紙の本
正々堂々経済学者
2010/02/05 00:02
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まさしく題名通りの過不足のない本である。何かと奇を衒った書名の本が多い現在にあって、直球勝負のタイトルと内容が爽快である。本書には、誰もがまだ知らない新規な事柄や、何かしらの裏事情がわかるわけではない。むしろ、淡々とした記述が積み重ねられて行く。本書を読んだ経済学者や評論家の中には、「この程度のことなら私も知っている」という人がいるかもしれない。しかし、実際にそれを「書ける」ことは全く別次元の問題である。
本書を手にとって、「どこかで目にしたことがある」事柄が、誰でもひとつやふたつはあるのではないだろうか。それらをきちんと体系の中に示す。本来、それこそが「本」や「研究」の役割ではなかったろうか。本書が受賞したり評価が高いのも、現在の出版界で、こうした正面から取り組んだ本がそれだけ希有だ、ということにもなるだろう。
新書判でも400頁近い本書は、第二次大戦後の復興と、経済秩序をどのように作ろうとしたか、といったことからはじまる。先進各国の経済成長、混合経済体制の試み、社会主義、オイルショックといった現代経済史のポイントを確実に抑えていく。ブレトンウッズ体制などいった先進国の話だけではなく、「東アジアの軌跡」やアフリカ大陸の現状までも、きちんと盛り込む。その目配りはひじょうに丹念である。一方で、個々の技術や労働者というミクロレベルへの言及も忘れていない。このあたりは、労働経済学から出発した著者ゆえのバランス感覚だろう。
そうした細心の配慮にもとづき、ひじょうにわかりやすいものになっており、若干の経済理論的解説を除けば、「高校の教科書」としても十分に使えるのではないだろうか。強いて弱点をあげるのであれば、著者自身も記すように、紙面の制約のために(本書のために準備していた)図表がほとんど掲載されなかったことくらいであろう(ちなみに、図表が豊富なコンパクトな経済史は、日本に限って言えば、正岡の『図説戦後史』ちくま学芸文庫がある)。なおこれは、「次」の企画として期待されるべきであろう。
さて、本書は単に「網羅性」「わかりやすさ」にこだわっていたわけではない。サブタイトルや「むすびにかえて」に「自由と平等」が入っているように、経済思想的な課題にどう答えるべきか、というところに本書の主眼はある。イデオロギー的な主張をふりかざすのではなく、まずはきちんと読者に戦後世界経済を提示して、「考えてもらう」ことを謙虚にも選択したわけである(経済事情や時勢におもねるような文書を書き散らす自称経済学者Nとは格が違う)。
なお、著者のスタンスは、社会主義経済の試みについては、実際の歴史をふまえて一貫して否定的であることは当然としても、市場万能という側にも与しない。20世紀初頭の世界恐慌と現在の金融危機とを比較して、「経済学は過去80年の間に確実に進歩した」と記すように、知性による欲望の制御ができる制度を主張している。経済学のみならず、社会科学系の学問が元気がないなかで、著者の精一杯の自己主張である。
紙の本
戦後の半世紀の経済的な動向を検証した書です!
