ヘリックスの孤児 みんなのレビュー
- ダン・シモンズ (著), 酒井昭伸 (訳), 嶋田洋一 (訳)
- 税込価格:770円(7pt)
- 出版社:早川書房
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紙の本
シモンズかく語りき
2010/07/29 21:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:峰形 五介 - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界で二番目に高い山K2の登頂に挑む三人の男と一体のエイリアン。
沈みかけた太陽の光を受けながら狭い尾根道を歩いている時のこと。一行のリーダーであるゲイリーがいきなり「おれは巨人だぞ」と叫び、狂ったように両手を振り回し始めた。いや、ゲイリーだけではない。登攀技術では誰にも負けないポールが、そしてエイリアンのカナカレデスまでもが同じように叫び、腕を振り、飛び跳ねているではないか。
最後の一人、ジェイクはただ呆然と立ち尽くすばかり。皆、酸素不足のせいで正気を失ってしまったのか?
しかし、ふと東に目をやった瞬間、ジェイクはすべてを悟り、仲間たちと一緒にはしゃぎだす。当然だ。こんなものを見たら、誰でもはしゃいでしまうだろう。
さて、彼らが見たものとは……。
本書はダン・シモンズの短編集だが、エッセイ集としての側面もある。全体の序文と各作品の前書きでシモンズがとにかく語りまくっているのだから。創作について、教育について、SFについて、詫びや寂びや渋みについて、時には重々しい語調で、時にはユーモアを交え、時には怒りを滲ませ、時には子供のように喜々として、もう語って語って語って語って語り尽くしている。シモンズのファンには堪らないだろう(私はべつにファンというわけではない。本書を手に取ったのは『ハイペリオン』四部作の後日談を読みたかったから)。
そんな語り尽くしエッセイ(じゃなくて、あくまでも前書きなんだけど)と共に収録されている作品は五本。
最初の『ケリー・ダールを探して』は心に傷を負った教師と元・生徒との愛を描いた物語。『エンディミオン』や『カナカレデスとK2に登る』と同様、シモンズのアウトドア志向がよく判る作品である。
次の『ヘリックスの孤児』はハイペリオン・サーガの後日談(もちろん、ハイペリオンのマスコットとも言えるシュライク君もちょっとだけ登場するよ)。お世辞にも大傑作とは言えないが、ハイペリオン・サーガの感動をだいなしにする蛇足的な代物ではない。また、前書きで紹介されているエピソード(この後日談が生まれた切欠は『スター・トレック ヴォイジャー』だったとか、ローカス賞を受賞したために毎年恒例の〈リンカーン・ストリート水合戦〉なるイベントに参加しそこねたとか)もおもしろい。
一千年後の地球を舞台にした『アヴの月、九日』は『イリアム』の前日談(この短編を書いた時点で『イリアム』の構想があったかどうかは知らない)。本編よりも前書きのほうが読み応えがあった。「一千年後の世界にも確実に残っているものはなにか?」という問いに対してシモンズが出した答えは日本人には縁遠いものだが、その答えの裏にあるのは人類の普遍的な問題だ。
『カナカレデスとK2に登る』は『岳』のSF版といったところ。収録作の中ではこれが一番お勧め。この書評の冒頭で紹介したシーンが特に印象に残った。ただ、エイリアンのカナカレデス(の容貌はともかく、内面のほう)が「人類の良き先達」型とでも呼ぶべきステレオタイプであるところがSFとしてはちょっと物足りなかった。
ラストの『重力の終わり』は小説ではなく、映像シナリオ用作品。この作品の前書きにあるシモンズの自嘲めいた一文が笑える/泣けるので、最後にそれを引用しておこう。
「ほとんどの作家は、ハリウッドと映画に対して愛憎なかばする感情を抱いている。文学は映画よりも優れていると信じながら、ハリウッドに無視されるのは我慢ならない」
紙の本
いかにシモンズとはいえ、自らの『ハイペリオン』『イリアム』を越えることは難しかった。ま、ボリュームの違いがあるし、シモンズのような長編型の作家では当然のことかもしれません。
2010/06/25 19:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
椎名誠のエッセイを読んでいて思うのは、シーナさんの読書の仕方って言うのは私の理想だな、っていうことです。その対象ジャンルの広さ、本の扱い方、愛書家のそれとは異なりますが、読書への愛情が溢れています。そのシーナさんがことあるごとに褒めるのが20世紀末に出版されたSF『ハイペリオン』四部作です。私も出版当時、読みましたが、その衝撃は今になっても忘れられず、私のベストSFでもあります。
