紙の本
柚子の花が咲く頃
2010/06/21 19:48
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
宝永年間、郷学の恩師・梶与五郎が隣の藩で殺害され、
かつての教え子たちが、その死の謎に迫ります。
江戸詰めを終えて出仕している筒井恭平、
勘定方の穴見孫六、
そして庄屋を継いだ儀平、
儀平に嫁いだおようら。
武士の子も百姓の子も共に学びました。
彼らが語る与五郎の思い出がいい。
「棺を蓋いて事定まる」の言葉通り、
生きているときは浪人崩れで遊び好きだった与五郎が
死して皆の心に蘇る時、弱い者に優しく、
子どもたちの将来を案じていたことがわかるのです。
与五郎は子供たちに教えました。
「桃栗三年柿八年、柚子は九年で花が咲く」
それを大人になって唱える時、
恭平らの胸に「一からやりなおせないか」
という想いがわき上がります。
大人になってみれば、汚い駆け引きも
思いがけない運命も身に背負っています。
しかし、彼らは掛け違えた想いを正していきます。
与五郎は隣の藩との学領についての覚書があると主張し
それを手に入れたため殺害され
さらにひどい噂もつきまといます。
この覚書の謎が解かれる時、さらに感動。
思わず落涙し、小さな学び舎が愛しく、
小さな藩の小さな者たちが愛しく感じられます。
紙の本
共感の遮断
2010/06/21 20:38
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『桃栗三年柿八年 柚子は九年で花が咲く』と、本書では歌われているが中には、『柚子のバカヤロ十八年』と伝承されている歌もある。十八年が馬鹿かどうかはおいといて、その年月は、生まれたばかりの赤ん坊が成人するまでの年月とほぼ同じである。
本書は、幼い頃に塾で学んだ若者・恭平が、世話になった教師の死に不審を抱いて真相を探る物語だ。教師はまるで柚子の如くに、教え子たちを長い目でじっくりと育ててゆく人格者であり、不名誉な死として葬られることに不審と不満を抱いた恭平は、やがて一介の武士や町人には到底立ちうちできないような勢力と対峙することになる。教師の出自が明かされるにつれて、彼自身の葛藤を知る事になった恭平は、やがて自身も彼と似たような境遇に立たされる。事件を経て成長する一人の青年の姿を描く一方で、彼とさまざまな人々との出会いを通じて腐敗と混乱の中でまっすぐに生きようとする人々のひたむきさを写し取っている。それぞれに哀しみを背負いながらも、相手を思いやる大切さは、今の世にも通じるであろう。人情味に厚く読後感も良い。
但し、一点気になることがあった。この作品、やたら「実はこうだったのです」と登場人物が語り出す場面がある。その度に物語は過去に戻るわけであり、中には語り手が更に話の中で別の人物の告白について述べたりという「過去中過去」が登場する。既に起こった事件の真相を探るわけであるから、話題が過去に戻ること自体は仕方がないのだが、時制が込み入ると、どうも煩わしい感じが残った。
また、そうやって相手が語っている間、探偵役である恭平の反応が一切窺えないというのも勿体ない。読者は基本的に主人公の視点になって読んでいるわけなので、恭平と共にただじっと聞いているしかなければ、彼の気持ちに共感もしづらい、つまり共感の遮断が起こってしまうのではないだろうか。全てではなくても、会話文にして、主人公の反応を挟んだ書き方にしてみれば、いくらか印象が違ったと思われる。
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書き下ろしが多い葉室さんですが今回の作品は『小説トリッパー』に連載されたものに加筆修正した作品です。
日坂藩士、郡方筒井恭平のかっての恩師、梶与五郎が隣藩で殺された。続いて同じ教え子で友でもある穴見孫一も同じ鵜ノ島藩で遺骸となって見つかった。
恭平はその真相を探るために鵜ノ島藩へと潜入を試みる。
次第に明らかになっていく真実、浮かび上がってくる恩師の本当の姿。
真の教え、そして学びとは?友情とは?自分のことを大切に思ってくれるひとの心を大事にして、好きなひとへの愛を貫く。
恭平たちと子供たちが重なりあうラストは胸がじーんと熱くなってしまいました。
派手さはありませんがじんわりと心に届くものがある感動作です。
『桃栗三年、柿八年、柚子は九年で花が咲く』
作中なんどもでてくる言葉ですがこの言葉を噛みしめながらゆっくりと何年かかってもいいからしっかりと自分の生きていく道を見つける。
慌しいこの世の中ですが、だからこそ本当の意味での〝ゆとり教育〟
その大切さを教えてくれる作品でした。
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このところ作品を良く目にする機会が多く
気になっていた作家さん。初読です。
もっと号泣するくらいに泣けるのかと思っていた
んですがそれは叶わず。でも、大袈裟な表現では
ないながらも、しっかりと、そして誠実な文章で
読み易く、分かり易く、時代小説が苦手な方でも
すんなり入っていける作風。
友とは、師弟とは、教えるという事、学ぶという事、
そして愛するという事...当たり前に大切な事が
当たり前に書かれています。単純な行動原理に
基づいて考え、動く主人公の「恭平」は決して
派手な存在ではなく、我々と同じ等身大の人間と
して描かれているところが、何かを与えてくれる。
もしかしたらまた一人好きな時代小説作家さんが
出来たかもしれない。
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本当のその人の値打ち、そういうものが後から立ち現れてくる。葉室さんの物語はそういう清々しい人物が理不尽なことになる。まあ今回もそうなんだけど、、恭平の粘りで良かった良かった。
