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歴史上の人物の中で、最も人気の高い一人である織田信長は、ある固定された強烈なイメージを抱かせ、確たる根拠も無いままに信じ込まれている。しかし、資料から信長の事績をたどると、何ら根拠のない思い込みに過ぎないことに気付く。イメージに依らずく、史実にもとづいて信長の真実の姿を明らかにすることが本書の第一の課題である。さらに信長の侵攻以降、近江がどのように変わり、また変わらなかったのは何か。近江の中世から近世への過程をたどるのが本書の第二の課題である。(2014年刊)
・はじめに
・第一章 尾張の大うつけ
・第二章 天下布武へ
・第三章 元亀の争乱
・第四章 安土築城
・第五章 本能寺の変
・第六章 織田氏のゆくえ
・第七章 信長の目指したもの
・第八章 信長と近江
・おわりに
160ページ余りの本、内容が薄いせいかサクサクと読める。タイトルに期待したが、肩透かしをくらった感じがした。信長を過大評価せず実像を描こうという姿勢は評価できるのだが、読んでいて説得力が無い。なぜそうなのか得心がいかない。ストライクが入らないもどかしい感じがした。論文では無いし、文庫という媒体ではあるがもう少しなんとかならないのか。
著者は、安土行幸計画を当然の事と論じている。天下静謐の大義を得るため(毛利の元にいる義昭のに対抗するため)、天皇との結びつきを知らしめる必要から計画したとし、「信長が安土行幸を考えていたことは史料からも明らか」とするが、本文にはその史料の提示が無く、根拠を読み取ることが出来なかった。三職推戴にも触れていない。
また、他者の説を批判するにあたって、「行幸説を否定するならば、信長が行幸を考えていなかったことを明らかにする必要がある」とか「信長の権力構造についての検証がされていない」としているが、自説の論証が十分とは言えないのはいただけない。
本書には、既存の宗教を否定していないとか、自己を神格化していないとか、あくまで天皇の下での天下静謐を目指したとか、見るべき点も少なからずあるが、個人的には不完全燃焼な一冊であった。