2018/11/21 12:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、第二次世界大戦から半世紀を迎えた今、その間の急激な経済発展、社会変化を検証した書です。この半世紀は、著者によれば、民主制と市場経済がキーワードになると強調されています。そして、その一つ市場化を軸に、この半世紀の経済動向・変化を見つめたのが本書です。非常に興味深い内容で、この一冊を読めば、戦後の経済変化とその背後にある社会がよくわかります。
紙の本
わかりやすい
2021/02/07 13:31
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次世界大戦後の世界の経済史について、分かりやすく解説されていてよかったです。グローバリゼーションが、大切そうです。
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戦後の世界経済の潮流を描いた意欲作。
教科書みたいな内容。これだけ調べるのは大変でしょうね。一貫する思想というのが感じられなかったが、世界史が同時に学べる感じ。
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僕が勤めている会社は霞ヶ関にほど近い場所にあるものだから、
近所に二三軒ある書店の品揃え、平積みの本は
他の街の書店とはだいぶん違う。
官僚たち必読の本がかなりの量で並んでいる。
いまだったら、民主党や鳩山総理、政権交代に関する本を
山ほど見かける。
アマゾンなどのオンライン書店との違いは、
休憩時間や帰宅途上にふと覗いたときに
気になり買ってしまう本が見つかることである。
そんな本を仕事から解放された週末に読むことは
僕の無常の愉しみのひとつである。
まだ四分の一ほどしか読んでいないが、
そうして偶然手にした
猪木武徳『戦後世界経済史ー自由と平等の視点から』
(中公新書)は買い物だった。
著者の「はしがき」にこうある。
本書の目的は、
第二次世界大戦後から二〇世紀末までの
世界経済の動きと変化を、
データと経済学の論理を用いながら鳥瞰することにある。
無謀な試みかもしれないが、
全体を大雑把に見るということは、
細部を正確に観察するのと同じくらい、
時にはそれ以上に重要である。
(同書p.iより引用)
会社勤めで時間の融通がままならない身にとって
経済や歴史の細部を勉強する時間はそうそう取れない。
かと言って、やたらスキャンダラスなタイトルや見出しで
時流に迎合した書物、雑誌は少しも栄養分にならない。
読むだけ時間のムダである。
アカデミズムに生きる学者の洞察のエッセンスを分かりやすく、
かつ大部でない分量の書物で聴かせていただきたいというのは
市井に生きる人間にとって、きわめてまっとうで、
かつ、つつましい要望であると僕は考えている。
古今東西、優れた啓蒙書を書くことができるのが、
優れた学者である。
自分が本質を理解していなければ、
他人に分かりやすく書くことはできない。
その点で、この本には随所に著者の洞察が詰まっており、
「脳の食べ物 (food fot thought)」には
もってこいの内容であるように思う。
本の腰巻きコピーもよかったね。
曰く、
わたしたちは
何を得て
何を失ったのか
残る四分の三を読み進めながら、
著者と対話し自分で考えてみるのが楽しみだ。
ところで、新橋駅前にあった二階建ての本屋が
月が変わったらチェーンのスーツ店になっていた。
オンライン書店は確かに便利だが、
リアル書店を絶滅させることは危険であり
知的生活を後退させ貧しくする。
街の本屋でもお金を使おう。
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『戦後世界経済史―自由と平等の視点から』(猪木武徳、2009年、中公新書)
これは戦後世界経済の包括的な理解のためにはうってつけの本である。
戦後世界経済の歩みが、アメリカ・日本・欧州、東側諸国、南米、アジアの各エリアにわけて述べられているので、とてもわかりやすい。
(2009年10月20日)
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大阪大学経済学部教授を経て、現国際日本文化研究センター所長の猪木武徳による戦後世界経済の概説書
【構成】
第1章 あらまし
第1節 5つの視点
第2節 不足と過剰の60年
第2章 復興と冷戦
第1節 新しい秩序の模索
第2節 ソ連の農業と科学技術
第3節 通貨改革と「経済の奇跡」
第3章 混合経済の成長過程
第1節 日米の経済競争
第2節 雇用法とケインズ政策
第3節 欧州経済の多様性
第4章 発展と停滞
第1節 東アジアのダイナミズム
第2節 社会主義経済の苦闘
第3節 ラテンの中進国
第4節 脱植民地化とアフリカの離陸
第5章 転換
第1節 石油危機と農業の停滞
第2節 失業を伴う均衡
第3節 「東アジアの奇跡」
第4節 新自由主義と「ワシントン・コンセンサス」
第6章 破綻
第1節 国際金融市場での「破裂」
第2節 社会主義経済の帰結
第3節 経済統合とグローバリズム
第4節 バブルの破裂
むすびにかえて
中公新書の通巻2000点目ということもあり、本文375頁に参考文献リストが20頁という力作であり大作である。
冒頭で述べられる本書の視点は次の5つである。①市場の浸透と公共部門の拡大、②「グローバリゼーション」と米国の時代、③所得分配の不平等、④グローバルガヴァナンス、⑤市場の「設計」と信頼、がそれである。