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日坂藩:筒井恭平(郡方)
梶与五郎(永井清助・青葉堂村塾教授)、穴見孫六、島野将太夫(家老)、儀平、およう
鵜ノ島藩:永井兵部(家老)、永井勝次郎(目付)、轟源心(探索方)、土屋新左衛門(郡代)、さなえ(妻)、吉乃(清助の母)、琴
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子供時代に教わった”まっすぐに生きる事”。
いつか大人になった時、その事がうまくいかない事がある。
それをひとは”現実”と呼び、幼き日に習ったことは”夢”でしかないと語る。
しかし、それは単に”まっすぐに生きる事”を放棄しただけなのかもしれない。
”夢”に向かって努力することを捨てただけなのかもしれない。
”まっすぐに生きる”事の強さと同時に、そのつらさや悲しみを伝えてくれる、この本はそういう本です。
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時代小説は苦手だと思っていたのに、読み始めてすぐに引き込まれてしまった。善悪の差はあれど、誰もが自分の信じる道を進んでいた時代が描かれる。悩み苦しみながら、懸命に生きる人達の姿は凛として清々しい。揺るぎない信念を持ち得た人間を、とても優しく温かく表現している。思わず涙…。
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少年時代に梶与五郎の薫陶を受けた筒井恭平は、与五郎が隣藩で殺害された事実を知り、真実を突き止めるため鵜ノ島藩に潜入するが――。
人を愛すること、人が成長するということなど、人間にとって大事なものを教えてくれる感動の長編時代小説。
主人公である恭平、その師である与五郎もさほど魅力のある人物とは言えませんが、なんとも惹きつけられた作品でした。
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郷学
岡山藩を範として郷学を開校した日坂藩と鵜ノ島藩が舞台。
日坂藩の郷学、青葉堂村塾教授・梶与五郎(鵜ノ島藩家老・長井兵部の三男・長井清助の変名)
主人公は日坂藩郡方(70石)・筒井恭平
学友で殺される勘定方(90石)・穴見孫六
学友の青葉村庄屋・儀平、
学友で儀平の妻・およう
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主人公に積極性が、もう少し欲しかった。
(何をするにも、恋に関してもお膳立てされてる気がする)
そうしないと遅咲きにならないから、しようがないのかな?
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時代小説です。
江戸時代、藩には藩校という学校があった。
とはいえ、予算の関係などで、数は少ない。
村塾で15歳までは学ぶ。
「桃栗三年、柿八年、柚は九年で花が咲く、梨の大馬鹿十八年」というのが口癖だった恩師。
日坂藩の青葉堂村塾で、子供の頃に、筒井恭平は、梶与五郎という先生に習っていた。
ふだんは川で一緒に釣りをしたり、よく遊べといわんばかりのお気楽な先生だったが、藩校へ上がる段になって、みっちり仕込んでくれて、春の試験で8番となる。
群方となった恭平は、恩師の予想外の死を知らされる。
人妻を伴っていたため、その夫に女敵討ちになったというのだ。
折しも、洪水で川の流れが変わり、隣の藩との境界を巡って争いが起きていて、与五郎はその根拠となる書類を持って訴え出ようとしていたという。
同じ村塾の出の穴見孫六は、藩校に行くときに4番だった仲間。
自分の知っていることからもこれは怪しいと睨み、探りに行って何者かに切られてしまう。
恭平は鵜ノ島藩の事情を探る命を受けるが、かなり危険な任務。
鵜ノ島藩の家老・永井兵部は与五郎の実父だという。
与五郎こと永井清助は若い頃には放蕩者だったため、勘当されたというのだが。かっての婚約者を連れ出したのか?
恭平は学問よりは腕に自信があり、竹を割ったような性格。
大百姓の娘で村塾でも出来が良かったおように、ほのかな想いを抱いていましたが、身分違いでかなうわけがないと思っていました。
仕事中に再会して、おようの夫から思いがけないことを言われます。
任務は危険でスリルいっぱいだが、幼なじみや村塾の子供らなどの存在が効いています。
いきいきと描けていて、一気に読めました。
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この作者さんの初めて読んだ時代小説。今と違って身分違いの恋有り、父と子の家を巡る相克有りで最後は師を慕う子ども達の思いが通じて良かった。
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初めて読む方でしたが、良かったです。人の想いが形になって現れるまでには、長い年月が必要なのかもしれません。人それぞれ何を大切に思って生きていくのかで生き様が違ってくるのでしょう。青葉堂村塾の子供達、師の思いを受け継いで立派に成長している。人を育てているのは、師の生きていく姿勢だったんですね。悪人でもその心の内を聞くと哀しさを思わせるところに、作者の気持ちを感じます。
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ひさしぶりに一気に読んでしまった本です。
謎を解く要素はライトかなと思います。
人が人を思ういろいろな気持ちの様子が後半に近づくにつれて入り込む事ができました。
ちょっと最後の親の気持ちがわからんかったかな…
結局妾腹の息子に負い目があって、気持ちも態度もそういう扱いしかできんかったのか…
全員善人の話はないのだろうけれど、ちょっと親と兄に救いがなさ過ぎる。