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紙の本
さまざまな思考を誘発する刺激的な一冊
2001/08/30 19:04
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投稿者:今福龍太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
筆者がフィールドワークの対象として選んだ西アフリカのモシ族は、太鼓の音を鳴らすだけで、歴代の王への賛美を表すことができた。近代社会における文字表現の支配に慣れ親しんでいた著者にとって、これは新鮮な驚きだったに違いない。もちろん、このような、音に託されたもうひとつの人間の叡智のあり方に、私たちの多くはまだ十分に自覚的とは言えない。そこで筆者は、文字と無文字の臨界を見据えながら、文字に隠された無文字性というものにたいする多角的な考察を少しずつ深めてゆく。緻密なフィールドワークと、多彩な文献を通して、文字によって築き上げられてきた「世界」史を、無文字社会の方法論の側から相対化してゆくのである。そこでは、道具の遺物、建造物の遺跡、人骨、口頭伝承、記号化された楽器の音、儀礼、土器などの非文字資料が、新たな相貌をもって私たちの前にあらわれる。初版刊行後25年たっての復刊であるが、「文化のなかの無文字性」に関するさまざまな考察と切り口の多くはアクチュアルな性格を失ってはいない。たとえば系譜や絶対年代などの考察とともに、近代の文字化された「累積的時間」を相対化する神話的な「構造化された時間」などのテーマは、大きな可能性としてまだ私たちの前に横たわっている。無文字性がはらんでいる集合的な無意識を喚起する性格は、現代社会のあり得たかもしれない別の側面を想像するためにも重要なヒントとなるだろう。さまざまな思考を誘発する刺激的な一冊である。(今福龍太/文化人類学者 2001.7.24)