締めていれば、だんだん解れて味が分かるようになってきます。 軌道衛星に展開する危機を巡る、北朝鮮とアメリカと日本とイランの諜報機関と技術者たちの闘い。"残されたるもの"に道を拓きたいという切実な動機に世界の不均衡を見て、それでも各自の信念のために最善を尽くす姿がまっすぐで、それがクリーンな読後感へつながったと思います。おすすめです。
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電子書籍用に書かれた小説を上製本の紙媒体にした作品。舞台は2020年の世界中。所謂近未来のSFサスペンスだ。作家の藤井太洋さんは、電子書籍の世界では有名らしく、ベストセラー作家だという。紙に固執する私は最近まで知らない作家だった。本は紙に限る!と信じて疑わない私にはショックだった。でも、結局売れ始めると紙になるのだから、まだまだ紙の需要は多いのではないかと思う。紙の質感、ページの厚さの重量感。インクの匂い。ページをめくる指の感覚。これは何物にも代えがたい。あ、内容に触れてませんでしたね。とにかくページを繰る手が止まらないのは間違いない。SFに不可欠なのはわくわく感。これが作品には充満してました。
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Amazonの電子書籍サービスkindleが日本で本格的に始まってから、同社が提供する電子書籍出版サービスを利用して作家デビューする人が登場しました。
本書の著者もその一人で、デビュー作「Gene Mapper」が人気になった為、早川書房から完全改稿版「Gene Mapper -full build-」が出版されたという経緯があります。
本書はそんな著者のデビュー2作目。
地球軌道上と地上を舞台にした小説です。
粗筋は、
隕石情報提供サービス、「メテオ・ニュース」を運営する主人公とその技術サポートの女性の二人が、ある切っ掛けにより、北朝鮮に渡った日本人宇宙エンジニアの陰謀に気付き、それを阻止すると言うサクセスストーリーです。
地球の磁場を利用したテザー推進が大きな役割を果たしており、この点とプロットは面白かったのですが、人物描写がまだまだな点もあり、この点、今後に期待と言った所でしょうか。
#と言っても、気になって読めなくなると言う程ではありませんでしたが・・・
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ありえそうなSF。
ただし、天才があまりも不遇というか、その割に主人公がもてはやされすぎでしょう!と言う気もしないでも無い。
若干ネタバレあり。
そのもったいなさ故に、年齢差が逆の方が好みかもしれない。
年を重ねる=頑固ではなく、若さ故に暴走した、と言う方が納得出来る。そして主人公の天才さは、元々の才能+経験とかね。
この感想は、私が年寄り側に立つ年齢になってきたからもしれない(笑)
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優秀な頭脳と頭脳の戦いに興奮!
ローマ字、カタカナ、専門用語だらけで最初は戸惑ったが、90ページ過ぎた辺りからぐんぐん面白くなっていく。
宇宙という壮大な舞台に負けないスケール感ある作品で大いに楽しめた。
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科学者は、ロマンチストである。 そもそも私は、日本人のSFはSFに日本人が出ることに違和感があり敬遠していました。しかし、今回は表紙とタイトルに惹かれ買いました。プロローグはいきなりの異国で少々とっつきにくいかな、と思っていました。読み進めるに連れ物語にどんどん惹かれて行きました。まあ、ぶっちゃけ、登場人物は、ハイスペック、チートの集団です(これもまたSFの醍醐味か 笑)日本人が主役寄りなのはなんだかちょっとくすぐったかった。ただ、各キャラに色んな個性があることで途中で誰が誰だっけ?とほとんど混乱することなくスムーズに専門用語が飛び交う中するすると読み進められていました。私がこの本で強く印象的で切なく心にきたのがこの言葉です→「俺は見たかったんだよ。地球が」 泣くかと思いました。本編で書かれているように、科学者達は(勿論それだけじゃない人達だっているだろう、けど)どんなに使い捨てにされると解っていても、夢を見たい、それはただ単なる夢想家ではなく、実現するための夢を見続ける。国家の思惑や、軍事が宇宙開発に絡んでいたとしても、宇宙に飛び立った飛行士は、それに関わった人達は、宇宙そしてそこから映し出された地球の姿に圧倒され、心奪われ言葉を口にする。それが 「俺は見たかったんだよ。地球が」に凝縮されているように思えたからです。そして、それを軍人(もしくは一般)との考え方の違いが338Pのブルースと明利の会話なんじゃないか、と。最後、根元の開発者であるJとは違えてしまったが、これは恵まれた環境と機器のある中のこれからの才能者、と設備がないながら地道に手記でやってきた自分の(彼がもし、もっと昔に生まれていたらきっと天才だったであろう)限界を、彼はきっと自分の限界を知った年長的賢さから、同じ場所に居ても、和海達にそのつもりがなくても追い抜かれて置いていかれる事を知ってしまったんだと思う(分かち合いたいのに分かち合えない事も)だからJはまだ自分が活かせられるだろう場所に留まりに行くことにしたんじゃないかと思うがやはりそれでも悲しいようなさみしさがある。最後は宇宙開発に明るい兆しがあるように思わせる終わり方がある裏で、和海達は日本の宇宙開発には目を向けていない、という日本の宇宙開発への警告、皮肉が隠喩されている気がしました。※個人的に勿体ないかなぁと思ったのは和海の能力がシックスセンスと名前が付けられてからの使用頻度が前半に比べて多かったこと、すごいっちゃすごいですがあまり頻繁だと、若干、盛り上がりが薄まります。
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本書を読むまで作者のことは知らなかった。
着想、設定、人物描写、展開のどれも水準以上。近年日本SFの傑作と思う。
それにしてもJAXA職員がここまで活躍する小説というのは、おそらく本書くらいだろう。