紙の本
改造人間
2011/08/21 17:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る
万物理論とは、すべての自然法則を包み込む理論。その万物理論が完成されようとしていた。ただし、学説は3種類。
それぞれの学説は、3人の物理学者が南太平洋の人口島で開かれる物理学の国際会議で発表される。
が、ただしいのは一つだけ(なぜ一つだけ、と突っ込んではいけない)
主人公は科学ジャーナリスト。
3つの学説のうち、大本命と言われる説を唱える物理学者を取材することになる。
が、島にはカルト集団が現れ、騒ぎの予感がする。そして、水面下では、人口島の存亡に関わる陰謀も進んでいた。
非常に理屈っぽい、というか、難解というのが最初の印象だった。
量子力学の観測者問題をネタに取り込んでいるせいか、その説明が直感に反するので、理解するまで時間がかかってしまう。
著者の別の作品「宇宙消失」でも同じようなネタを使っていたが、当作品の方が骨太という印象を受ける。
著者の作品では(と言っても、当作品と「宇宙消失」しか読んでいないが)自らの体を改造する人物が登場する。
主人公は、視神経をチップにつなげて、見たままを記録するようにできたり、情報収集支援ソフトを脳につなげたりしている。
また、性転換は当然として、体を改造し、男でも女でもない「汎性」という存在や、男や女の特徴を強調した者やその逆の事をした者達が普通に存在する。
極めつけは、「永遠」を手に入れようとして、自身のDNAを別の物質に入れ替えようとする人物や犯罪捜査のため、一度、死んだ人間を短時間だけ無理矢理、生き返らせる技術も登場する。
(もっともこの辺りは、作中でも「フランケンサイエンス」と忌み嫌われているが)
万物理論についての話が難しいので、こういった所が気になってしまった。
こうして体の改造を繰り返した上でも、精神的に以前の自分と同じ、と言えるのだろうか。
木城ゆきとの「銃夢」というマンガでは、
「脳以外はすべて機械の者」
と
「脳だけ機械(チップ)で、それ以外は生身の体の者」
では、
「どちらが”人間”と言えるのか」
という問いがあったのを思い出した。
それにしても、もしも自分の視界の片隅にウィンドウズの画面みたいなものがあったら・・・
絶対にイヤだ。
紙の本
最高傑作のSF
2005/01/16 19:59
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投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最高傑作のSFだ。まず、物理学と分子生物学を中心に、情報科学や社会学の、現代の成果をふまえ、奔放な創造力でそれらを外挿し、ありうべき科学技術を細部まで緻密に構成し、描写している。空想した科学技術をきめ細かに表現することにより、ありうるかもしれないという現実味が伝わってくる。SFとしてのアイデアが多種多様で、豊富に盛り込まれている。ストーリイも謎解きと、予想外の展開があり、引き込まれる。サイエンス(科学的アイデア)とフィクション(物語性)の調和がとれている。
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「ハードSF」の「ハード」の部分を理解するだけの頭と言語体系を自分は持ち合わせていないが、それでもこまかな心理描写や主人公の織り成す洞察、寓意などを楽しむことができた。
たぶん「ハード」の部分を楽しめる人は、もっともっと楽しめる一冊なのだと思う。『シジフォス』のない自分は、google片手に「理解できなかったその方面の記述」を四苦八苦読み解くだけ。
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万物理論もさることながら、よくもまぁ物理学を並べ立てたこと。宇宙と人のアイデンティティの対比がおもしろかったな。
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久々に手にしたSF。グレッグイーガンの中で構築・完成された世界観を垣間見れる。なんとなく思い浮かべたのは、PKディックのアンドロイドは... とかヴァンボークトの非Aの世界とか... 楽しめた。
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2055年。全ての自然法則を包みこむ万物理論。それが完成し、南太平洋の人工島で発表されようとしていた。
映像ジャーナリストのアンドルーは、世界で蔓延しつつある奇病の番組を蹴って、
3人の候補者の内、最も若い20代の女性ノーベル賞受賞者ヴァイオレット・モサラを取材することに。
しかし、島に着くなり謎の汎(男でも女でもない第三の性)にモサラが狙われていると警告され、
学会の周りには万物理論を敵視するカルト集団が出没していた。
万物理論が完成したとき、何が起きるのか!?
