紙の本
労働と自由の問題は重要な提起だ
2005/12/24 06:50
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ユートピア」とは、「どこにもない国」という意味でモアの造語である。架空の国に行ってきた人から、その国の制度や暮らしを聞き、モアがそれをまとめたという設定のもとに物語は進められる。
この物語には、当時の社会批判がたっぷりと込められている。その裏返しとして「ユートピア」が対置されている。1516年に書かれたものとして読むとき、この物語の画期的な部分が浮かび上がってくる。
資本主義の本源的蓄積の段階を「もし国内のどこかで非常に良質の、したがって高価な羊毛がとれるというところがありますと・・・百姓たちの耕作地をとりあげてしまい、牧場としてすっかり囲ってしまう」「たった一人の強欲非道な・・・人がいて、広大な土地を柵や垣で一ヵ所にかこってしまう」「多くの農民が自分の土地から追い出されてしまう」という例をあげながら分析している。最初に資本主義が発達したイギリス人ならではの観察力に感心した。
また、死刑制度についても「世界中のあらゆる物をもってしても、人間の生命にはかえられない」という視点から反対している。同様な視点から、「戦争で得られた名誉ほど不名誉なものはない」との考えを示している。これは、今も考えなくてはならない視点であろう。
私が最も注目したのが労働と自由の問題である。ユートピアの国では、6時間労働制が実現されている。そして、余暇を「精神の自由な活動と教養にあてなければならない」ことになっている。「人生の幸福がまさにこの点にある」と信じているからである。
だからこそ、働かずに他人の労働の成果を搾取して暮らす貴族や軍人などへの批判は痛烈である。安藤昌益ほどではないが、大切な視点だといえる。
また、信仰の自由を保障する発想は当時としては画期的だったのではなかろうか。
しかし、時代的な制約かもしれないが、身分制度や奴隷制度に対する批判は中途半端である。職業には貴賎があって、賎しい職業は奴隷がするとの考えが示されている。これはいただけない。
多くの限界と欠点をもってはいるが、今も通用する考えが示されている。
8時間労働制さえ変形させられている今、6時間労働制と自由との関係は特に重要だと思った。
紙の本
人間の可能性
2015/08/26 16:34
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投稿者:しろくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代が古いので、これをそのままユートピアとすることは、世界史を知っている現代の私たちには少々受け入れがたい箇所もあります。ユートピアの人々が築いた国家は、しょせんユートピア人なくしては成り立ちえない国家だとおもわれるからです。また、奴隷制度について何ら疑問を持たない記述からもやはり現代との差を感じてしまいます。
しかし、ちょっと引いて考えてみると、トマスモアはこれをかかざるをえなかったのではないか、どうにも進歩しない国家の制度こそが人間の足枷なのであって、人間はもっと自由に生きられるはずだということをいわんがため、こんなにもユートピア人を前面に出したのではないか、と思うようになり、そう考えると、この本を書き上げたエネルギーは相当なものだったのではないかと思われます。
結局、時代が移っても、世の中が抱える悩みはそんなに変わらないということを改めて感じます。
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現代の私たちが読むとぜんぜんユートピアじゃないんですが、なるほどなーとは思います。対話形式?なのでわりと読みやすいです。学生さんでレポートに何か思想史関係が必要な方は読みやすいという意味ではオススメです。
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500年も前にこんな理想郷の思想があったことに驚き、逆にそのころから何も達成されていない現実に悲しくなる。
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ユートピア文学の先駆け。ガルガンチュア物語もそうだったけれど、ユートピアはみんな全体主義的だ。この作品も、ユートピアの方針に従わない者は排除されている。おすすめです。面白い
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初めのうちは面白かったけど、宗教のあたりから読むのがつらくなった。
私はユートピアには住めないというか住みたくないと思った。
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ユートピアでは、日に6時間、毎週6日働けばよい。
物質的な満足を作り出すには、それで充分なのだ。
ユートピア人は虚飾を嫌い、質素な服を着ている。
手間暇のかかる服が、是とされてはならない。
もし皆がそれを欲しがれば、トレードの概念が発生してしまう。
ユートピア人は私有財産を持たない。全ての生産物は皆のものだ。
私有財産に何のフィードバックがなくとも、知的好奇心から、技術的・文化的貢献をするものは居るだろう。
20世紀が物語っているように、問題は、品質の低い労働をするものをどのように戒めるか、だろうか。
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二部構成になっていて、一章ではユートピアの話を聞いた経緯、二章ではユートピアの話となっていました。一章では中世のヨーロッパの政治うんぬんで始まるのですが、その始まりの第一章で読みづらく感じてしまったので、細切れに読んでました。その結果、およそ半年でやっと読み終わりました。
内容は、ユートピアの社会が成り立っている仕組みを追っていくものでした。真の意味での共和国で、私有財産というものがないというのが最も重要な点だったとおもいます。
であるからして、贅沢や娯楽といったものはなく、そういったものがあるとすれば、音楽と算術競争と将棋のような戦略ゲームのみでした。服はもちろん着られればいい程度にしか思っておらず、装飾品は子供のつけるものとして使っているそうです。
ユートピア人は基本的にすすんで労働を行い、それも国民全員が農業を経験してさらに第二職を行わなければならないそうです。
若者は年長者に従い必ず若者だけの集まりは作らないようにし、食事は講堂で皆でそろって食べる(田舎は家ごと)ことによって、妙な集まりを作らない、そんな社会を作っているそうです。
