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紙の本
今年逝った二人のコラボ
2015/12/28 12:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
水木しげると野坂昭如。今年のほぼ同じ時期にあの世に逝った、ともに昭和を代表する二人の創作家にコラボ作品があったことを知る人などあまりいるまい。ここでいうコラボとはもちろん、野坂の小説を水木が漫画化した作品のことである。そんな知られざる彼らの共作数点が収められた本書には、エロ・グロ・ナンセンスという昭和の香りというか空気感があふれている。
本書を購入したのは、その中のひとつを読んだ遠い昔の記憶からだ。『たらちねの巣』というその作品は、若妻と義父との密通という禁断のストーリーで、美しい妻が貧相な老人に弄ばれる絵図は、少年の私にとって衝撃的だった。数十年ぶりにそれを読んでみて、水木の描く官能世界に改めて驚嘆させられるとともに、単に美しいだけではない水木の芸術が、野坂のダークな世界観とみごとにマッチしていることに感銘をうけた。同様のことは他の作品についてもいえる。
たとえば、冒頭の『マッチ売りの少女』。あの名作童話のパロディないしはオマージュであるが、アンデルセンの主人公が穢れのない純粋な少女であるのに対して、本作のマッチ売りはうすぎたない娼婦である。母親と二人暮らしだった彼女は、少女の頃から母親の間男、継父...と大人たちの欲望の餌食となり、20代でボロ雑巾(そのように描かれているのだから仕方がない...) のようになってしまう。
元祖マッチ売りの少女が、優しかった祖母の霊に抱かれて天国に旅立ったのに対して、こちらは「お父ちゃん」との邂逅を夢見て逝く。これは最初に自分をなぐさみものにした継父のことともとれるが、むしろ男たちの向こうに彼女が見ていた、顔も知らぬ実父であったと解釈したい。頭が弱く、自己の境遇に憤りも絶望ももたず、誘われるがまま男たちに身を任せながら、そんな憧れをいだいている姿は純粋で健気である。水木特有ののっぺりした、いかにも白痴のように描かれた顔も、彼女の性格を際立たせている。エロ・グロの中に可憐に咲く一輪の花の美しさを野坂・水木のコラボはみごとに表現しているといえよう。
稀有な芸術世界をそれぞれの分野で、また共同して創造してくれた水木しげる、野坂昭如両氏に感謝するとともに、心からご冥福をお祈りしたい。
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