いくつかの短篇を除いて、イーガンはどうも苦手だったんだけど、
2004年度SF1位なんで、取り敢えず手に取ってみる。
……ふぅ。
満足。
第1部は、
嘘のつけない真実の精神を得るために自ら脳の一部を切除して自閉症になる人々。
体を一つの生態系のように完全に改造して、不老不死になる富豪。
死にたての人間を一時的に蘇生させ、殺人犯について語らせる技術。
など、未来のテクノロジーとそこから生まれる倫理観が語られる。
個人的には、ここだけで十分読み応えがあって面白かった。
数冊描けそうなネタが一部だけで詰め込まれている。
2部は万物理論について。
ここは一気にペースダウン。
この小説のタネを説明してるんだけど、まるで理解できず。
でも、3部からは一気に読了!
万物理論が完成することによって何が起きるのか?
それが解かれようとしていく消失点に向かって、
今までに描かれてきた事柄が一気にそこに向かって収縮していく様はゾクゾクする。
ステートレスのクライマックスは最高。
原題の『DISTRESS』は奇病の名前。
これが最初にちょろっと出るだけで、ずーっと言及されないんだけど……
これ以上は言えねぇ!
久々に「SFを読んだーっ!」て言う満足感が得られる。
オススメ。
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順列都市では度肝を抜かれた、というかヤラレタと思いましたが、今回は自分的にはそれなりに予定調和していたので安心安心。つまらないわけじゃ決して無いんですけどね。たぶん(イーガンの中で)最初にこの本を選んだ人は、それは度肝を抜かれるでしょう。
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2005年に読んだ中で一番強烈だったSF小説。科学は行き過ぎだとする反科学団体(グリーンピース似)、世界を蝕みつつある原因不明のうつ病に似た奇病、クローンや DNA操作、汎性の話とか今現在兆候が見える領域全部盛りでしかも主題がTOE(科学者が夢想する自然法則を包括する統一理論)!目眩しかない興奮を味わえることうけあい。言うこと無し。
“情報の混合化に関する記述全てと最後の一言” は必読
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いわゆる主観宇宙論3部作として位置づけられている3番目の作品ですが、相変わらず大ネタを料理していますね。この大ネタについては推理小説で言えば犯人なので多くは語れず。
3部作全てについていえるんですが、前半部分で世界の説明のために本筋と全然関係ない(と言うのは本筋に入ってからしばらくして気付くかどうか)お話がこれでもか言わんばかりに展開されます。その中につぎ込まれたアイディアたるや長編の2〜3本は軽く書けるんじゃないか?
今作では主人公のジャーナリストが「ジャンクDNA」という番組制作を通して様々な最新技術を取材するのですが、まあ殺人事件の犠牲者をつかの間蘇らして犯人しゃべらせたり、DNAを違う物質に入れ替えた男が出てきたり。世界観のためだけにネタにするには惜しい。実に。
話が本題に入るともうわけの分からない理論とご都合主義の香りがする展開に振り回されて終わりまでノンストップ。
こうして書いてみるとどう見ても駄作です。が、広げた大風呂敷が何故か収束している過程は大変気持ちのいいもので。ネタが言えないのでこれでは訳分かりませんが。
前二作に比べると「ええ〜そんなのあり〜?」度は低いような気がしますね。
しかし、小説としては本題に入るまでが一番面白いってのはどうかな。本題に入るとお話を重視していないんだろうな。
しかし、今回の理論はきつかった…。疲れました。最後あたりちょっと理解不能だったのですが…。
とりあえず一般の方にはお薦めしません。
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いや、おもしろいから。特にアイテム名とか出て来るからその辺弱くて。内容は科学と擬似科学の間とか、西洋東洋の間とかいうところを、ストレートドンて感じで。だからこういうことだから読めば、で次よ、っていっこのテキストを友達に手渡すのにええやん、と思いました。←ほっといてくださいすみません。オへへのへー
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イーガンがSFでやりたいことって言うのは、大まかに言うと
・物理学生物学の方面からSF要素を真面目に追究する
・それに絡めたアイデンティティのありかたの追究をする
・ちゃらちゃらしていなくて偏見にとらわれていず思考が柔軟で切れる頭を持ち、perlスクリプトを書きまくってサイトで公開することが趣味だったりし、大学の数学科に所属しているようなツンデレおにゃのこ(っぽい存在)に萌える
の三点に絞られていると思います。
そしてどれか要素が欠けていたり、満たしていたとしてもぱっとしないアイディアだと短編行きになるんじゃないかと。
これは長編なので全部しっかり入ってます。というか無理矢理に捻り込んでる。さすがイーガン。小説を書く人間が出来ないことを平然とやってのける。
でも使ってくる道具立ては相変わらず凄いです。理詰めのジェットコースター。
終盤の加速部分は結局さ、モサラ理論の公表による大規模なパラダイムの変革と量子論における観測者の問題が融合するとやべー!!みたいな事ですか?
