投稿元:
レビューを見る
以前TVのドキュメンタリーで密着されていた、広島の基町のショッピングセンターで30年以上清掃員として働きながら、清掃道具、路上生活者、そして原爆ドームを描き続けている画家「ガタロ」の画集半分、そして半分は彼の半生を描いたドキュメントです。
僕は絵に疎いので良い悪いはわかりません。しかし好きか嫌いかは判断できます。
力強く泥臭い絵、綺麗な絵ではないです、しかしとても美しく見えます。表現の一つとして絵を描いている訳では無くて、絵でしか表現出来なかった人です。ドキュメンタリーでトイレを掃除する姿を見た時、何が彼をそこまで駆り立てるのかと思う位必死でした。器用に生きる事が出来なくて、漂い漂いたどり着いた清掃員という仕事。体のあちこちに不具合が出ても手を抜かず、体に鞭打つ姿に胸打たれたのはもう数年前の事です。
絵を描けさえすればいいというわけでは無かったと思います。当然人の目に触れて何らかのリアクションが欲しかったはず。絵画展に出しても個展を開いても評価されず、来客も知り合いしか来ない。それでもひたすら書き続けたガタロさん。
話は若干逸れますが、彼の奥様のえっちゃんがまた素晴らしい女性で、本書に彼女が登場してから目に浮かぶ画面が急に暗から明へ変わっていきます。どう見ても結婚もしていないように見えるけれど子供もしっかりいるのであります。なんだよリア充じゃねえか、と肩透かしされながらとってもホッとしました。
TVドキュメンタリーがきっかけでにわかに注目され始めました。売れていなかった画集も売り切れ、個展も開く事が出来ました。ネットで見るとその後も人仰ぐ方との作品展も実現し、なんと練馬でも個展を行ったようです。くうー、行きたかった。
表現者として人の目に触れて評価されて初めて満たされるものがあります。自分や身内だけでは完成出来ないんです。これは絵と音楽は違えどよく分かります。世の中に何らかの影響を与えたい、人の心に突き刺さる何かを作り上げたい。きっと彼の心の中にもそういうドロドロとした情念が渦巻いていたはずです。彼の絵が完成する為にはこの清掃という仕事が不可欠だったのだと感じました。
彼の描く清掃用具も路上生活者も原爆ドームも全て美しい。彼の眼を通して色々なものの美しさを知る事が出来るのは幸福な事です。ただ見る、聞く、だけでは知りえない美を自らの体を通して定義する。それこそが表現者としての存在意義であると再確認しました。
絵はネットでもいいので一度見て頂きたいです。