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紙の本
後半の教育論、理解論が面白い。
2009/04/17 16:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
エッセー集も3冊目になると、「前に読んだ」と思う内容もかなりあります。前半、「世界平和はナマコとともに」(雑誌に連載)は生き物としてのナマコの話ですし、その次の章も「おまけの人生」あたりと重複している部分が多い。後半は教育論的なものがまとまっていて、個人的にはこれまでと違うまとめ方で大変面白く読みました。
「うたう授業で教育改革」の章には、今の理科教育に必要なものはなにか、が「本川流」に語られています。「体の動きと関連付けて記憶するのが実践的」「右脳(イメージ)と左脳(論理)の両方で理解してはじめて、本当に理解・納得したになるのではないか」あたりが、お得意の「うたう生物学」につながるのですね。歌うことも体の動きのひとつですし、ついでに「踊っちゃえば」体の動きにも関連できる。著者が「うたう生物学」を続けている理論背景がよくわかります。どなたかの記念日に書いた歌(もちろんお唄いになった)もいくつか入っていますが、これはいつものご愛敬、というか本川先生の「主張の実践」というところでしょう。
ご所属の東工大はいくつかの大学と提携しているのですが、その具体例も面白かったです。医科歯科大学との学園祭ジョイント講演会は、「有名な先生がいるとこういうこともやれちゃう」というおもしろさでした。一橋大学の学生と自校の学生を比較して、文科系と理科系の言葉の違いを論じた話には「教師の側にもこういう提携で初めて知ることもあるんだ」と、ちょっと驚きも感じます。
小中高の国語教育でも、文学に偏りすぎずに、「正確に表現・記述する力」など理科に通用する教育をしてほしい、というご意見はなかなかもっともなことに思えました。もしかしたら、国語で「科学的」に通用する言葉の教育の部分が必要なのと同時に、理科でも言葉の教育、背景となる社会や歴史の教育の部分と、もう少しここでも「提携」(というか相互乗り入れ?)があってもいいのでは?
「寿司サイエンスvsハンバーガーサイエンス」は、科学の考え方も東洋と西洋の文化の差がこんな風にある、という話。それだけならいろいろな人が書いている、という気もしますが、ちょっと独特なのはもともとは著者が英語で書いたものだということ。著者のホームページから原文も読める、というので見てみましたら「これはアメリカの科学哲学の教科書にも、図を含めて引用されていますし、日本に仕事にくる海外の研究者の、まず読むべき文献の一つにあげられています」という説明がついていました。英文も理科系の「難しくない、単純明快」な文章なので、こちらも一読お勧めですが、まずは日本語で読んでみるだけでも、東洋と西洋の違い、科学の位置づけなど、関心がある人にはいろいろと触発されるものがあるでしょう。
と、言うわけで、はじめて本川先生のエッセーを読む方は最初から読んで面白く、これまでいくつか読んできた方には「こういうのもあるのか」と後半がより面白い、と思います。
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