経済史と銘打ちながら、上記の観点からの議論構築を試みていることもあり、単純に時系列では進まない。アメリカ合衆国、西ヨーロッパ、ソ連、日本、東アジア、東欧社会主義圏、ラテン・アメリカ、アフリカと各時代に注目すべき地域に光をあて、概観することで世界経済の全体像を映し出そうとしている。
読了して痛感したのは、経済史的観点からみても1960年代末から1970年代にかけての変化は20世紀後半の中で最大の転換であったという点である。パクス・アメリカーナの一翼を担ったブレトンウッズ体制が崩壊し、世界全体が構造的な不況に突入した時代であり、自由と平等の意味が変質した時代であった。
著者は60年の歴史を概観した後に、末尾において常にせめぎ合う「自由」と「平等」の概念の問題を改めて取り上げる。そこまで読ませてきた内容を、「人的資源の育成」という著者の「思い」につなげるあたりに巧みさを感じる。
経済史についての知識を持ち合わせない門外漢には、著者が語るマクロな世界観を十分理解するのは難しかった。しかし、これだけの情報量を1冊の新書にまとめられているということは非常に幸運なことだと思う。
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「市場化」を軸に世界経済の半世紀を概観したもので、新書本としては400ページとかなりのボリュームである。しかし、それだけ読み応えもある。市場の浸透と公共部門の拡大、グローバリゼーション、所得分配など、様々な問題が歴史的な変化とともに議論される。「博識の著者のみが書ける壮大な経済史」。(日経福田慎一:2009/12/27)
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p.35 1964年のケネディ・ラウンドで乗用車の関税が問題になった。宮沢喜一通産大臣(当時)は、「日本は自動車を買えばいい」と主張。
よれにたいし、通産省は「冗談じゃない、日本はそのうち乗用車を輸出すんですから」とたしなめられたとのエピソードが残されている。(『宮沢喜一回顧録』)
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読み始めは難しい印象があったものの、読み進めていくと学術書にしては読みやすかった。
内容については、日本経済だけではなく、米国、欧州、アジア、南米島世界各国の経済史を分かりやすく述べている。
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■概要
第二次大戦後の世界のキーワードである、「民主制」と「市場経済」。
この本では「市場化」を軸にこの半世紀を概観する。
日経でエコノミストが選ぶ経済図書の2009年第1位を獲得したほか、
丸善、有隣堂といった書店の店頭でもpopが熱いです!
■仕事に活かせる点
・・・まずは読みます。
(さわ)
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名著だと思う。ここ数年、マクロ経済学やリフレの経済本ばかり読み漁ってきたことを痛感した。それだけが経済じゃない。
トクヴィルからクルーグマンまで、さまざまな視野からの文献の引用。
結局、経済は、哲学や倫理学の上に成り立っているんだ。
まえがきとあとがきが秀逸。
すばらしい。二度三度読み返したくなる。
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表題の掲げる対象が複雑多様でかつ膨大であるところに読者は戸惑いを覚えるかもしれない。これを厚手とは言いながらひとつの新書に納めた筆者の努力には敬意を表したい。
歴史を記した本らしく、実例を引いた上で高名な学者の考察を引いている手法はオーソドックスで、我々実業家の知識取得の手段としては絶好のものだと思う。
著者自身の訴えている、政策に対する経済学の重要性や、市場経済が社会の豊かさに貢献する事実、政治が経済のパフォーマンスを左右することなど、ごく標準的な経済学の主張に基づいていて、極端な主観を排する姿勢を感じる。
森永卓郎や東谷暁のようなエセ経済学者の主張を論破することは、こうした単純な事実を積み重ねるだけで十分だ。
特に、政治と経済の相互作用について、分かりやすく書かれている部分が多く参考になる。もちろん、事実はそんなに単純化出来るものではない。しかしながら、我々が政治や経済に関わる上で重要な示唆にとんだ指摘が多いと思う。
むしろ、この程度の知識・認識を疎かにしたままで政治や経済のプレーヤーとして重要な地位を占めてしまっている人のいかに多いことかということに愕然とするかもしれない。
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社会主義経済の非効率性を具体的な例を用いて書いている
本は少ない。また、発展途上国の経済にまで筆が及んでいる
のは逸脱である。
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長いです。そして内容も難しい。けど戦後60年の世界中の経済の流れをよく網羅してある。
60年前と現在では何もかもが違う。そしてこれからも世界はどんどん変わっていく。経済だけでなく政治や人の生活も。
勿論、どう変わるか断言はできない。けど今世界がどういう方向に足を向けているのか、漠然とながらも理解できる。