紙の本
私たちが日頃馴染んでいる安価で長持ちする食品は兵士のための食糧だった!
2017/12/03 07:58
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、日頃、私たちが目にし、口にしている安価で長持ちする食品が、実は戦争を担う兵士の食糧として開発されたという、目からウロコの事実について詳細に語った書です。エナジーバーやレトルト食品、プロセスチーズなど、身近な食品の例を挙げながら、その一つひとつについて、軍と科学技術がどのように、こうした食品の開発を手掛け、担ってきたかを説明してくれます。衝撃のノンフィクションと言えるでしょう。
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戦争への必要が、いかに食品、食事とその関連部分を変えたか、という内容。
戦争は合理主義の極であるため、近代技術の少なからぬ部分を、良くも悪しくも牽引したが、食品の世界への影響力の凄まじさに驚かされた。
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パワーバーも、フリーズドライ技術も、レトルトやラップも、もとは米軍のレーションを開発するための研究所がもたらした技術だった――ということをかなり微に入り細に入り追っていく。著者の加工食品や転換物に対する懐疑的な視線がもう少し抑えられているほうが、自分としては読みやすかったと感じる。
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家庭やレストランで料理するためのレシピでは、つくりやすさや材料費も考慮されるかもしれないが、満足のいく味ができあがれば、それで作業はほぼ終わりだ。一方、工業生産用の場合、味は手始めにすぎない。食品技術者は、数ヶ月や数年間も一定の味と食感が保たれ、変質(腐敗)や細菌汚染の起きない方法を考える必要がある。(p.28)
自然は無慈悲で移りきで、天候もまた気まぐれだ。災害も起きる。人口が増える。こうした不安定な状態に対する自明な解決先は、より多くの食料かそれを得る手段を確保することだった。この果てしない探求を支えるために、各地の文化は兵士の食料を進化させた。容易に輸送できるように軽くて頑丈で、長期保存ができるように乾燥または塩漬けで加工され、最も望ましい栄養分(タンパク質のことが多い)をあたえてくれる食料品を生み出したのだ。(pp.65-66)
NASAの「やるべき仕事」の長いリストには、地球から38万4500キロ離れたところで食べるものを考え出すことが含まれていた。初期には一ポンド(約450グラム)の物資を打ち上げるのに10万ドルかかったので、コンパクトで軽量であることが求められた。さらに、簡単に食べられて、完璧に衛生的でなくてはいけない。(p.130)
実際、陸軍は「食事」の概念を完全に崩そうとしている。「われわれが考えているのは、1日3食というのが兵士に食料を配給する方法として本当に望ましいのかという点だ」と、戦闘食糧配給局の元局長、ジェリー・ダーシュは言う。「『これが朝食、これが昼食、これが夕食』という風にはっきり区別するのではなく、もっとゆるやかに、好きなときに少しずつ食べられるようにすべきではないかと。」(p.315)
私は加工食品の陰でかつてない自由を与えられている。単調な骨折り仕事からの自由、好きなことややりたいことをもっとたくさんする自由—それが何時間もテレビでリアリティー番組を見ることであれ、あるいは貧困国に経口補水液を届けて子どもたちの命を救うことであれ。かつて私は昔ながらのやり方で料理することを自ら選んでいた。しかし創造性という点では、私がどれほど見事な食事—目を楽しませ、味覚をくすぐり、つかのまであっても心に安らぎを与える食材のアサンプラージューをつくっても、本の執筆のほうがはるかにやりがいがあった。そこで私は別の選択をするようになった。大事なのは、どのような食事のあり方を選んだかをめぐって互いを批判することではなく、21世紀の女性—そう、あえて「女性」と言わせてもらう—には選択肢があるという点でいかに素晴らしく幸運で恵まれているかに気づくことだ。(p.319)
ネイティック研究所の技術をはじめとして、戦争から生まれた食品加工技術は日本で暮らす私たちの食生活にも広く入り込んでいる。たとえば缶詰の根幹である食品の密封加熱技術は、ナポレオンが遠征中の食糧配給を支援する策を公募したことから広まった。当初はガラス瓶が使われたがやがて金属製の缶が使われるようになり、それがさらに進歩して、現代の食生活に欠かせないレトルト食品が生まれた。レトルト技術の開発の中心となったのはネイテック研究所である。(p.338)
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現代の食卓では加工食品は珍しくない。
缶詰、インスタントコーヒー、パウチ入り食品や飲料、日持ちがするパン、成型肉、エナジーバー(固形の栄養強化食品)。
そうした食品の一般向け市場はなるほど大きいものだろうが、ではただただ一般市民をターゲットとして開発され売り出されたものかというと、控えめに言ってもそれだけではない。
背後には、軍隊が直面する「必要性」があったのである。
戦争は、軍隊の移動を伴う。
兵士が戦争に従事し続けるためには、言うまでもなく食糧が必要である。戦争が大規模になり、長期化するにつれ、ロジスティックはますます重要になる。
はるか昔であれば、戦闘の場に家畜を連れて行く、あるいは近くで食材を調達するといった形も取れたが、現代の戦争では非現実的だ。
多くの兵士に、日持ちがし、携行が容易で、すぐに食べられ、腹持ちがよい食品を提供する。出るゴミの量が少なければなおよい。
