紙の本
脳科学の先駆者が人間活動の科学研究の現状を総括。
2010/05/27 16:43
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は現在の脳神経科学の進歩の草分け的存在の一人であり、分離脳の専門家である。本書では視点を「ヒトはどのようにユニークか」におき、意識、社会、倫理、芸術、心と体などの問題に踏み込み、これまでの脳科学の到達点を総括したかたちになっている。なかなかの大作という感である。
様々な論点を取り上げているので、本文が500ページ以上とかなりの大部になった。しかし、全9章それぞれの最後には数行の「結論」が書かれているので論点を追うのはそれほど苦労ではない。さらに親切なことに、「解説」(翻訳の柴田裕之さんでなく出版プロデューサーの方なのだが)もほとんど要約になっている。
正直を言うと、最初の「はじめに」を読んだあたりでは少々抵抗を感じた。
「はじめに」は、副題が「人間はなぜ特別なのか?」であり、「私たち人間は特別だ。・・・人間の成功と、この世界での支配的立場を、いささかでも割り引く必要を感じたことはついぞない。」と言うのだ。私的には「人間だけが特別なのではなく、全ての種がそれぞれに特別なのだ」と思うので、ここまでいうのは執筆動機がいささか強気すぎるのではないだろうかと思えてしまったのである。それぞれの動物がそれぞれにユニークである。その普遍的な「ユニーク」を作り出しているものはなにか、ということも実はなかなか明確にはいえないのではないだろうか。そう思いつつ読み進んだ。
さまざまな方向から「他の生き物とどう違うのか」を考察していこうとの取り組みなのだが、いかんせん他の生き物については比較できる知見が少なすぎるものも多い。感情や意識などについては、サルあたりではいくらか調べられているところもあるが、他の動物ではどう調べるかの方法論もまだあいまいなかんじである。しかし著者は「犬は嫌悪を覚えたりしない。P199」と断定したりもする。根拠はなさそうなのだが。
第6章の芸術の話などは、人間の中ですら、どうなっているのか、定義すらまだあいまいな部分もある。当然この章の結論もあいまいである。
他の動物とどう違うのか、に行き着きたいのだけれどまだわかっていないことが多い。読み通した内容はそれを証明しているかのようであった。
この本にならい、(結論)を書いてみるとこんなところであろうか。
(結論) 人間活動の研究の現状を総括したものとしてはなかなかの力作である。しかし、人間だけのユニークさを追及するのはまだまだ研究方法などにも問題があるということが明らかになったものも多い。それでも問題点を整理し、全体像を把握するためにはこのような本が時々必要であろう。
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「右脳ブーム」の先駆けとなった脳神経学者ガザニガが著す研究生活の集大成。
脳や意識、コミュニケーション等を人間と他の動物やサイボーグとで比較し、人間が人間である理由を追究。
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脳神経科学の大家の本。脳神経科学を中心に据えて、さまざまな実験や研究からいままでに得られた結果を、「人間はどんなところがユニークなのか?」「他の動物とはなにがちがうのか?」という視点からまとめてある。
人間の脳や認知の仕組み、その限界や特性を現時点でわかっていることを網羅的に書いてあるので、非常に勉強になった。
昔?よりもかなり脳の構造や認知の面での研究が進んでいるんだな~と感じた。
とくに、社交性、つまり表情や動きからの共感・想像をする人間の能力の高さにおどろいた。
ただ、もう一回くらい読まないとちゃんと理解できないかも・・・
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2010.03.28 朝日経済新聞に紹介されました。
2010.04.04 日本経済新聞に紹介されました。
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もとより結論など求めようもないテーマに、ガザニガは正攻法で挑んでいく。すなわち、人間ならではのユニークさを、「脳、動物、社会性、道徳・倫理、芸術、意識、サイバー化」といった切り口で、解読していくのだ。
本書は脳科学を超えて、人間科学としての統合をめざす果敢な一歩である。
(院生アルバイトスタッフ)
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タイトルは明快だが、きっぱりと答えてくれる訳ではないところが、研究者らしい本だった。人間にだけできること、として見えてる一つ一つ(芸術、言語、道具、道徳なども、サバンナにでてきたはるか昔の祖先の頃の名残である、ということか。。
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脳科学者による人間らしさの探求本。以下印象的な箇所の紹介。
<芸術の起源>
美は特別性を持たせる。集団を他集団と差別化する。特別な何かを持つ集団は、その特別製を目印にして、団結する。団結した集団は、生存可能性が高まる。
人間は虚構を愛する生物である。自動車について学びたいならば、自動車のマニュアルを読めばいいが、人間は自動車の操作マニュアルを好んで読まない。代わりに自動車レースもののマンガや映画や小説、虚構を体験する方を好む。自分が操作するわけでもないのに、自動車レースを好んでみたりする。人間は虚構から学ぶのである。
