紙の本
しぐれ町に巻き起こる些細だが当人には大きな事件が、町民たちを優しくさせる
2009/12/03 19:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
市井に生きる人々の生活に起こるさまざまな問題と、それによって揺れ動く心の情景を描いた連作長編。
ここでは大事件は起きず、旦那が浮気した、妻が男を作って家を出た、父が借金で……という日常に起こりそうな、大事件ではないが当人にとっては大問題が起きる。
助け合い気をかける人々の行動が身近に感じ、そっと触れるような心の機微が読む者に流れ込んでくる。
はっきり言って最初の一話を読み終えたとき、少々物足りなさを感じた。
先に書いた大事件が起こらないため、物語に起伏が不足しているように感じ、淡々と物語が進んでいっているような印象を受けたためだった。
しかし幾話か読み進めていくと、ここで描かれているのが『しぐれ町』という狭い世間であることに気付き、主人公だった人物が、別の話で脇役として登場すると、この人は前にあの問題で困っていた人だな、と思いだして『しぐれ町』の一人の住人のような感覚になる。
『しぐれ町』の住人になってしまうと、しぐれ町の人々に起きている小さな波紋のような問題に興味が湧き、野次馬根性のような好奇心が起きて、人がうわさ話を聞いたり話したりするような感覚にさせられる。
町の様子を俯瞰しているような読者目線に近い登場人物の加賀屋万平は、おなじ自身番に勤める清兵衛が驚くほど、いつどこから仕入れたか分からないほどの噂や情報を持っており、彼が清兵衛にポロリと話すことが、読者の『しぐれ町』への好奇心を誘う。
巻末の『対談 藤沢文学の原風景』に説明されているが、作者はここで描かれている人々に救いを与えている。
みんな自業自得を含め苦労しているが、堕ちるところまで落としていないので、どこかほのぼのとした『しぐれ町』の雰囲気を醸し出している。
本書に収録されている物語に「猫」「ふたたび猫」「みたび猫」「おしまいの猫」があり、どれも栄之助を描いているが、これが各話のいい位置に並べてあり、どうしようもない主人公の姿が全体に面白いリズム感のようなものを作っているように感じた。
まったりと読むのがピッタリな小説です。
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それぞれの問題を抱え、それぞれの暮らしを営む人々の姿。劇的に交わる事もなく、只淡々と過ぎゆく日々…。しかしそこには毎日を生きようとする「人」の姿があり、それらが集まって生まれる町の「風景」がある…。市井の人々の哀楽をやさしい眼差しで描いた、情緒ある連作小説です。
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だいぶ前に読んだものだけど、読書を意識し始めてから読んだものだから追加しておく。
これはしぐれ町にすんでる人たちのそれぞれの事情が絡まっている様子をかいたもの。その絡み方がおもおしろかった。ここでこう絡んでくるのかーっていう。
案外世の中ってのはこんなものなのかもしれないとか、人はそれぞれ事情があるもんだなぁと思った。。。そんな解釈でいいわけないけど笑。
普通におもしろかった。でも全然藤沢周平のよさはわかってないのだろうな〜。
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江戸にある架空の町を舞台にした連作短編集。
町民たちの日常が生き生きと丁寧に描かれている。
登場人物がリンクしたり,
同じ飲み屋が情報交換の場として登場したりする。
巻末の対談でも語られているが,
人間の弱さへの共感が心地よい。
個人的には「朧夜」,「春の雲」が良かった。
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架空の「本所しぐれ町」を舞台に、そこに息づく人々がつむぐ連作短編。
作中に「男女の仲は本当に不可思議」とあるとおり、〝色〟にまつわる物語が多い。人情味もたっぷり含まれていて、仕事帰りなどに読むとホッとする。
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全1巻。
普通の人達の話。
なんだろう。
群像劇なのか?
でももっとバラバラな印象。
長屋みたいなとこに住む人達の
日常の中のドラマの短編集。
その中で時々大家が
全体のまとめ役みたいに出て来る感じ。
ただそれぞれの話で全体の話にってほどでもない。
淡々とながめてる感じ。
なんかあんまり分からなかった。
でってゆう。
まあ。
空気を楽しむんだろうなあ。
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下級武士と江戸町人の世界を題材にした「弱者救済」これぞ藤沢文学。
読み始めると止められない。
残念ながら角川になし(新潮・文春)
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おもしろすぎる。12編全体で「本所しぐれ町」という仮想の町の人間模様を表している。登場人物はそれぞれ愛すべきキャラの持ち主。特に「猫」「ふたたび猫」「みたび猫」「おしまいの猫」の栄之助には「やっぱり悪いことはできないね」と思いつつ、少し同情する。
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「春の雲」と「乳房」が、とても良かった。
藤沢周平さんの小説、なんで今まで読まなかったんだろう。
とても損した気分…。
暫く、はまりそう!
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司馬遼太郎とも池波正太郎とも違う、まさに藤沢周平ならではの作品。ごく普通の人たちの日常の中から「弱さがあるからこそ、人間はいとおしくていいのではないでしょうか」と語る氏の気持ちが滲み出てくる。藤沢氏の極落ち着いたトーンの中にほろっとユーモアと暖かさがこぼれおちる一冊。私は猫好きなので、合間合間に間奏曲のように出てくる猫の話がまたいい味出してると思ってます。
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最近はまり気味の藤沢周平。
寝る前に少しずつ読み進めている。
藤沢ワールドのおかげで心がほっこりしてくる。
せまりくる展開があるわけでもないので、寝る前に読んでも眠れる。
登場人物が異常に多いので、人間関係を繋いで読み進められるとより楽しめるのかな。
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本所しぐれ町にすむ人々が主人公。
浮気話や小僧の初恋話などが入っていて緊張感や殺伐とした感じはありません。
登場人物がなかなか多いので頭のなかで整理しながらよんだほうが楽しめると思います。
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浮気に腹を立てて実家に帰ってしまった女房を連れ戻そうと思いながら、また別の女に走ってしまう小間物屋。大酒飲みの父親の借金を、身売りして返済しようとする10歳の娘。女房としっくりいかず、はかない望みを抱いて20年ぶりに元の恋人に会うが、幻滅だけを感じてしまう油屋。一見平穏に暮らす人々の心に、起こっては消える小さな波紋、微妙な気持ちの揺れをしみじみ描く連作長編。
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江戸の本所しぐれ町の町内に起こる様々な事件(というか日常茶飯事的な大騒ぎ)の話。隣近所の晩ご飯の匂いが伝わってくるような空気感っがあって、昭和の東京下町にもあった風情が思い出されます。落語に出てくる熊さん、八っつぁん、ご隠居や若い衆も居て、落語みたいな感じもします。登場人物の口語が藤沢周平らしい、なんとも言えない風情があります。(この本のレビュー前も書いた気がするんだけどなぁ)
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本所の下町の大家さんを中心とした人々の生活模様。江戸時代が舞台でありながら、出てくる人物の親しみに昭和20~30年代を思い出させる人情を感じます。おしゃまな10歳の少女、どうしようもなく、女にだらしないが憎めない若旦那、堕落した弟を心配するが、去るとともにホッとする兄・・・