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紙の本
綿密な考証と大胆な創作で描く、鳥人幸吉の物語。
2010/04/27 12:15
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「始祖鳥記」、これは江戸・天明の頃、空を飛ぼうと夢想し、それを
実現しようとした男の話だ。所は備前岡山。男の名前は幸吉。物語はこ
の幸吉が捕らえられるところから始まる。以前から城下で話題だった怪
鳥鵺(ぬえ)の正体はこの男だという。巨大な翼を持つその鳥は「イツ
マデ、イツマデ」と鳴いて藩の失政をあざ笑い、空を飛んでいたのだ。
3部構成の第1部はそこから時代をさかのぼり、凧揚げが好きで手先も
器用だった幼い頃の幸吉のこと、一度空を飛ぼうとした時のことなどを
こまやかに描いてゆく。
見事なのはここからで、第2部はまったく別の男たちの話になる。地
廻りの塩問屋、巴屋伊兵衛。弁財船の船主、福部屋源太郎。2人は結託
し、粗悪な塩の専売を許す幕府に一泡吹かせようと新たな塩ルートを開
拓している。彼らが鳥人幸吉とどのように結びついていくのか、ここが
この本一番のポイントだ。そして、話は怒濤の第3部へ。大団円になる
ラストで幸吉がつぶやく言葉は涙なしには読めない。ただただ空を飛び
たい、と思い続けた男の最後の言葉…う〜〜〜ん。
ライト兄弟より百年以上も前に空を飛んだというこの男は実在したら
しい。飯嶋和一は綿密な考証と大胆な創作で、ひとりの男の一生を浮き
彫りにした。これはもう見事というしかない傑作だ!
ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より
紙の本
真面目な歴史小説って、どこか堅いんだよね
2002/11/21 20:36
6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本格的な歴史小説で、一人の男の人生を異なる視点から描く三部構成。話は、飛ぶことに取り付かれた男 幸吉が軸に展開するけれど、視点によって幸吉の役割が変わっていく。だからこそ、幸吉をしっかり描くことが作品の成否の鍵を握る本で、読んでいて吉村昭の小説を連想した。
第一部は、若き幸吉が備前岡山の城下の空を鵺のごとく舞う話だが、孤独な男の暗い情熱が何とも言えない。傷つき恐れられ、追われても止める事の出来ない飛行の面白さ。それは幸吉だけでなく家族までも巻き込んでいく。ここがしっかり書き込まれているので、後で幸吉が舞台の陰に回っても戸惑うことなく話を読むことができる。
第二部は、下総行徳の塩問屋 巴屋の伊兵衛が、塩販売の独占をはかる江戸の問屋勢に叛旗を翻す話で、幸吉の働きが巴屋を助ける。ここでは下り塩の話が鍵で、当時の経済の仕組みや幕府の政策をしっかり理解しなければ、この本を楽しむことはできない。これは複雑な部分なので、経済に弱い私などには、小説らしさを犠牲にしても、一葉でいいから図版が欲しい気がする。
第三部は、伊兵衛のもとに塩を届けるために立ち上がった船頭杢平が、引退の身から再び北の海に飛び出していく話で、杢平のもとで働く若き平吉の折り目正しさが印象的だ。全体に時代がしっかり書き込まれていて、幸吉の弟 弥作、藤助夫婦、福部屋の源太郎など人物もいい。
前作『神無き月十番目の夜』は、タイトルと暗い色のブックカバーだけが印象に残り、内容は思い出しもしないけれど、今度の『始祖鳥記』は、本とじっくり付き合う快感を教えてくれる。ただし、どきどきするような本ではない、念のため。
紙の本
夢を追う男を描破する「濃い」文体
2011/07/12 13:33
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『汝ふたたび故郷へ帰れず』でデビューした飯嶋和一の二作目は、この作者の本領ともいえる歴史小説である。 江戸天明期に、空を飛ぶことに賭けて、世間を騒がせたと罰せられた男がいたそうで、その男を元に、困難な時代と、夢を追った男たちを描いた作品。飛ぼうとした本人にすれば夢を追っただけでも、周囲はそこから象徴的な力を得て事を為していく。祀り上げられた男は男で、そこから逆に刺激を受けて、懲罰の後しばらくおとなしく暮らしていたものの、結局また飛ぶ。
歴史ものということもあってか、漢字の多い、切れ目までが長い段落が続く。そうして細部を積み上げながら描写するのが作者の特徴だろう。だから読みやすくはなくて、いわばおそるおそる少しずつ読んだのだった。しかし、やはりこうして、人を励まし元気にするような語りは捨てがたい魅力である。
飯嶋和一のテーマは、しばしば腐った、まっとうに生きるのが難しい時代にあって、それと裏表で夢を追う男であり、そのための戦いということになろうか。文庫本の裏は、宣伝のためとはいえ、並々ならぬ賞賛ぶりで、そうした反響を呼ぶのもこうした作風だからだろう。私自身は、楽しみながらも、そこまで強い感動を得たわけではない。それでもこの作家、何かしら期待を持たせて、次へ、と思わせるものはたしかにあると思う。