紙の本
精神科医による社会全体が心理学化する状況に警笛を鳴らした書です!
2020/06/03 09:27
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、精神科医であり、批評家として活躍されている斎藤環氏による作品です。同書において著者は、「80年代以降、先進国では心理学的なものの見方や精神分析的な人間観が支配的になりつつある。動機の不可解な犯罪が起きると、マスメディアは精神科医や心理学者にコメントを求め、ワイドショーでも、PTSD、ADHD、人格障害といった心理学的語彙が無造作に飛び交う。そして、カウンセラーが若者のあこがれの職業になり、大衆文化においてはトラウマ・フィクションや告白本が流行する。さらには災害時や教育現場では心のケアやカウンセリング・マインドが叫ばれる。いまや、社会全体が心理学化しているのだ」と主張しています。そして、こうした現象は、「心の理解」の美名のもとに何かを踏みにじっているのではないかと疑問を呈しています。本書は、内側から「心理学化」の様相を眺めて遠因を探り、そのゆきすぎや退行に注意を促す目的で書かれた画期的な書です。同書の内容構成は、「1章 表象されるトラウマ―書籍・音楽編」、「2章 表象されるトラウマ―ハリウッド映画編」、「3章 精神医学におけるトラウマ・ムーブメント―PTSD、多重人格、ACにおける濫用」、「4章 カウンセリング・ブームの功罪―来談者中心の弊害、そして心のマーケット」、「5章 事件報道にかつぎ出される精神科医―不可解な犯罪を物語化する欲望」、「6章 こころブームから脳ブームへ?―汎脳主義への批判」、「終章 心理学化はいかにして起こったか―ポストモダン、可視化、そして権力」となっており、なかなか興味深い内容です。
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ずっと気になっていたが,文庫版が出てたので読んでみた。後半ちょっとムズかった。今の学生を見ていると,「飾り」としてのトラウマみたいなのはあるような気がするなーと。
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私の考えにぴったり合った本があった! と思った。
これから自分の考えとして洗練させていこう。
100222
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香山リカ氏や和田秀樹氏がなかなか酷い情報を社会に垂れ流している一方で、この人はまともな精神科医の一人だと思う。
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心理学ブームという社会の枠組みに気づかず、私はいつの間にか心理学を学んでいたのかもしれない。何事も現代の枠組みから逸脱して自分は選択できないのかも、と考えさせられた一冊。すべてを心の問題としがちなのもいかがなものか。
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(推薦者コメント)
現在一般に、「心理学」と言えば、専ら若い女性たちが気軽に利用するアイテムとしてのそれを思い浮かべる。では、こうした潮流を「社会の心理学化」と捉えるならば、精神科医である著者はどう解釈するか。
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私が心理学を学んでいた学生時代、「どんなことをするの?」とよく聞かれた。今なら絶対に聞かれない。それほど周知の事実になってしまった感のある心理学に、違和感を感じていたのだが、この本を読んでなるほど、と思った。私が何かヘン、と思い始めたは、「自分探し」がはやった頃から。そして癒しブーム。そのあたりがきっちり説明されています。何でそんなに癒されたいの?という疑問。苦しいことは即解決しないと気がすまない、人を傷つけてはならないという、一種脅迫的な観念。生きてりゃ苦しいし、それを抱えながら生きていくもんだし、人を傷つけたり傷ついたりしながら自分というものが固まってしっかり根を張って生きていくことができるんじゃないの?というのはもう通用しないんだね・・・。と考えると、何だかどこを向いて生きたらいいのか、途方にくれるなあ。古き良き時代(?)に帰ることはできなくて、どんなことも時代をさかのぼることはできなくて、今ある現実をどう受け止めて、これからどうするか。この本はその答えらしきものに向かって進むんだけど、どんどん理念的になっていくので、現実にどのようにおろすのかが難しい。著者にはビジョンが見えてるんだろうけど(見えてるからこそ理念として提示できるんだろうけど)、具体化されないとよくわからない。それにしても、私の最初の疑問ってほんとにこれだったっけ?この本を読む前に、私が何に違和感を持っていたのか、はっきり言語化してたらもっとよく理解できたかもな。
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心理学という言葉は多義的だが、ここでは特に「臨床心理学」をターゲットにしている。
ちょっと古いデータだと女子大生の希望職種の第二位に「カウンセラー」が来ることなどからも読み取れるように、良かれ悪かれ私達は臨床心理学的なもの(たとえば「トラウマ」という概念とか)を意識せざるを得ない時代を生きている。
なぜこのような時代になったのか。そして現代に起きている心理学化とは何なのか。筆者は以下のように述べる。
「昔は思想の時代だった。わかりあうために、みな議論をした。しかし論争だけでは人は救えないことがわかってきた。その結果、思想から感情へ、共有から不干渉へというシフトが起こった。議論の場面が失われて、かわりにガス抜きのようなカウンセリングだけが流行した。心の安定だけが、最大のテーマとなった。状況を切り離して感情へと焦点を当てることで、カウンセリングは問題の所在を見えにくくした。それが心理主義だ」
別に思想の時代に戻れというわけにはいかない。しかし現代をある程度相対化してみる必要性は絶対ある。私達は多分、あまりにも心理学化しすぎている。そういう意味で、一読の価値がある本。