そうした食品の開発は一大事業だった。莫大な資金を掛け、多くの頭脳が集められて、さまざまな現代的「保存食品」が生まれた。現在流通している加工食品の多くは、米軍が戦闘糧食(レーション)を開発する際に生み出された技術によっている。
軍の必要性から生まれた加工食品は、その利便性により、一般向けにも浸透し広がっていった。
本書はこれらの加工食品の誕生と発展を追う。
著者は料理好きのフードライター。なるべく手作りの料理を心がけていたが、あるとき、自分の「手作り」の昼食が、思いの外、加工食品に頼っていることに気が付き、愕然とする。加工食品開発の背景を探っていて、辿り着いたのが軍の糧食だった。
米陸軍の糧食に関する研究・研究を行っているのは、マサチューセッツ州ネイティック研究所である。賞味期限が長いパン、成型肉、インスタントコーヒー、エナジーバーなどはここで開発された。
糧食生まれの食品の代表格といえば缶詰だろうか。これはナポレオンの時代に生まれたものだ。金属の缶に熱殺菌した食品を詰め、密封する。ものを腐らせずに長期保存することを目的とする原理は比較的単純だが、即、食用に耐えるものができたかと言えばそうではない。米軍では19世紀末に大規模に缶詰牛肉の導入が行われたが、これが非常な悪臭を放ち、一大スキャンダルとなった。結論から言うと、細菌の繁殖ではなく、過剰な防腐処理による肉の変質のために悪臭が生じたという、皮肉な事件だった。
だがこうした事件を経て、適切で食材の風味を妨げない処理が開発され、缶詰は一般にも普及していく。
エナジーバーと呼ばれるものの多くは、チョコレートが主体である。高カロリーのチョコレートは、手軽に腹を満たすには好適だが、気温が上がると溶けやすい欠点がある。高温で溶けにくいが口中では溶ける製品、そして兵士が誘惑に負けないように「おいしすぎない」製品の開発が望まれた。
エネルギーを生む食べ物といえば肉。今でこそ加工肉もありふれたものになったが、肉といえば塊肉、骨付きのものがあたりまえだった時代はそう遠いものではない。塊であれば、古くないか、蛆虫がついていないかの確認も容易だったが、一面、骨付きのものは手間がかかるし、廃棄物も出る。すぐ調理可能な成型肉は軍には理想的だった。だが、くず肉を寄せ集めて肉の形にする過程で、大量の添加物や保存剤が必要であった。
食品自体に加え、ラップやパウチなど、包材の開発もまた重要であった。プラスチック系の新素材である。かさばる缶詰に比べ、軽く、丸めてしまえばゴミとなる容積も小さい。陸軍主導の開発プロジェクトには、名だたる大企業が名乗りを上げた。こうした研究の中から、多くのイノベーションが生まれた。
加工食品やそれに関する技術により、一般市民も恩恵を受けていることは確かだが、実のところ、こうした食品は、そもそもが「特殊部隊」向けであることは念頭に置いておくべきだろう。長期保存が可能である一方で、手軽にエネルギー補給できることが大切なのだ。つまりそこからは、「体にいい」という視点は抜けている。
新しい食品であるがゆえ、長期間摂取し続けた影響にも不明な点はある。
加工食品開発に多くの人の知恵や努力があったことは確かだが、こうしたものを、特に子供が大量に採るべきかどうか、よく考える必要があるだろう。
*本筋とは関係ないと言えば関係ないのですが、著者が、子供の弁当に、普通にエナジーバーとかクラッカーを入れているのにちょっと驚きました。ティーンの子が夜中にスナックをバカ食いしている挿話もありました。フードライターにして食に意識の高い著者にして、これなの?と目をぱちくりしました。この例だけでどうこういうのは早計かもしれないですが、日米の違いはやはりあるように感じますし、多少差し引いて読むべき部分はあるかと思います。
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食品関係の本を読むと、日ごろの自分の食生活を改めて考えてしまう。ファストフードばかりではないにしろ、時間優先でスローフードとは縁の薄い生活を反省する。おなかがすくとすぐに食べられるものに飛びついてしまう私。(もちろん選択はするが)。何でも物事の進化・発展は戦争や軍事と結びついているんだなと少し哀しくなる。カフェテリアの食事(日本でいえば給食か?)を避けてお弁当を作ったらその中身がお粗末な加工食品だらけだったという逆説的な例が印象に残る。綿密な取材に基づいた一種の啓蒙書といえる本だ。
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戦場に持って行く為に嵩張らないで日持ちする(腐らない)という発想から加工食品は発達したのか、なるほどね。
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古代ローマの農民が重用したのは飼育が楽で早い豚。
交易を支配していた塩で保存した。
モンゴル人は粉乳とジャーキー、非常食としての馬の血液。
アステカ帝国はトウモロコシやトウガラシなどの穀物のほかに敵兵の身体。
瓶詰・缶詰
2000年間続いた乾燥、塩漬け、燻製、発酵に次ぐ5つ目の保存法。
19世紀初めのナポレオン軍でアペールの加熱後の瓶詰めが採用される。
(アペルティゼーション)
イギリスでブリキ缶での一日数個の手作りの缶詰に。
パスツールが腐敗の原因を突き止める前のこと。
エナジーバー 1890年代
ハーシーがカカオに砂糖と安い牛乳と麦粉をアルミ箔で包んだ。
フリーズドライ 1950年代
氷点下で急速減圧し、水分を昇華。
野戦治療として粉末にした血漿を水で戻して投与。
中間水分食品 1960年代
低水分活性保水材で常温保存可能。
冷凍 1930年代
低温では細菌の活動が止まる。
急速冷凍にて細胞壁が壊れない。
工場製パン 1950年代
グルテン、酵素添加、イースト増量が病気の元に?
