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商品説明
大藪賞作家・奥田英朗が、文化としての野球をキャンプ地から地方遠征を通して描く。映画、マッサージ、うどん…。必要な「何か」を求め放浪の旅に出た悩める小説家の行く末は? 『小説宝石』連載をまとめる。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
奥田 英朗
- 略歴
- 〈奥田英朗〉プランナー等を経て作家になる。2002年「邪魔」で第4回大藪春彦賞受賞。著書に「ウランバーナの森」「最悪」「東京物語」など。
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紙の本
私は野球、特に高校野球が嫌いだ。それを煽るマスコミもダイキライだ。でも、この本のカバーの清々しさは何だろう。今年一度として見ることの出来なかった入道雲が、限りなく爽やか。奥田の文章も軽妙、拾いものだね
2003/08/29 22:18
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は野球が嫌いだ。観るのもダメだけれど、マスコミの態度と選手の垢抜けなさ、そして応援団の田舎臭さが、苦手だ。だから、重松清なんかが、よく野球の話なんかを書くと、それこそ敬遠したくなる。で、それなら読まなきゃ良いんだけれど、奥田英朗って言う字に弱い。あの、浮気をしてばかりいる俳優を思わせて、良い名前じゃない。そんな軽い気持ちで読む。ヒデサマの『ジョカトーレ』とは、申し訳ないけれど読み方も違う。でね、
「野球を追いかけて、国内はもとより台湾まで足をのばす奥田を待ち受けるのは、素朴な地方の人々の熱い声援と、美味しいラーメン、マッサージ」。中日ファンの奥田だが、中日を追いかけないで、でも中日から移籍した選手に密かに送るエールが、なんとも美しい。
うーん、好きだなあこういうのって。特に「台湾編」では、笑っちゃったなあ。たまらないなあ。もしかすると、サッカーじゃあ、こうならなかったかもしれないなあ。応援する人たちが、ちょっとダサイくらいの野球だから、いいんだろうなあ。テニスやサッカーじゃあ、選手も応援団も格好いいからなあ、などと野球嫌いの私は、この本を抱えてクヒクヒしながら皮肉に思う。
全六編。南国にベイスターズ、キャンプ、中日、中日ファンの奥田、長嶋、江夏、ヤクルト、沖縄編。ヤクルト、中日、道後温泉、光文社「きれいどころ」K女史、T女史、うどんの上手さ、四国編。近鉄、ダイエー、松浦亜彌、熱気、「我問何用也?」「棒球場行巴士是也!」「痛ててててててて」「そう。痛ててて」には笑える、台湾編。分量的にもここまでがヤマ。失敗した原稿、W・カップの最中東北、移動の不便さ、二時間に一本という電車、湘南シーレックスと巨人二軍、東北編。尾道に広島、横浜戦、お好み焼きのおいしさが漂う広島編。熊本で行われる福岡ドンタクズVS名古屋80デイザーズ、OBたちの姿が凛々しい九州編。
本のなかによく出てくる言葉は、映画、マッサージ、食べ物、中日、天王州アイル、CPカンパニーの服。美味しい食べ物があると、」すぐそこに移り住みたくなるのがいい。特にラーメンの記事が多いのはご愛嬌か。2002年から2003年に小説宝石に連載されたものだけれど、W・カップの記事がなければ、ああ、あの年と思える部分はない。それほどに野球の存在が日常化している日本ではある。
この文章を読む限り、奥田英朗は独身。天王州アイルの不便な生活を、それなりに楽しんでいる。お台場に人出を奪われた形の場所だが、その「空いている」感じが好きらしい。小説は、プロットをしっかり立てるというよりは、流れで書いていくタイプ。物事は、ズケズケいうよりは、途中でグニュグニュと口ごもるような。「少しは、大人なのです」「だから大丈夫です」「満足です」という「ですます」文がさりげなく入ってきて、それがとても愛らしい。
奥田英朗が、『邪魔』『最悪』を書いているときは、さほど評価していなかった。お馴染みの北上次郎もハズシタかなと思っていた。でも『東京物語』を読んで、いいなあと思った。真っ青な空、ではないけれど、爽やかな風が吹いていく、そんな気がした。『イン・ザ・プール』で、笑った。なにか、モグリの医者の胡散臭さが堪らなかった。私が勤める病院にも、いるいる、そういう先生、と思った。『マドンナ』を読んで、これでシゲキヨ(マツキヨじゃあないよ、重松清のこと)、ヤマフミ(麦踏じゃあないよ、山本文緒だよ)、ハヤマリ(葉山マリーナじゃない、林真理子)に並んだと思った。
で、今回。うひゃ、シーナさんに並んだぞ、って言う感じ。うむうむ、でもこれって小説じゃあないね。エッセイ。たしかどこかの書店で小説のコーナーに置いてあるのを見たような気がするけれど、絶対に違う。でも奥田英朗って、こんなに軽妙だったかなあ、やっぱりこういう味が前面に出てきたのも『東京物語』からだよなあ、と思う。