紙の本
戦争が不可避であるという確信が戦争を引き起こす
2012/08/26 12:23
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
満州から朝鮮半島へと南下してくる西欧の超大国ロシア。朝鮮を落としたら彼奴は日本海を渡って帝都を侵すに違いない。臥薪嘗胆、仏の顔もここまでだ、二度と「三国干渉」の憂き目を見てはならない。今こそ北方の巨熊にひと泡ふかせるのだ。そしてついに明治37年2月4日、涙の御前会議で対ロ戦争の聖断が下され、ここに世紀の一戦が始まるのだった。
それにしてもいっこうに要領を得ないのが日露戦争だ。日清、日露、第一次大戦の進軍があって大東亜戦争があり、その悲惨な結末の終点が現在ならば、当時いくら西欧列強のアジア侵略が猖獗をきわめていたにせよ、我が方のみは(山本海軍大将が唱えたように)朝鮮半島はもちろんあらゆる外地に介入せずに現列島版図をかたく保守していたほうが、よっぽど「東洋及び世界の永遠の平和に資する」こと大であったはずだからだ。
などと抜かすのは、厳しい現実(飢饉、物価高騰と鬱々たる社会不安)を知らぬ平成の脳天気ボーイの妄言であろうが、本書を読むとこの成算無しの無謀な戦争に最後まで反対し、抵抗していたのは帝国の滅亡に頭が及んでいた伊藤、山県の二元老と他ならぬ明治天皇であったと知れる。(大東亜との何たる相違!)
戦争への道に最初に踏み込んで行ったのは政治家や指導層ではなく、一部の右翼や官僚、軍人、アホ馬鹿東大七教授や国粋的新聞社で、彼らがつけた口火は当時の一般大衆によって巨大な烽火となって燃え盛り、(「清水の舞台から飛び降りる」東条内閣などとは雲泥の差の)冷徹果断な桂内閣を激しく揺さぶることになる。
はじめは戦争に反対していた新聞社も、国民世論が「対ロ憎し」で沸騰すると、社論を投げ捨てて大衆に屈服して好戦的な論陣を張り、それがまた大衆のナショナリズムを燃え上がらせ、新聞社の部数は爆発的に増加する。大東亜とまったく同様に、マスコミは戦争で儲けるのである。
膨大な資料を読みこなしながら日露戦争の真因に迫ろうとする著者には、二度と戦争許すまじの老いの一徹の迫力があるが、著者が明言するように、「戦争が不可避であるという確信が戦争を引き起こす」(トゥキディデス『戦史』)のであろう。われわれは尖閣、竹島よりも大事なことが、世の中にはいっぱいあることを忘れてはならない。
尖閣、竹島よりも大切なことが世の中にはあるんだ 蝶人
投稿元:
レビューを見る
中学、高校の授業ではどうしても年度後半で駆け足になりがちな現代・近代史は史料も豊富で学ぶに面白く、また現在の指針を考える上で参考になることが多い。この本では日露戦争が始まるまでの外交的なやりとりや、戦争準備、そして開戦にいたるまでを詳細に記述してある。戦争は始める前に「どう終えるか」を考えておくことが必要なことがわかる。そして、これは戦争だけでなく、他のあらゆることにも通じている。
投稿元:
レビューを見る
明治時代の日露戦争の話である
此の戦争も
避けられない場所であった
当初明治天皇は
戦争をする気が無く
外交交渉で難を逃れると言う判断を下した
それにより
桂が積極的に外交活動をするも
しかしながら
最早戦争が避けられなく成り止む無く宣戦布告をした
文脈から察すると
旅順港の閉塞作戦は無謀な作戦であった様に思う
何にせよ
謎が多い戦争であるような気がして成らない
此の頃にも 戦争を反対とする文士がおり
国を挙げての戦争ではなかったようである
BY G
投稿元:
レビューを見る
半藤氏の本で日露戦争を専門に扱ったのが初めてというのが
すごく意外だった分、期待して読んだのだが
書き口がライトでちょっと物足りなさも感じたた。
他の本でも扱ってるから、とか、このエピソードを書くとキリが無いので、
という箇所が何箇所かあって、確かにそうなのだろうけど、
そこを突っ込んで欲しいなあと思わざるを得なかった。
とはいえクライマックスに向けて安心して?盛り上がれるのは
安定の半藤ワールドというところか。
投稿元:
レビューを見る
総合文芸誌「こころ」は隔月発行なので、前回読んだことを忘れていることが多いのですが(最近はほとんどこんな状態)、あるまとまった分量が1冊の書籍に纏められていたら、私にとってはありがたい。だからと言って、「こころ」は引き続き読んでいきます。ただ、図書館で借りている本が山積みなので何時になることやら。さて、日露戦争時の政治家、軍人はまったく楽観論に陥ることなく、冷静に客観的に彼我の戦力を分析していた。太平洋戦争時とは大違いである。ただ、暗号はもうこの時代から世界に解読されていたのだ!