クーンさんの「視覚ゲシュタルトの切り替えのようなもの」を思わせる描写もあった、気がするし。
仮定を一切使わないモサラ理論が受け入れられた理由は、『順列都市』でオートヴァースのありんこ生物がTVCを否定して大変なことになった理由と根っこが同じですよね。ちょっぴり皮肉っぽい。
でもこういうネタを持ってくるというのには、誰かに主観で決め付けられるのはイヤだ!っていうイーガンの強い意識が働いているんじゃないかとも思うのです。毎作入るカルト批判にもだけど。
そしてそういう決めつけをはね除けられるのは徹底した機械論的な視点から人間を語る事であるわけで。
しかし時間を遡ってディストレスが大発生していた理由はさっぱりわかりません。誰かたすけて。
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イーガン好きのあいだで「どれがいちばん好き?」と話して
『万物理論』を挙げると「そりゃそうだけどさ~」と呆れられてしまうほどの
最高傑作。
アイデンティティがバラッバラに壊される。
バラッバラになって地球の上にばらまかれる。
ものすごい高揚感と幸福感。
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●21世紀半ば。主人公は、特化&暴走した科学(=フランケンサイエンス)のTV番組制作を専門とする映像ジャーナリストであり、腹の中にデカいRAMを収めていて、“目撃者”なるプログラムを起動させると、視覚で捉えた映像がすべてそれに記録される機材要らずな身体の持ち主。
冒頭では、犯罪の被害者が死後復活する様子を、カメラにとらえている=取材している。
しかし、あまりっちゃあんまりに異常奇妙な取材対象と、休息時間のなさに、ついに彼はお疲れモードに突入。
バカンスすべく有名物理学者たちが「すべての自然法則を包括する唯一理論=“万物理論=TOE”」を学会発表する場の取材を強引にゲットし、その発表場所=人工島ステートレスへと赴く。
だが、彼の取材相手である高名な物理学者が襲われると予言する汎性の若者に出会ったことで、想像を絶する事態に巻き込まれる羽目に。以下略。
●話の流れ自体は、そうわかりにくくもないと思います。
ただ、万物理論がどうゆうもんなのか、サッパリわからん(笑)
謎の科学カルトの唱える“基石”理論も、主流派のリクツはどうにかわかったけど、異端や過激派になると、一読しただけでは理解不能。
単に、私のオツムがSF語法を理解するのに向いてないにしたって。
しかし、それでも面白かったんですなこれが。なんだかよくわからないなりに、美しい理論な気がしたのと、ステートレスの描写のおかげでしょうか。
「なぜ人工島“ステートレス”が出来たか」「人工島“ステートレス”はどんな構造で海に浮いているのか」「反逆者と呼ばれるステートレス居住者たちは、どんな社会を築いているのか」・・・。
どうにも手造り世界に憧れる傾向のある私としては、この“ステートレス”に心惹かれずにはいられないのです。
本文中には、入島の儀式として、ステートレスの「地」中にダイブする様子を描いたくだりがありますが、大変興味をそそられます。
地面の奥底に潜るとそこは海! 珊瑚礁ありがとう!!(違)
こんなユートピア世界を夢みて書いてしまうあたりがロマンチストだなあ。作者。
そんな感想を持ったお話だったのでした。なんだか、万物理論とはまったくかけはなれた感想でもうしわけございません・・・。
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これでもかのアイデア詰め込み放題ですけれども。やっぱり汎性というものがなんとも…クるものがあります。2008年現在で汎性になることが可能ならば、わたしはなりたいです。
攻殻の世界観が好きなかたはイーガンさんの文にものめり込み過ぎて大変な事になると思われます。
それと汎性で近いのは萩尾望都の11人いるのフロルとかかな。あの性別決定方式は採用して欲しかった。そうしたら人間はもっと自由だっただろうて。
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途中で挫折せず読み続ければ、引き込まれることは分かった。
カルトと科学、技術と人間、立場を混ぜ合わせながら物語として面白く読めるのは後半にはいってから
だった。