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紙の本
テロとゲリラの海
2015/04/18 08:49
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
パナマ運河を渡る船上からの景色に始まり、大西洋を南下してブエノスアイレスに向かう貨物船、寄港地で荷下ろし、荷積み、船員は上陸ごとに気晴らしと、平穏な日常を繰り返す航海のはずだった。だがチェ・ゲバラの死後、ラテンアメリカの革命勢力は中心を失って混沌とした状況にあり、新たな求心力を求める大きなうねりの中にあった。それでも極東の貨物船が、ドンパチ騒ぎに巻き込まれるには距離がある。だが一等航海士を始めとした船員達は小さな異変に気付いていき、やがて船を引きずり込む巨大な陰謀の存在を目の当りにする。
ラテンアメリカの混乱は、日本人の知らない世界秩序の裏面であり、平和、人道、公正さといった我々の信じる建前論がすべて、アメリカの利益やイデオロギー、怨念のために覆され続けている。ほとんどの日本人はそこに触れることはないし、耐性も無く、その局面にぶち当った時に対処のしようがないかもしれない。様々な権益の上に成り立っている権力は、体制維持のためにあらゆる手を使ってくるということにはなかなか考えは及ばない。
船員のような常に世界各地を巡っている人間であれば、そういった背景知識はあるかもしれないが、それでも暴力沙汰に及んだ時に対処できる人間は稀だろう。そこでこの主人公が目をつけられたのだろうと思えるわけだが、船乗り特有のプライドと技術があり、そういう人物の素質には余人の想像の及ばない領域にある。
政府の手なのか、財閥の私兵か、ゲリラの一味か、「ニューヨーク」か、武将集団に蹂躙されても、船を乗っ取られても、動じずに事態を見極められるということが、既に日本人離れしている。
知らない間に一般市民が姿を消しているといったことが起きて何の驚きも無く、またどちらに正義があるのかも、誰が敵で味方なのか見当がつかない、そういう世界の現実は、渦中に投げ込まれて初めて理解できるのかもしれない。まして太洋のただ中、船の上でいかなる無法が行われても誰にも知られることもない。絶え間なく響くエンジン音と機械油の匂いの中が充満し、そこでこそ存在感を増す男達がいて、理不尽に覆われた世界と対決することになる。そのサスペンスは僕らにとって大きな緊張を孕んだもので、作者の海洋冒険小説の中でも傑作の部類になるのではないだろうか。
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