投稿元:
レビューを見る
読みやすさ★★★★★
内容の密度★★★★
次の機会に、本書がかなり依拠している「明治天皇紀」を読んでみようと思った。
特記事項
・栗野在ロシア公使がウィッテ元蔵相を訪れて、暗号にして日本に送るから心配せず話してくれと願ったところ、貴国の暗号は、貴国で暗号と思っているだけで、他国にとってはだれでもが読める平文ですぞ、と言われた。
投稿元:
レビューを見る
難しそうな本、というのが手に取った時の印象だった。
それでも、やっぱり興味があったので、購入。
もともと日露戦争には興味があったのだ。
何せ相手取るは大国、ロシア。
普通に考えて喧嘩を売るのが馬鹿げている。地図を見れば誰だって、そう思うだろう。
そんな戦争にどうして、日本が突入していったのか?
昔から興味があった。
そんな自分の欲求にこの本は充分すぎるほどに応えてくれた。
何せ、この第一巻、戦争史と題打っているのに、そのほとんどを戦争に至る経過に費やしているのだ。
戦争に突入するまで、時の首脳陣がいかに戦争を回避しようとしていたかが、この本には細かく説明されている。
そして、世論というものが如何に社会を動かしてしまうのかということも書かれていた。
しかし、教科書に載っていない歴史という奴は本当に興味ぶかい。
投稿元:
レビューを見る
日露戦争に関する本は多い。専門的に究めるのでなければ「坂の上の雲」でも読めば十分なのかもしれないが、それだけでなく、もっと色々な角度から知りたいという気持ちがある。それは、単に日本が勝ったからというだけではなく、日本が国力を賭けて挑んだ乾坤一擲の戦争であり、そのことを軍人や為政者がよく理解し、現実を見据えて戦争と政治と外交をバランスさせていたこと、そして、江戸時代末期の開国以来、世界の一流国に伍していこうとした明治という時代が日本史の中で独特の輝きを持っていたからであろう。
本書は、日露戦争史と銘打つだけあって、そのような観点が充実しているのではないかと期待して読み始めた。第1巻は、戦争開始前の世界情勢、国民世論の好戦的ムード、それに対する政府の慎重かつ冷静な態度などが多く記載されている。ややくどい感じもあるが、開戦前の国内の雰囲気が詳しく書かれており、リアルに感じられる。
引き続き、第2巻に期待したい。
投稿元:
レビューを見る
半藤一利さんの語り口調は私の耳に心地良く、厚めのハードカバーであるが飲み込むように読めてしまう。
この上巻は、外交、内政、軍のそれぞれが入念に開戦の準備と判断を行い、日露戦争の戦端を開くにいたる過程のなかで、各組織の上層部は独善によらず、冷静な判断を重ねてきたことが伺えて何だかうれしくなる。
それに引きかえ…。
投稿元:
レビューを見る
日露戦争史。
第1巻は開戦前夜から初戦まで。
特に開戦に至る経緯が詳しい。元老の動きから市井の人々の動静。
臥薪嘗胆から開戦を待ち望む民衆の熱狂。
「坂の上の雲」も歴史小説として非常に読みやすかったが、本書も戦史(ドキュメンタリー)として大変読みやすい。
歴史観としては司馬遼太郎氏と同じものを感じる。明治の教訓を全く生かせなかった昭和の軍人。少女のように初々しい明治期の日本人。
冷静な元老及び政府。国民を煽るマスコミ。実名、実例が多いのが半藤さんらしいところか。
今、敢えて取り上げる日露戦争に新しい視点を感じたいところだ。次巻に期待!
投稿元:
レビューを見る
日本はどのようにしてロシアとの戦争に至ったのか? 近代日本に決定的な転機をもたらした日露戦争を詳細に描く大作。第1巻は開戦直後までの政府・軍部の攻防と国民の熱狂。