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鬼貫警部シリーズ
セールス中に「稲村の奥さん」という言葉を残し殺害された和田塚。捜査を進める中殺害された元ホステス・長谷鶴子。和田塚のであった「稲村の奥さん」であった可能性が出た鶴子。和田塚の同窓生「稲村」を捜査する丹那刑事。福岡の由比という人物の乗った「海星」。鶴子のイヤリング。ある人物を強請っていたと思われる寿司職人・人見参治の殺害事件。由比の満州時代の学歴に隠された秘密と不妊に悩む由比夫妻。
2010年12月23日読了
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3+
終盤、怒濤の推理展開で、鉄壁のアリバイを崩していく様は、正にがらがらと音を立てて倒れゆく積木の塔といった趣で圧巻。ただ僅かに腑に落ちないのは、その推理のきっかけが二つ三つ、かなり偶然性の高いものとして描かれていることか。手掛かりはそのものは捜査で得た情報なので、そこから更に意識的に捜査を進めることで、新たな情報を得るような描写でも良かったのではないだろうか。
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先日「りら荘事件」を読んで、<鬼貫警部事件簿>シリーズを再び読みたくなった。
東京・目黒の喫茶店で中年セールスマンが毒殺された。被害者が最後に喫茶店で会っていた女は数日後、広島・廿日市の線路脇で他殺体となって発見された。
女のバッグからは急行<海星>の寝台券が出てきたことから、<海星>の車中で殺され、列車から投下されたものと思われた。
そして鬼貫は女の関係者である由比という男が怪しいと睨むのだが、由比には鉄壁のアリバイがあった…。
毎回楽しいアリバイトリック。
被害者である女が<海星>の車内で殺されたと思われるものの、由比は<海星>に乗った形跡がない。では<海星>に廿日市に着くまでにどうやってか追いつき、女を殺したのだろうが、そこにどんなトリックがあるのか。
様々なパターンを考えながら読んだのだが、少しは当たり、少しは違っていた。
しかし何より意外だったのはその動機や事件の構図。
東京でのサラリーマン殺害から始まり、広島で女が殺され、容疑者の由比は博多に住んでいる。さらには山口・徳山でも別の殺人事件が起こっている。これらがどう繋がり、由比はなぜこれほど込み入ったトリックを講じてまで犯罪をやり遂げなければならなかったのか、そちらの方が気になったのだが、そこまでしなければならなかったのか?というような真相だった。
読んでみて、松本清張氏の「点と線」を思い出した。調べてみたら1957年~1958年に雑誌掲載されたもの、対してこちらは1966年出版になっている。
「点と線」を意識した作品なのだろうか…と思ったが、登場人物が満州にいたり軍隊に入っていたりと戦争の影がまだ色濃く残っている時代設定になっているため、実際に書かれたのは1966年よりかなり前なのかも知れない。
ここまでトリックを駆使しても、結局最終章のタイトル通り『崩壊』してしまうわけだが、それがそのまま作品のタイトルにもなっているということなのだろう。
完全犯罪の積もりが、実際は計画通りにはいかない。予定外、想定外のことが次々と起こり、そのために余計な犯罪まで起こさなければならなくなる。
だがそもそもの原点、なぜここまでしなければならなかったのかという部分については時代も感じる。しかしこんなことで、と他人からは見えることでも本人には一大事で、しかもそこしか見えていないから起こる犯罪というものは現代でもあるのだろう。