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紙の本
唇をかみしめた時代
2010/09/28 08:14
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙の、短髪で大きなサングラスをかけた女性がこの作品の主人公、雑誌「月刊平凡」の編集者として多くのアイドルたちとともに時代を疾走したガサコこと折笠光子である。
印象的なのは、顔の半分以上の表情を覆い隠すサングラスではなく、下唇を噛み締めたその口元だろう。ガサコはそのようにして時代と戦ってきたのだろうかと考えてしまう、写真である。
歴史に「もし」というのはタブーだとはわかっている。それでも、「もし」の誘惑はついてまわる。このノンフィクション作品を読んだ後、頭をよぎったのは「もしテレビがなかったらどんな時代になっていただろう」ということだった。
ガサコが働いた「月刊平凡」の創刊は1945年11月である。人々がまだ映画に酔いしれていた時代だった。当然テレビはまだ誕生していない。
「もしテレビがなかったら」、その後私たちがアイドルと呼ぶ少年少女たちは生まれてこなかったにちがいない。スターはあこがれの存在として銀幕のなかにあった。
しかし、50年代になってテレビの本格放送が始まり、60年代にはいるとたちまち私たちの生活にはいりこんでしまう。ブラウン管に映し出されるスターたちは手をのばせば届くところにいた。
それに拍車をかけたのが「平凡」や「明星」といった芸能情報誌をいっていい。それらはテレビに映し出されないスターたちの素顔を私たちに提供してくれた。スターの時代からアイドルの時代は、テレビだけでは成立しなかったのではないか。
この本で紹介されているガサコ(折笠光子)はある世界だけの有名人である。その世界とはアイドルに象徴される芸能のそれである。彼女のビジネス手法が現代の時代に通用するかどうかはわからない。しかし、テレビの勃興期隆盛期において、彼女の人との接し方が多くのアイドルたちの心の空洞を埋めたことは事実だろう。
アイドルたちの笑顔の影には、ガサコのような多くの支えがあったにちがいない。
本書は戦後の高度成長期において、ブラウン管のアイドルを支えた一人の女性の物語であり、「平凡」という雑誌の盛衰の物語でもある。同時に、表紙のガサコのように女性が下唇を噛みしめて働かなければならなかった時代の物語でもある。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
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