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紙の本
20世紀の遺産!
2001/02/09 16:41
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キマタフユ - この投稿者のレビュー一覧を見る
演劇を観るときは、テーマよりは、どう観せるかという手法が気になる。けれど、戯曲だけとなると、裸になったようなもの。テーマがストレートに伝わってきそうだ。
この戯曲集には、98年の「Rihgt Eye」、99年の「パンドラの鐘」、00年「カノン」の三つの戯曲が収録されている。帯には”はっきりした頭のうちに、この三つについてだけは書いておきたかった”と記されているが、テーマはみな重め。「Right〜」は右目を失った事実とカンボジア戦争、「パンドラ〜」は第二次世界大戦、「カノン」は安保闘争の記憶が物語に隠されている。「Right〜」は野田秀樹氏にしては珍しく極私的世界を描いた作品で[ノンフィクション演劇]と銘打っていたものだが、「パンドラ」「カノン」は、巧みに違う世界にすり替えフィクションとして見せている。野田氏は「桜の森の満開の下」や「TABOO」でも[日本]を描いているから、「パンドラ」「カノン」も目新しいテーマではないのだろうが、次第に、実人生に接近してきている気も。「Right〜」で、残された瞳で観るものについてを語ったのちのこの2本、偶然なのか、それとも?という気もしないでない。
「パンドラ」は、ある戦争を境にした、ふたつの時代が交錯する物語。舞台では紙や、四角い枠を使ってふたつの世界を切り替えていた。舞台の真ん中に重く居座る鐘が印象的だった。「カノン」は、ジャンヌ・ダルクの絵のような、男達を闘いに翻弄していく女の物語。プロスペル・メリメ「カルメン」と芥川龍之介「偸盗」を下敷きに描いたものだとか。
3作とも観ている人は、場面場面をよみがえらせながら読めるが、観てない人はどう読むのだろう。台詞と若干のト書きを頼りに空想を膨らませる。それは、役者になったような大変な作業だと思う。そんな読み方もオモシロイかもしれない。野田氏の言葉は字だけでもすごく心に響くので、テンポのいい会話や、蕩々と語られる長台詞を読むだけでもいい。「Right〜」は、野田には珍しい日常の会話のおもしろさと、生身の人間的な台詞が胸をつく。「パンドラ〜」は、王国の崩壊を国民の軽妙な会話で紡いでいく。「カノン」では、カノンのように罪は繰り返されていく……という比喩が圧巻で、非情に美しい台詞が多い。
あとがきも良い。軽妙さに、野田秀樹は風のような人なんだなとか思う。ちょっとありふれた表現かもしれないけれど、戯曲として裸身をさらすんじゃなくて、あっという間に、時に激しく打ち付け、時にくるくると翻弄し、そして時にふわっと包むように。目に見えるような見えないような、でも確実に何かを感じさせて通り過ぎていくヒト。そのヒトがちょっと見せた本体を読んでみると、また新たな発見が大いにある。
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