紙の本
岸本佐知子の編集だから、一筋縄ではいかないのは言うまでもない。
2015/11/27 21:27
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
グロテスクな話、じんわり胸に迫ってくる話、怖い話と、色々な味わいの話が集められている。その意味では、やはりさすがだと感じた。ただ、今度の作品は私のテイストにぴったり合うとはいえなかった。
印象的だった話を強いて挙げると、「七人の司書の物語」「薬の用法」か。司書の話は、うち捨てられた図書館に司書として残った七人が図書館に届けられた赤ん坊を育て、その子が育ち…という話。ラストのその子の選択が、子どもの成長を感じさせる。描き方も繊細でいい。「薬の用法」は麻酔薬で遊ぶ子どもの話。遊びの内容も大概だが、結末のブラックさがよくきいている。
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『子供』をテーマにしたアンソロジー。編訳は岸本佐知子。
岸本佐知子編訳のアンソロジーは、講談社の『変愛小説集』や、角川書店の『居心地の悪い部屋』もそうだったが、ちょっと『変』な短編が多い。本作は『子供』がテーマだが、『変』レベルもかなり高かった。フィクションの中に登場する『子供』にはある程度のパターンがあると思うのだが、そういう類型的な子供は、本作には登場しない。
何とも言えない読後感のアリ・スミス『子供』、ステイシー・レヴィーン『弟』の2作、ちょっと伊藤潤二の漫画のワンシーンを思わせるベン・ルーリー『トンネル』、小川洋子的な世界が広がるエレン・クレイジャズ『七人の司書の娘』が良かった。
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11人の作家による、子どもが描かれた短編集。
子どもが主題というと、甘く懐かしい、輝かしき子ども時代を想像するかもしれないけれど、そこは岸本佐知子編訳。変で、どちらかというと辛くて、でも確かに子どもの時に感じていたようなことで満ちている。
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子どもをテーマに書かれた11人の作家による12話からなる短編集。
リッキー・デュコーネイの「まじない」が一番好き。子どもの頃にありがちな自分ルールが懐かしくもあり、哀しくもある。
エレン・クレイジャズの「七人の司書の娘」も、ファンタジーだけど良かった。
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岸本佐知子編訳による、「子ども」をテーマにした短篇小説のアンソロジー。十一人の作家による十二篇の作品が集められている。どれも、独特の味があり、読書にかかる時間の割りには読後の余韻が長く残る。編訳者の好みによるのだろうが、通常「子ども」と聞いたときに思い浮かべる世間一般的な、愛くるしく、天真爛漫な、誰もが頬っぺたにキスしたくなるような、そんな子どもは登場しない。人によって、好きな作品が分かれるだろうから、個人的な感想になるが、心に残った作品をいくつか紹介しておこう。
まずは、エトガル・ケシット作『ブタを割る』。バート・シンプソン人形が欲しいとせがむ「ぼく」に、父さんは陶器のブタの貯金箱を渡し、コインを貯めてそれで買えという。「ぼく」は、ブタに名前をつけ、友達のように話しかけ、日を過ごすのだった。やがて、やがてその日がやってくる。ブタを割って、人形を買え、という父さんに一日の猶予をもらった「ぼく」がしたこととは。遠い日々を思い出し、鼻の奥のほうがつんとなった。
同じ作家からもう一篇。日本にも原爆記念館などには語り部と男ばれる老人がいて、忘れてはいけない悲惨な過去を語ってくれるが、主人公の少年はユダヤ人。ユダヤ記念館でナチスの蛮行を怒りをこめて語る老人から、ドイツ製品は「どんなに外側はきれいに見えても、中の部品や管のひとつひとつは、殺されたユダヤ人の骨と皮と肉でできているのだ」と聞かされる。ところが家に帰ると、旅行から帰ってきた両親の土産はアディダスのサッカーシューズだった。少年の感じる居心地の悪さが、それを履いてサッカーに興じるうちに変容を遂げる。イノセントな少年の揺れ動く心理を描いて秀逸。
悼尾を飾るエレン・クレイジャズ作「七人の司書の館」は、中篇といっていい長さで、短い作品が多いアンソロジーに喰い足りない思いを感じる読者にとって何よりのプレゼント。コミュニティ・センターとショッピングモールの傍にできた新しい図書館の開館の陰で閉館に追いやられた図書館の話。どこかの国にありそうな話だが、これはそんな生々しい話ではなく、タイトルから知れる通り、白雪姫のパスティーシュ。閉じられた図書館で暮らす七人の司書のところに、ある日バスケットが届く。中に入っていたのは延滞料の代わりの可愛らしい女の赤ちゃん。その子ディンジーは、映画『汚れなき悪戯』のように、七人の司書によって育てられる。司書たちは、成長したディンジーを自分たちの仲間にしたいと思うのだったが…。図書館がでてくる話は、どれも大好きなのだが、なかでもこれは、小人ならぬ七人の司書たちの個性の描き分けが上出来で、お気に入りの一篇になった。