ちなみに通俗心理学批判とかそちらの方向ではおとなしめなので、そういう本を求めている時は違う本を読んだほうが良いとおもわれる。また、存外カジュアルな書き方なので、もっと学術的なものが読みたければ別の書籍のほうが適しているだろう。
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こういう時流的本はすぐ古びる、というかいま読むタイミングが悪かったのかもしれない。10年後だったら風俗史として価値がでるかも。
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お年寄りが病院に行くのは病名を与えられるためのように思う
痛み苦しんでいいという権利を病名は与えてくれる気がする
ココロも同じく、この苦しみに理由を、物語を!というニーズが
昨今の心理学ブーム、心のマーケットを生み出しているとのこと
心は胸ではなく、脳にある
感情の原因物質である脳内神経伝達物質を出す・受け取る部分に
先天的な器質の違いがあるかもしれないのに、
全て心理学的物語に乗っ取りますか?と問われていると感じた
物語も正しい部分はあると思うけれど、安心材料の役目が大きい
“親はまさに子供を管理する存在に他ならない。それが自然な姿だ”
自然体のひどい親より管理マニュアルに沿った親の方がいいじゃん
と言っていますが、なるほどと思いました 親は管理者という発想
先天的な器質異常(性悪説的)でも親はコントロールしなければいけない
という発想は物語崇拝から離れた発想、私には新しく魅力的でした
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311後、被災地では「心のケア」が拒否されたという。ここに「モノより心」の非被災者と「心よりモノ」の被災者の断絶を感じた。モノがない世界においては社会は物質化を求め、心理学化しないのである。当たり前と言えば当たり前なのだが、そんな想像力も欠如してしまうぐらい現代はモノで溢れ返っているという事だろう。
成熟社会でモノが売れないから心を商品化(癒し・関係性)、大きな物語(思想・イデオロギー)から小さな物語(トラウマブーム)、社会より個人(自分探し)等々、心理学化(さらには脳ブーム化)する社会の構造は重層的で多面的である。著者は心理学化への傾倒により社会問題が隠蔽される事や、固有かつ一回限りの生を科学化する事への懸念をしているが、他人の心を理解(情報幻想・視覚化・分類・媒介への享楽)しコントロールしたいという万能感への欲望を止めることはできないだろう。
村上春樹は宗教との物語対決に挑んでいる。それは結局トラウマ物語の派生系という点においては同様なのかもしれないが、少なくとも選択肢は与えている。心理学化の誤用拡大がこれらの物語に取り込まれることなく、システム論的応用により「生きづらさ」の解決策を提示できる新たな選択肢になりえるかは「心の市場」関係者の矜持次第なのかもしれない。
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[ 内容 ]
トラウマ、癒し、ストレス、プロファイリング…あらゆる社会現象が心理学・精神医学の言葉で説明される「社会の心理学化」。
精神科臨床のみならず、大衆文化から事件報道に至るまで、分野を超えて同時多発的に生じたこの潮流の深層に潜む時代精神を鮮やかに分析。
来るべき批評と臨床の倫理を追求する。
[ 目次 ]
1章 表象されるトラウマ―書籍・音楽編
2章 表象されるトラウマ―ハリウッド映画編
3章 精神医学におけるトラウマ・ムーブメント―PTSD、多重人格、ACにおける濫用
4章 カウンセリング・ブームの功罪―来談者中心の弊害、そして心のマーケット
5章 事件報道にかつぎ出される精神科医―「不可解な犯罪」を物語化する欲望
6章 こころブームから脳ブームへ?―「汎脳主義」への批判
終章 「心理学化」はいかにして起こったか―ポストモダン、可視化、そして権力
付録 「ひきこもり系」×「じぶん探し系」
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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http://lib.s.kaiyodai.ac.jp/opac/opac_details.cgi?amode=11&bibid=TB10075741
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ドラマも映画もトラウマ大安売り。ワイドショーも専門家気取りが精神分析。もはや心理学は一種のブームでありエンタメである。トラウマ・AC大いに結構。でも、そうした現象に尾ひれがついて、誤解を受けやすくなっているのもたしか。。人は、不安定な状況も、説明さえできれば安心するし、媒介されることに快楽を覚える。なんでも可視化したい世代なのですかね。PSYCHO-PASSみたいな世界も、社会は(ひとりひとりの個人ではない)少し望んでるのかも。
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映画やドラマに「トラウマもの」があふれ返り「癒し」がブームになっている現在の状況に対する違和感から出発し、「心理学」的な解説が社会のアーキテクチャとして機能してしまっていることの問題性を鋭く指摘している本です。
「猫も杓子もトラウマ」といったような風潮にどこかいかがわしさを感じているというひとはおそらく少なくないでしょうし、わたくし自身も本書で紹介されている小沢牧子の著書にかなり説得されるところがあったのですが、本書ではそうした「心理学化」の傾向と、表層的にはまったく異なるように見える「脳ブーム」とのあいだに共通する問題を見通しているという点で、単なる素朴な違和感の表明とは一線を画しているように思いました。
われわれは、わかりやすく耳に心地よく響く説明を求めてしまいますが、そのことがわれわれの生きるシステムのなかに組み込まれているのだとすれば、単なる個人の決意によって問題の解決を図ることは絶望的なのかもしれない、と思ってしまいます。