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本書が1997年の作品と知って、やはり作者の慧眼には驚かされる。尖閣諸島は当時から日本が実効支配してきたが、領有権を巡って日中が激しく攻防を繰り広げるようになったのは2012年の石原慎太郎氏による都による都有地化とそれに続く国有地化以降であったと記憶する。本書が世に出て15年後という訳であり、当時尖閣を巡って、台湾を含めて軍事衝突が起こるなどとは考えも及ばなかった。当時からの歳月は中国の軍備を近代化するとともに巨大化させ、一帯一路政策により近隣諸国に対して軋轢を生じさせており、南シナ海、東シナ海の緊張が高まる一方であった。今年、アメリカ大統領に選出されたトランプ氏は一つの中国の考えに拘束されないことを明言している。台湾と中国が事を考える素地をアメリカが認めるということはそれだけこの地域に対して不安定要素を増すことに他ならず、台湾と中国そして日本と政治的にもプレゼンス的にと微妙な舵取りが必要になるのではないだろうか。もしかしたら、本作が創出したような軍事的な緊張や衝突が生じるかもしれない。そんなことを思いながら読み終えた。20年の歳月を感じさせない一冊である。