プロセスチーズ 1910年代
乳化塩により脂肪分軟化防止
サランラップ 1949年
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まさに題名通りです。
いわゆるミリメシは最前線で戦う兵士達に十分な栄養を与える必要がある為に
進化してきました。
これが一般市場でも応用されない訳がない。
レトルト食品なんぞはその典型です。
現代は言ってみれば、自分の子供達に特殊部隊と同じような食事をさせている
ことになります。
それが危険であると言いたいのではなく、あくまで戦争によってそういう食品が
生まれたということです。
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タイトルは厳めしいが、内容は科学的で読んでいて大変勉強になった。情報の密度も濃く、短かな食品の開発背景が明かされ、かなり好奇心をくすぐられて面白かった。スーパーに行くと見る目が変わること間違いなし!
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世の例に漏れず、加工食品も軍隊の糧食、サバイバルフーズ改良の副産物だそうな。あれもこれも…。あまりナーバスに受けとめると食べられるものがなくなりそう。
しかし、「私、食物の意識は高いですから」系の著書が、お子さんのお弁当にエナジーバーを入れてるってどうなんだ…?アメリカのママってこうなのか?まあ、日本ママの見せ弁も大概勘違いしてると思うが。
私も軍用食糧の開発現場、見学してみたいな。でもメールの署名が「全力投球!デイヴィッド」という軍人さんはお友達になりたくないw。何故か「錆びた太陽」@恩田陸の、「安全第一!火の用心!整理整頓!大魔神!今日も元気で行ってらっしゃい!」を思い出させる…
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日ごろからアウトドアで遊んでいるので、行動食や携帯食が軍隊による研究の産物であることは想像していた。
フリーズドライ食品は、宇宙開発の技術が使われているのだろうなとか....
が、本書に書かれているのは、そんな目に見える携帯食だけの話ではなかった。
自給自足に近い生活を送っていた世界から、大量生産大量消費の時代に移行するための技術の大半は、軍のニーズによって作られていたのだった。
もし、いま、日本のスーパーマーケットから軍の技術によって作られた食品をすべて撤去したら、スーパーの食品だなはスカスカになってしまうだろう。
軍産複合体というと、すぐ防衛装備品のに開発のことを想像してしまうが、大量の食料を調達し、一度に料理し、戦場に送り出す巨大な装置、それは軍隊だった。
軍隊は、その巨大な装置を動かすために、巨額な資金を投じ、食料を開発した。
その力があったからこそ、大草原の小さな家に暮らしていた男たちを外国の戦場に送り出し、現代社会を作ることができたのだ。
もちろん、Cレーションや宇宙食の話も出ては来るが、それだけではない巨大な産業としての軍隊の存在を、改めて考えさせられた。
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食品技術の基礎研究に対して、アメリカ陸軍が大きな影響力を行使してきた歴史を解説した一冊。HACCAPといった食品の安全管理、食の嗜好性を調べる受容性研究、栄養成分表示、微生物制御と常温保存、包装素材、物流、洗剤、食洗機、水分活性とpH値 etc... 現代人はそのイノベーションから恩恵を受けている側面もあり、複雑で多面的な課題に遭遇しました。
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加工食品の賞味・消費期限が長いのは、戦争のおかげ。戦地で食べられるために、食品企業が国を顧客に競争したために、保存期間が長くなった。
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次スーパーいったら加工食品に対しての見方が変わると思う。
人間生きたいと思ったら技術革新が進むんだなぁと思った。