例えば、子どもの頃行う鬼ごっこ、かくれんぼ。子どもたち鬼ごっこの時、追いかける鬼の役と、逃げる役の両方を体験する。かくれんぼでも、隠れた子どもを探す役と、隠れる役の両方を体験できる。いざ集団が敵に襲われた時、子どもたちは敵から逃げたり、隠れたりする必要に迫られる。何も体験しないでいるよりは、鬼ごっこやかくれんぼで虚構として体験していた方が生存に有利である。
鬼ごっこやかくれんぼでは、逃げ隠れする自分を探し出そうとする敵の側の心理も体験学習できる。このように虚構は、現実には中々起こりえないリスクが、いざ発生した時に対処できるようにする体験学習の機能も持つ。
(所感)
芸術を自然科学で説明しようとすると、芸術制作の手順を神秘的なベールで包んでおきたがる人文系の学者は嫌がる。芸術をそんな生臭く解釈しないでくれと言われるだろうが、自然科学のやり方で脱魔術化して芸術を解釈した方が、魔法で包むより面白い。
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進化心理学から辿って見つけて読んだ本。心に興味あって、脳のエンジニアリングの入門には丁度いいかな?という印象。まとまっていて、キーワードを追ってくと他の「!」本に辿りつける、と思うよ。
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脳神経科学としての心理学についての常識を学ぶにはいい本である。さらに、動物の例があるので比較心理学としても役立つであろう。残念なことに図版がひとつもないことである。なくても意味が分かるようになっているが、あればもっと理解が進む。しかし、この本で卒論を書く場合には、特殊装置がある実験室がないと難しいであろう。
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1 人間らしさを探究する
2 ともに生き抜くために
3 人間であることの栄光
4 現在の制約を超えて
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こんなにもワクワクする本は他に無い。現代脳科学の視点を中心としながら遺伝学や機械工学の分野も網羅し、倫理や芸術の様な人間固有のメカニズムについて踏み込んでいく本作は、かつて哲学が命題としてきた分野に更なる謎と興奮を提示する。原題は『HUMAN』とそのものズバリな本作はハードカバー600頁の大著だが、驚きの実験結果の数々と小気味よいジョークのおかげで全く飽きることのなく最後まで読み終えてしまう。中でも自己感覚を解釈装置の副産物だとする説は衝撃であり、読了後には「私」についての感覚は完全に一新されてしまった。
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メタには「高次な」「超」といった意味がある。ヒトは五感情報を統合し、更にもう一段高いレベルで自分の思考や感情を客観的に捉えることができる。これをメタ認知という。脳にダメージを受けると高次脳機能障害となる。メタ認知機能の崩壊といってよい。
http://sessendo.blogspot.jp/2014/03/s.html
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扱ってるトピックは興味を惹かれるのだけど、言い回しが堅苦しくてなかなか読み進まず、段々と放置してしまった。また気が向いたら読むかも。原著の方がかえって読みやすいかもしれない。
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大御所ガザニガによる脳科学の最前線の包括的な概論書、集大成という感じかな?
もちろん、タイトルの「人間らしさとはなにか」という問いにストレートに、そして多面的に答えようという野心的な作品でもある。
最近、脳とか、進化心理学関係の本を何冊か読んだので、ものすごく新鮮ということもないのだけど、いろいろなところで読んだことが統合されていく面白さというのはある。
初めてこういうのを読む人は、新しいことがいろいろ学べて面白いだろうなー、と思う反面、本が分厚いわりには、一つ一つのトピックがかなり早いテンポで説明されていくので、読んでかなり難しいだろうな。2~3冊、この類いを読んでから、挑戦する必要があるだろう。
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かなりのページ数で読み進めるのに時間はかかったが、退屈することなく最後まで読み終えられた。
『わたしはどこにあるのか』『脳の中の倫理』とはやや趣が異なり「人間と他の異性物との違い」をテーマに脳の側面から人間らしさを掘り下げていく。また人間と芸術の関係、他人の情動を感じる機能など、あまりガザニガらしくないとも思える視点があってこれはこれでおもしろい。
なぜ「私」は他者と区別できるのか、といった話題もかなり読めた。ただし社会性にはあまり触れていないところが不満といえば不満。
美とは何か?「今、ここ」という動物的な中核意識から、どのように延長意識や自己認識が発達したのか? おぼろげながらも答えらしきものが見えつつあるのがよく理解できた。
https://twitter.com/prigt23/status/1098531498439860224