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文庫 第10回日本冒険小説協会大賞 受賞作品 第5回山本周五郎賞 受賞作品
みんなの評価4.2
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評価内訳
2016/01/23 06:55
投稿元:
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もうお腹いっぱいです。 文庫上・下巻で合わせて1210ページの大部。 本書は1991年に毎日新聞社から単行本として刊行されました。 25年も前の作品ですから、割と古い作品といえましょう。 ただ、決して色あせないのは、本書の内容と同様、今もなお宗教、民族、その他の問題で、世界中でおびただしい量の血が流れているから。 しかも、かつてのような国家間の戦争・紛争というよりは、テロという形で世界中に脅威が拡散しており、より困難な時代に直面しているといえましょう。 さて、本書はイスラム革命後のイランが舞台。 世界中に2500万人という人口がいながら、迫害されてきたクルド人が、聖地マハバードで独立国家樹立を目指して武器の調達を目論みます。 そのクルド人ゲリラの指揮官が、清廉潔白なハッサン・ヘルムートという男。 武器調達を請け負ったのは、目的のためなら殺人もいとわない冷酷な日本人武器密輸商人で、「ハジ」と呼ばれる駒井克人です。 イスラム革命後に腐敗した革命防衛隊を正すため、実力行使に打って出るのが、若き革命防衛隊小隊主任のサミル・セイフ。 そして、かつては非スターリン主義的マルクス主義組織フェダイン・ハルクに所属し、ある事情によって隻脚となった、これもまた「ハジ」と呼ばれる日本人の男。 物語はこれらの登場人物の視点で多元的に展開し、マハバードであいまみえて壮絶なラストを迎えます。 読み終えた後は、歴史に翻弄された者たちの哀しみがひしひしと胸に迫ってくるでしょう。 余計な感傷を極力排し、乾いた筆致で感動を呼び起こす作者の力量にも感服する次第。 日本人にとっては複雑な中東情勢の一端を理解するための一助にもなりましょう。 おススメです。
2017/01/29 20:08
登場人物のほとんどが哀しい結末を迎える。 ある者はイラン革命防衛軍の腐敗を正せずに散り、ある者は民族国家樹立の夢破れ撤退する。 欲望のままに生きてきたマフィアは実に呆気なく悲惨に、冷酷な武器商人は自分が売った武器の行く末を見届けて死ぬ。 隻脚の東洋人はかつて自身が魅せられ追い求めた“革命”が迎える結末の無情さを痛感し静かに息をひきとる。 それぞれ立場も考え方も違うが確固たる信念によって生きてきた。そのほとんどは光を浴びることはない。だけど、この物語に登場人物たちはなんとカッコいいのだろう…
2021/09/06 20:18
結局、何だったのだろう。クルド人の武装蜂起とイラン革命防衛隊の蹶起が時を同じくしてマハバードで発生してしまい、ハッサンもサミルも希望が潰えた。それだけじゃない。駒井もゴラガシビリもおれ(わたし)もシーリーンも命を落とした。虚無感に襲われた。
2018/11/25 18:13
長らくかかってようやく読了。でも下巻は乗れて一日で読みおわれた。 暗くて思いテーマながら、人間ドラマが面白くなってきたからかな。 でも中東情勢は今も複雑で難しい。
2022/12/13 10:45
日本人にとって馴染みにくい中東が舞台。 複数の登場人物がオムニバス形式で主役をとり、引き寄せられるかのように聖地マハバートに赴いていく。それぞれがそれぞれの理想をかかげ、正義や大義、はたまた欲望のために。多様な生き方の結晶がこの物語には詰まっているのだが、、、 あまりに悲しい終盤。 大きな歴史という軋轢に踏み潰され、なかったことにされる真実。どの国や時代でもそうなのだろう。むしろその真実にこそリアリティやドラマがある。これは決して遠い国や時代の物語ではない。新たな視点をくれる宝物のような大作でした。生きる日々の重さが増せます。
2023/04/29 14:11
イスラム支配から独立を目指すクルド族の武装蜂起が主軸の物語。 個人的に、中東と聞くと殺伐とした大地とタリバンやISISに代表されるテロや残虐行為がイメージとして浮かび、それだけで否応なく血生臭さが漂いハードボイルド感が掻き立てられる。 戦争や暴力を好むわけじゃないけれど、骨太のストーリーと目に浮かぶようなリアルな描写に気が付くと物語にどっぷりハマっていた。 とっても重厚感のある作品で、この本も再読本に入れる。(。^ ^。)v