雪あかりさんのレビュー一覧
投稿者:雪あかり
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紙の本おっきょちゃんとかっぱ
2004/07/22 10:57
幻想的にゆらめく水底で行なわれる河童の祭りに女の子がまぎれこむ。目に耳に心地よい、懐かしい香りのする絵本。
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長谷川摂子さんの文章は不思議だ。彼女の書いた本を朗読していると、自分がまるで語りべになったかのような気分になってくる。
「パックリ ポックリ カックリコ」
「たからを こめて かえさんしょ。」
声に出して心地よいこうした言葉たちが、読み手を自然と話の内容にふさわしい穏やかでゆったりとした語りに導いてくれる。
『おっきょちゃんとかっぱ』は幼いころに聞いた民話のような、懐かしい香りのする物語だ。一人水遊びをしていたおっきょちゃんの前に突然現れるかっぱの子・ガータロ。かっぱの祭りに誘われたおっきょちゃんは、庭になっていたきゅうりをみやげにガータロと水底に向かう。
水底の祭りは幻想的だ。なにもかもがゆらめいている。おっきょちゃんとガータロは、しゃぼん玉の出る魚の形の水笛を買った。おっぽのところを吹くとピロロロと鳴って、口から七色のあぶくが立ちのぼる。
しかしかっぱは人の肝を盗る妖怪。人間が祭りにまぎれていると気づいた大人のかっぱたちは、おっきょちゃんを取り囲む。すかさず取り出したみやげのきゅうりのおかげで、おっきょちゃんは客人として認められたが、水の外のことをすっかり忘れてしまい、かっぱの子として水底で暮らすことになる。水底の暮らしは楽しかったけれど、おっきょちゃんはやがて両親のことを思い出す。帰りたいと泣くおっきょちゃんを人間の世界に戻そうと、ガータロは「ちえのすいこさま」のところに向かうのだ。
かすかに異国情緒を内包しながら民話的な世界を描く降矢奈々さんのノスタルジックな絵が、人間の女の子が異世界にまぎれこむこのお話に見事にはまっている。ほのぐらくゆらめく水底は、淡くにじむ水彩が美しく表現している。
登場するかっぱたちに恐ろしさはなく、ユーモラスであたたかい。そして、数百年は生きてきたに違いない「ちえのすいこさま」の圧倒的な存在感。彼らの姿が、普段は見えることのない異世界の者が自然にはひそんでいるということ、だからこそ自然は人間にとっていつまでも神秘的で畏怖すべき存在なのだということを、知らずのうちに子どもたちに教えてくれる。
多くの「行きて帰りし物語」がそうであるように、おっきょちゃんもまた、ひとたび人間の世界に戻ると川の中のことをすっかり忘れてしまった。無事に帰ったときにおっきょちゃんを包んだあたたかな光は、家族のぬくもりだろうか。
けれどもかっぱたちのことが決して夢ではなかったということは、みんなを驚かせたおっきょちゃんの変化でわかる。たとえ本人の記憶に残らなかったとしても、異世界をくぐり抜けてきた——一つの困難を乗り越えたことが、少女をすこし成長させた。
じっとり湿りけを帯びた日本の妖怪が登場するとびきりのファンタジー、こういう民話的な世界を、日本の子どもたちにぜひともじっくり味わってほしい。月刊絵本『こどものとも』として1994年9月に発行されたものの再刊。長く読み継ぎたい絵本だ。
——OKI IKU*Note::絵本とこそだて
紙の本ゆかいなかえる
2004/08/19 03:14
かえるの暮らしも、わるくない。
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水の中にゼリーのようなタマゴがあった。やがてタマゴはおたまじゃくしに、さらには後足前足がはえてきて、しっぽが縮んでかえるになった。4匹のかえるは気ままに暮らす。潜ったり、泳いだり、遊んだり。……こんな具合に、かえるの1年間が淡々と描かれるのが、この絵本。鳥獣戯画を思わせる飄々とした「ゆかいなかえる」たちは、時には食べられそうになるけれど、のらりくらりとかわして笑う。彼らにとって「生きること」は「遊び」そのものであり、自分たちが生きてここに在るということが楽しくて仕方ないのだ。
絵に使われているのは水色、緑、黒と紙の白の4色のみ。しかし地味な印象はまるでなく、軽妙洒脱で心地よい。ずば抜けた構成力で洒落者の顔をした表紙からして手に取らずにはいられないが、表紙を開いて現れる見返しがまた憎い。そこに並ぶのは、しっぽのついた黒い丸の数々……そう、茶目っ気たっぷりでなんとも愛らしいオタマジャクシの大群なのだ。ここを見るだけで絵本の中に繰り広げられているユーモラスな世界がうかがえるというものだ。
奥付によれば、作者のジュリエット・キープスは「生きものたちの動くフォームが、何よりの絵の教師だ」と言っていたという。流れるようなフォルムで描かれる、かえるたちの伸びやかさ、画面にあふれる躍動感は、なるほど彼女のそうした姿勢から生まれたのだろう。
1961年にアメリカで、1964年に日本で出版されて以来、40年間にわたりロングセラーとして愛され続けてきた作品。夏中歌って遊んで過ごす4匹のかえるの姿は、読み終えた誰しもを楽しい気分にさせてくれるに違いない。まさに「ゆかいな」一冊だ。
——OKI IKU*Note::絵本とこそだて
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