今は大学生になりましたが、次女が委員となって学校にシーナさんを招いて講演をしてもらったとき、シーナさんが面白い本としてあげたのが『ハイペリオン』だったそうです(ちなみに、もう一冊がリチャード・モーガン『オルタード・カーボン』)。で、その『ハイペリオン』を書いたのがダン・シモンズ、今回の『ヘリックスの孤児』の著者です。
私は、『ハイペリオン』読了以来、ダン・シモンズの名前を見れば無条件に読むことにしているのですがカバー後の言葉に
*
永住の地を求めて旅立ったヘリッ
クスの民は、400年後にアウスタ
ーからの救難信号を取け取ったが
……現代SFの頂点を極める〈ハ
イペリオン〉シリーズの後日譚を
描いてローカス賞を受賞した表題
作をはじめ、古典的人類の最後の
日々を描く〈イリアム〉シリーズ
前日譚「アヴの月、九日」、傑作
異次元SF「ケリー・ダールを探
して」など、本邦初訳を含む5篇
を収録し、当代随一のオールジャ
ンル作家の魅力を凝縮した傑作集。
*
と、「〈ハイペリオン〉シリーズの後日譚」「〈イリアム〉シリーズ前日譚」となんとも嬉しい言葉を見ることが出来ました。これは買うしかない、そう思います。ちなみに、加藤直之のカバー・イラストですが、色合いが悪いと思います。それに宇宙船が安っぽい。いかにもアメリカのCG映画に登場するものみたいじゃありませんか。カバー・デザインはハヤカワ・デザイン。早速、目次にしたがって各話の初出、あらすじを書いておきましょう。
序文
・ケリー・ダールを探して Looking for Kelly Dahl オムニ・オンライン1995年9月号:愛と喪失と裏切りと脅迫観念と中年の怒りを扱った傑作異次元SF? 何故か時を経て殺しあうことになった教師ジェイクすと女生徒ケリー・ダール・・・
・ヘリックスの孤児 Orphans of the Helix (Far Horizons 1999):永住の地を求めて旅立ったヘリックスの民は、400年後にアウスターからの救難信号を取け取ったが…現代SFの頂点を極める“ハイペリオン”シリーズの後日譚を描いてローカス賞を受賞。そのおかげでシモンズが楽しみにしていたお祭りに参加できなかったとは。それにしても五体のAIに〈西行〉〈芭蕉〉〈紫式部〉〈一休〉〈良寛〉と名付けたサービスぶりに脱帽・・・
・アヴの月、九日 The Ninth of Av (Destination 3001 2000):古典的人類の最後の日々を描く“イリアム”シリーズ前日譚、ていうかユダヤ人問題を扱った作品? でも読者としてはイタリアの文学フェスティヴァルでの異性人とシモンズとのコンタクトを見たかった・・・
・カナカレデスとK2に登る On K2 with Kanakaredes (Redshift 2001):カマキリ型異性人とのぼるヒマラヤ、っていうアイデアだけでも降参。しかもそれがアメリカ国務長官の命令となると・・・
・重力の終わり The End of Gravity (本作品集初出):映像シナリオ用の作品、だから文章で読むと難解? ロシアの宇宙計画の記事を書くために現地に派遣されたロスを空港で出迎えた女性秘書兼通訳は、どこかで見たことがあるような・・・
訳者あとがき 嶋田 洋一
全く趣味の問題ですが、予想外に楽しかったのは「カナカレデスとK2に登る」です。私は昆虫が好きではないので、どこまで楽しんだのか、って言われるとビミョーなんですが、でもこの組み合わせは嫌いじゃありません。ついこの間、チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』を読んで、こちらは人間と巨大昆虫との恋、みたいな話で、それに比べればまだ理解しやすい。
それと、色々な説明なしに殺人ゲームを繰りひろげてしまう「ケリー・ダールを探して」です。これは映画化すれば一気に引き入れられるんだろうなあなんて思います。とはいえ、映像シナリオ用の作品とある「重力の終わり」は、スパイ小説を読みなれた私にとってはフツー。シーナさんじゃありませんが、シモンズ作品のジャンルの広さを示すものとして楽しむのがいいのかもしれません。
巨大SF作品の前日談と後日談は、やはり本編である2つのシリーズを読む前後に続けて楽しむべきでしょう。『ハイペリオン』『イリアム』二作品を読んで結構時間が経つ私などは、中途半端にそれらの記憶があるものですから、かえってすんなり入っていけなかった気がします。勿体ない事をしました・・・。
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