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紙の本
戦後民主主義の代表的思想家・丸山真男の日本思想論の根源に迫る
2001/05/30 18:17
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木力 - この投稿者のレビュー一覧を見る
21世紀に入り、ますます日本の行く末の不透明感が増してきたように思われる。日本史の見方についての復古調が目立つのも気がかりだ。ドイツを中心とするヨーロッパ諸国では戦争責任がしっかりと問われ、市民の間に民主主義が定着しているように見えるのに、現代の日本人はどこか無気力である。
ところで、そういった現代の日本人の間で高く評価され、心ある人々の間で読まれ続けている思想家に丸山真男がいる。戦争中、国民を支配した日本型ファシズムの政治思想的意味を深く問いかけた学者として著名な人物である。もっとも、保守派の人々には「進歩派」の代表的人物として今でも忌み嫌われているのだが。しかし、そのことは丸山の名誉とすべきことであろう。その丸山が1961年に『日本の思想』という岩波新書の一冊を刊行した。日本の近代思想のあり方を「実感信仰」「理論信仰」などといった平明な言葉を使って解明しようとした書物である。丸山が1996年夏に亡くなった時も、書店に平積みされていた、丸山の代表作といってよい本である。
本書は、その『日本の思想』に丸山の思索の歩みを重ね合わせて、丸山の思想の真意はどうだったのか、また現代的にどのように読み直されるべきかを問いかけている。日本の伝統思想、幕末・明治維新期の「開国」に伴う思想の変容、マルクス主義の意味などについて、丸山の『日本の思想』がいかに解明に志したか、その問いかけの意味を模索している。丸山は1960年代末の「青年の急進化」の時期にその言動をおおいに期待され、そして乗り越えられたかのように考えられもした。しかし実際にはそうではなく、意外に深い次元を持っており、未来への継承されるべきであるというのが著者の結論である。
私も著者のほとんどの意見に賛成である。かつて「急進化」の時期には調子よく丸山を断罪した者が、保守化の時期の現在は、単純な「進歩派」として切り捨てるような風潮が一般的であるがゆえに、なおさら著者の丸山に対する真摯な姿勢は好ましい。だが、本書の解説はどこか物足りない気もしないではない。丸山にあった思想解剖の先鋭さがほとんど見られないのである。しかし、反面、それだけ丸山自身の書いた物は魅力的過ぎたのかもしれない。
今日、丸山の著作は、直接書き下ろされた出版物だけではなく、座談集、講義録と多様な形で読むことができる。近く書簡集も公刊されると聞く。人間の思想の無節操、理想の低さ、無気力などばかりが目立つ昨今の日本の論壇である。戦後の思想の若やぎ現象の一環として颯爽と論壇に登場したのが丸山であった。本書は、その丸山の思想への入門書として位置づければ、おおいに薦められよう。 (bk1ブックナビゲーター:佐々木力/東京大学教授 2001.05.31)