もちろん、他にもユートピア人とするための社会の仕組みは数多くあるのですが、私が読後にも強く記憶に残っているのはこのような事柄でした。これらの事柄は、現代でも理想ですし、また想像しやすくもあります。ですから、古典でありながら読みやすく感じました。理想をどう決着させるかによって受け入れられない箇所もありますが、ユートピアの社会体制はおもしろいと思いました。
2008.09.07 21:15 自室にて読了
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ゼミの研究発表『ナウシカに見るユートピア』主要参考文献。
面白い。示唆に富んでいる。近代的空想世界の原点。
・・・・まぁ、俺のユートピアは一杯のビールで十分なんだがな・・・☆
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共産主義の原型。ユートピアとはギリシア語の「どこにもない国」という意味でトマスモアの造語である。第一巻と第二巻の第一章はは主に理念が語られていて面白いが、それ以降は制度や法律など具体的内容について書かれているので今の感覚から考える理想的な国とは程遠い。少なくとも15世紀から人類が理想的な国の像を模索し続けていていることが分かる。
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非常に読みやすく面白い作品。
いわば社会主義国家を極端に表した話で、賛否はともかく思想は興味深い。
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初めてこの本を読んだのは高2か3の時でしたが、その時は知識が全然なくて大した感想を持たなかった記憶があります。
しかし私も自分なりに今の国内政治(特に先進国)や世界秩序に問題意識を持って読むと全く違う印象を受けました。
ユートピアでは、お金や金に対する欲望を根絶している。(奴隷に金の装飾品をさせたり)財産の私有は認められず、公有する。それゆえ、奪い合いが起こることもなければ、飢饉の時は国中からその地域に食料を分配する。必要なものを必要なだけ生産するだけだから労働時間は6時間だけ。好きなことをする時間がたっぷり。貧困がないから犯罪もめったに起こらない。奴隷も登場するけど、同じ罪を犯したものが罰として汚い仕事をさせられるだけ。反省をきちんとみせれば奴隷からまた元の生活に戻ることもできる。
まさに理想郷。
ただ、当時(15~16世紀)は西洋諸国が世界各地で侵略を繰り返す時代だったからか、もしユートピアや友好国が攻められた場合は他国から傭兵を雇ったりして戦争もする。常備軍はいないけど。
ユートピアは当時だけでなく現在の国家のあり方や経済のあり方を痛烈に批判している。
私たちの政治や経済を見直すのに重要な視点を与えてくれる。
資本主義や私有財産制が私たちから奪っているものに目を向けなければ。
ユートピアは「どこにもない国」の意。
しかし、「どこにもない」「理想」っていうのは不可能と同義ではない。
理想を現実に合わせるのではなく、現実を理想に合わせていかなければいけない。
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ぜんぜんユートピアに思えない。確かに安定していて豊かな社会ではあるけれど、その安定や豊かさのためにいろんなものが犠牲にされている。私有財産が否定され、人の行動もかなりの面で統制されている。今の感覚からしたら、前時代的で不自由な管理社会でしかない。社会主義国家とか共産主義国家とかのイメージと重ね合わせたくなる。
ユートピアと言ったら、実現不可能だけど天国のような幸せな世界、というようなものかと想像していた。あるいは、いまはまだ実現は無理だけど、少なくとも人間や社会が最終的な目標にするような理想社会とか。
そんなものを予想していたのに、予想外というか意外というか。
ただ、500年前のヨーロッパの社会情勢とか価値観とかと対比させてみたなら、トマス・モアの意図も理解できるかもしれない。当時は封建的な社会でもっと不安定だったんだろうし、貧富の差も激しかっただろう。そんな中で生きているのであれば、こういう社会こそが理想の社会に思えるんだろうか。
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今更説明の必要もいらないと思いますが、トマス・モアさんの「僕の考えたいい国」ってな内容です。
実際にユートピア国に行ってきたラファエルさんが、モアさんに語るという体で書かれています。
今のイメージで「ユートピア」というと、エデンの園か桃源郷かといった、餓えも苦しみもパンツもないような場所ってイメージですが、実際、本書を読んでみると、そんなこともないんですな。
奴隷もいれば、死刑制度もある社会。
ただ、(モアが考える)理想的に社会設計・運営がされているために、諍いや貪欲とは無縁な国なわけです。
時代背景や歴史的な文脈の中での位置づけなど、全然わかってないので、例によって「ふ~ん」と表層をなめただけでおわっちゃたんですが…
これで、筆者をトマス・マンと間違えることはなくなったと思います、はい。
本文から作者の理想主義者像が伺えますが、解説を読むと事実清廉潔白な正義感だったようですね。
真摯なカトリック教徒で、大法官であったときに、ヘンリー八世の離婚に反対して、最終的には死刑になってしまうですね。
いわれてみれば世界史で勉強したなぁ…
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ちょっと難しくなったガリバー旅行記という感じだろうか。どこにも無い架空の「ユートピア」国の風土を通して、理想の国家のあり方と現実への風刺を表現している。そこでは合理的な考え方とキリスト教的敬虔さを持った国民による、共産制国家の営みが描かれる。「ユートピア」が共産主義国家を表す言葉として使われてきのは、この書が元であったということか。しかしこの国家にはどこか息苦しさを感じてしまう。国家の規定からはみ出してしまった人間は死刑か奴隷となってしまう。卑しい職務は全てこの奴隷が請け負うことによってこの国家は成立しているのだ。こうした裏の面も、現実の共産主義国家の運命をも見通したものだったのだろうか。トマス=モアが表現したかった真意はなんだったのか、当時のヨーロッパ社会を深く理解しなければ分からないだろう。しかしこの物語は時代を超えた寓意としての価値がある。第一部の官僚批判などは、そのまま現代社会にも通用する人間観察と洞察に基づいている。