アンソロジーのお楽しみは、これで終わるのでなく、ここから始まる新しい作家、作品との出会いがあることだろう。自分の好みは、少々感傷的であっても、後味のいい作品らしい。もっととんがったものがお好きな人にも喜んでもらえる作品も数多く揃っている。立ち読みでも読める程度の長さの作品がいくつもある。手にとって見る価値はあると思う。
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十二篇のアンソロジー。
岸本佐知子編訳、なんと個性的な。
心の蓋を少し開け、風を通すと、懐かしみで胸が一杯になる。
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子供の頃、やたらと夢をみたような気がする。やたらとぼんやりしていたし、意味の解らないことだらけの世の中を見てはどうして大人は単純な善し悪しが解らないんだろう、としょっちゅう思っていた気もする。ちょっとませた子のひねくれた問いの立て方が好きじゃなかったし、謎なぞや駄洒落の意味もほんとうはよく解らなかったけど知らないと言うのが嫌だったから借りた謎なぞの本を丸々覚えたりしたし。そすりゃあ、少しはそういう(ずるい)やり方なのね、と理解出来ることもあったけど、1足す1は2、というやり方の方が全然カッコいいと思っていたし、理由もなく年号を覚えたり、解りきったいい子の話を聞かされる時間とかやっぱり苦手だったし、そういうものをまあなんとなくやり過ごせる子が不思議だったし。今よりずっと世の中が面倒くさいものだと感じつつ子供だから世の中に頼って毎日生きなきゃならないし、子供にとっての子供の情景ってどっかの作曲家が作ったようなマシュマロみたいなものでは全然なかったなと思うのだ。
もちろん、世の中の本当に面倒くさいことなんてちっとも分かってなかったから、そりゃあ所詮は子供の理屈だろうけど、子供にとってはそれが知る限りの全ての世界で、それがこんなにひどいものなのかと思ってしまうということはなんて絶望的なことなんだってことは薄々気付いていたし。それを忘れていられるためにゲームしたりテレビを観たりしていたんだなって後知恵で考えたりするけど、今でもはっきりと覚えているのは新しい学年が始まる度に、あとこれと同じような一日を何日過ごすのかなって考えていたこと。もっともその感覚は今でも時々頭の片隅を過ることもあるけれど。つまりは、子供の世界は生きにくいということ。それを久々に思い出した。
もっとも大人になったからと言ってなにもかにもが解決した訳ではないというのも当たり前のことで、ただ大人は大人の妄想の中で生きていけるけど子供は子供にとって都合のいい妄想の中で生きていくことは許されていないという違いがあるだけ。あるいは大人は大人の妄想をコントロールすることができるけれど子供は子供の妄想の中で溺れてしまうということかも。大人が大人でいられるためには我慢が必要ということだね。あるいは我慢を我慢と感じないようになるということか。とは言え今でも世の中が生きにくいと思ってしまうということは、全然成長していないということの証明なんだろうね。
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「この人間界に登場してまだ日が浅く、右も左もわからぬまま、降りかかるさまざまな理不尽や難儀と格闘しておられる」(編者あとがきより)子どもたちをテーマにした外国作品のアンソロジー。
切なさ、不気味さ、理不尽さ、軽妙さ、愛おしさ、まさしくこどもの世界をあらゆる角度から切り取った、ちょっぴり変なお話がずらりでとても楽しい。
『王様ネズミ』(カレン・ジョイ・ファウラー)は「わたし」にとってかけがえのない、「わたしが何より必要としていた本をわたしの元に運んでくれてきた人」であるヴィクトンさんに向けた最後の頁が切なく、ひしひしと胸に来る。「あなたがそこから逃げられないのなら、わたしも逃げずにいよう」、同じ物語を抱えていよう、というのは、素晴らしく誠実な友情であると思う。
『七人の司書の館』(エレン・クレイジャス)は、文句なしに読んでいて楽しい。本と図書館を愛する人間にとっては憧れの、図書館に住み、暮らすという話。
七人の司書に見守られて育つひとりの女の子(延滞本の代わりにブックポストの傍に置かれていた赤ん坊。フェアリーテールの本と一緒にやってきた)が、成長しながら図書館の棚を渡り歩き、世界のすべてを知り、けれど最後には世界そのものを「見る」ために外に出ていく。
予見されていた結末が切ないが、非常に綺麗な形に収まったと思う。そして、本に仕える司書たちやそこで暮らす女の子にめをかけてやる図書館(美味しいものをプレゼントしたり、一時の隠れ家を与えたり)がまた素敵だ。
『ハリー・ポッター』シリーズをしれっと棚に加える柔軟さがまたいい。ここに行ってみたいなぁ、と強く思わせる。
総じて、大満足の本だった。
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2/25 読了。
タイトル通り、子ども時代の話を集めたアンソロジーだが、ハッピーでカラフルな幼少期ではなく、トラウマティックな記憶にトゲが刺さって抜けなくなるような短篇を選りすぐって収録。割られる運命にある豚の貯金箱の悲鳴だの、寝ている間に周りを取り囲む謎の生き物だの、森の中を移動する魔女の家だの、終わりの見えない狭いトンネルだの、プリミティブだからこそ子ども心を苛む悪夢が日常に溶けこんだ世界へようこそ。
