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大河ドラマ「花燃ゆ」の主人公となった、吉田松陰の妹「杉文」の伝記物語。
といっても、文自身の物語というよりは、主に、文を取り巻く男たちの動きが書かれている。兄の吉田松陰、兄の弟子でのちに夫となった久坂玄瑞を始め、松下村塾の出身者が動乱の幕末でどのように活動したか、が詳しく書かれている。このあたりは、子どもたちにはやや難しいかもしれないので、同じ時代を新選組側から見た、同じ作者による「恋する新選組」と合わせて読むといいかもしれない。一枚のコインを裏と表から見るようなもので、理解がすすむし非常に興味深いはずだ。
兄・吉田松陰の運営する松下村塾の塾生たちと触れ合いながら育った文だが、女性であるため、故郷を出て京や江戸で活躍するわけにはゆかない。夫となった久坂玄瑞はじめ、塾生たち様子を風の便りに聞きつつ、ひたすら無事を祈り、待つ日々だ。22歳で未亡人となり、夫が京都で作った隠し子を一度は引き取り、さらには姉が亡くなったのちに姉の夫と再婚している。女性としてはかなり波乱に満ちた生涯だった。
ところが、あとがきで作者が明かしているように、当時の女性に関する資料は驚くほど少なく、実際の文が何を感じどう動いたのかを直接知る手がかりはないのだそうだ。
そこで、あとはわかっている事実をもとに推測と想像力で心の軌跡をたどるしかない。そうして出来上がった杉文の像は、美しいけれどとても哀しかった。彼女のような大勢の女性が当時の男たちの活動を裏で支えていたのだ。