ジョー・メノ「薬の用法」とエレン・クレイジャズ「七人の司書の館」がお気に入り。
「薬の用法」は彩度の低い筆致で、自殺した父の遺した麻酔薬で遊ぶ双子の姉弟が起こしてしまった取り返しのつかない事故を描く。ヨーロッパのショートフィルムのような雰囲気。
「七人の司書の館」は打ち捨てられた図書館を守る司書たちの元に届けられた1人の赤ん坊が自立するまでの成長譚。細かいとこまで図書館好きにはたまらない設定であり、なおかつ読後感がよい、ティーンズノベル風の短篇。
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岸本佐知子さん編訳。
印象に残る話は…
『ブタを割る』なんだかわかるなぁ。目的が変わってくるんだよね。かわいい話。
『最終果実』変な話。なんだか残酷で悲しみがある。理不尽。
『薬の用法』悲劇だと思う。
『七人の司書の館』が1番良かった。
小さな中での成長物語。小川洋子さんの小説が好きな人は多分好きだと思う。
まじない リッキー・デュコーネイ
王様ネズミ カレン・ジョイ・ファウラー
子供 アリ・スミス
ブタを割る エトガル・ケレット
ポノたち ピーター・マインキー
弟 ステイシー・レヴィーン
最終果実 レイ・ヴクサヴィッチ
トンネル ベン・ルーリー
追跡 ジョイス・キャロル・オーツ
靴 エトガル・ケレット
薬の用法 ジョー・メノ
七人の司書の館 エレン・クレイジャス
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さすが岸本佐知子、面白かった。「王様ネズミ」、エトガル・ケレットの2編、ヴクサヴィッチ、「薬の用法」が良かったが、「七人の司書の館」は最後だけあって、ちょっと甘さと切なさのあるファンタジーで、心に残った。司書を登場人物にした物語は結構あるし、どの本の司書も書物を愛し、几帳面で、物静かという共通点はある(というか、この三つがなければ司書とは言えないので当然ではあるが)、この作品には七人の司書がいるので、それぞれ個性があるし、専門分野も違うのが良い。その司書に育てられる女の子が初めは児童書の担当司書の元で育ち、文字を獲得して自分に自ら名前を付け、成長するにつれ、色々な分類の本に触れ、分類法を完璧に学んでいくところが面白いし、司書同士が揉めるポイントも司書らしい。(日本十進分類法とデューイの分類法の違いも興味深い。)
それに何より、本好き、図書館好きなら抱く、図書館で暮らしたい、ありとあらゆる本を、時間を気にせず好きなだけ読みたいという夢を叶えてくれる作品なのだ。ラストシーンは爽やかだし、今まで読んだ司書の出てくる小説で一番好きかも。
岸本さんは、どちらかというと奇妙でブラックな味わいの作品が好きな印象があるし、それも大好きなのだが、たまにこういうのを紹介するセンスもいいなあ。
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「こども」にまつわる12の短編を,岸本佐和子の訳で集めた1冊。テーマは同じでも,まったくばらばらなテイストを味わうことができた。あるものは難解で,あるものは懐かしさに溢れていて。そして時々,残酷。
もう思い出すことしかできないけれど,あの頃はきっとこんなに素朴で正直で,じぶんだけの世界があったんだろうな。
エトガル・ケレットの『靴』と『ブタを割る』,ベン・ルーリーの『トンネル』,エレン・クレイジャズの『七人の司書の館』が特に好きだった。
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岸本さんのエッセイのファンだったけれど、じつは翻訳したものを読んだことがありませんでした。
翻訳、というと、この訳で正解なのだろうけど、なんだか日本語が心地悪いものばかり読んでしまったせいか、敬遠しがちでした。岸本さんが翻訳するジャンルの小説もそんなに好きではないし・・・で、これが初・岸本訳です。
うん、文学だ!というのが第一印象です。
やっぱり岸本さんの日本語はすごいな、と思いましたが、いまの翻訳物はみんなこうなのでしょうか。
作品は、表紙の通り、不気味だったり、嫌悪感だったりします。すごいテイスト。
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まじない/リッキー・デュコーネイ
王様ネズミ/カレン・ジョイ・ファウラー
子供/アリ・スミス
ブタを割る/エトガル・ケレット
ポノたち/ピーター・マインキー
弟/ステイシー・レヴィーン
最終果実/レイ・ヴクサヴィッチ
トンネル/ベン・ルーリー
追跡/ジョイス・キャロル・オーツ
靴/エトガル・ケレット
薬の用法/ジョー・メノ
七人の司書の館/エレン・クレイジャズ
最後の「七人の司書の館」が好きすぎてッ…訳し下ろしとのこと。他の作品も読んでみたいけどなあ。こういう時、原著が読めたらいいのにーと思う。
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12の海外作家の短編集。タイトルの通り子どもの視点や思考をもとにした物語。
少しこわい話が多い。子どもって怖い事を考えだすものなぁ…
最後の「七人の司書の館」は希望に満ちている。スラスラ読めつつも、読み終わったときは衝撃みたいなものがある…