紙の本
たまには尾翼の自覚を持って左右を睥睨してやるのも悪くはあるまい
2008/07/07 15:51
10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
政治思想の話をするのは気が重い。個別の事件について何かコメントするごとに,右だ左だとレッテルを貼られるのには閉口する。映画「パッチギ!」を褒めただけで「このサヨクめ」……しかもこれがみんなハンで捺したようにカタカナ表記なんだよな。島田雅彦は偉大だ(笑),と罵られ,「音楽のセンセなんだから君が代の伴奏くらいしたらええんとちゃうの?」と言えば,「意外と右寄りなんだぁ」と驚かれる,そういう経験ありませんか?
現代ニッポンを主導している「コイズミ〜アベ〜フクダ路線」の政治思想はだいたい中道右派,細かい傾向を言うと「小さな政府」を標榜するリバタリアニズム,および市場の万能を信じるネオリベラリズムの色が濃い。ネットで「右」を自称する人の発言を読んでいると,彼らの多くはこのニッポンがけしからんサヨクだらけだと思ってるようだが大丈夫,現実の政権はちゃんと右寄り,すなわち多数派は右寄りである。つか前から思ってたんだけど,左右を問わず政治信条を前面に出して語る人ってとかく「周りは敵ばかり」という現状認識が好きだよね。ポジ派とネガ派に分けたらみんなネガ派。いっそネガ派で大同団結してマービン(「銀河ヒッチハイク・ガイド」に出てくる極端にネガティブなロボット)でも旗印にしたらいいのに……。
閑話休題。本書はそのリバタリアニズムやネオリベラリズムが生み出す格差や貧困を批判し,英米で徐々にチカラを増しつつあるコミュニタリアニズムをタイトルの通り『日本を甦らせる政治思想』として紹介,解説しようというもの。著者の菊池さんは以前,その政治思想の研究書として「現代のコミュニタリアニズムと『第三の道』」という本を上梓されており,この本はそれをより一般向けに書き直し,加えて現代ニッポンの抱える様々なモンダイ,格差社会や教育の荒廃,社会保障,経済政策などについてのコミュニタリアニズムからの解決案を示している。もちろんその内容に対しての賛否はいろいろだろうが,現状分析だけでも一読の価値はあると思うぞ。
本書にもあるが右翼・左翼というのはもともと,フランス革命の最中に「革命はもうこれくらいでええんとちゃうか?」という連中が議長に向かって右側に議席を占め,「まだまだ足らんわい,このすかたん」という一派が左側に座ったことから言われたものだ。だから語源から言えば議員でもなんでもないオレやそしてたぶんあなたのような「その他大勢」は,いくら右翼,左翼ぶっても結局のところ尾翼みたいなもんであり,飛行機が傾いた方のほっぺたに風が当るだけの存在なのである。たまには尾翼の自覚を持って左右を睥睨してやるのも悪くはあるまい。そういう視点を与えてくれる本でもある。
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タイトルの通り、コミュニタリアニズムについて、これ以上は優しく書けないぞと言うほどに、かみ砕かれた内容で示された新書。
日本人は横文字をまったく整理せずに、ごっちゃに、ときには誤って理解しがちではあるが、このコミュニタリアニズムについても、往々誤解が生じていることを説明し、その誤解を解くことから始められている。
個人主義から共同体への再びの回帰とは、なんとなく懐かしい時代に戻れと言うか、今更なんだいって聞こえなくもない。
ただ、喪失感と個の分子化の拡散傾向が進めば、当然解決法として登場する考えではある。
ただ、情緒的な関係は結構面倒なので、すべてのコミュニティでやられた日には、結構迷惑だったりして。
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[ 内容 ]
格差社会、教育問題、愛国心論争、地域の荒廃、解決策はここにある。
現実の政治に有効な実践的議論。
[ 目次 ]
第1章 批判や誤解に答える
第2章 コミュニタリアニズムとは何か?
第3章 共通善の政治学
第4章 現代の政治理論との関係と影響力
第5章 家族と教育
第6章 地域社会
第7章 経済政策と社会保障
第8章 国家と国際社会
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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「共同体主義」と訳される「コミュニタリアニズム」という考え方を解説した本。これを一言で表現するなら「共通善の政治学」である。
もっと詳しく言うと、共通の言語、歴史、伝統、コミュニティ、倫理を前提とし、自己と他者との関係性や共通性を意識して自分の属するコミュニティを形成して「共通善」の実現を目指してコミュニティに対して責任を負うという考え方。ここでいうコミュニティは家族や、町内会や自治会のような近隣の組織である。マッキーヴァーのいう「地縁に基づく共同体」ということである。
この本を読む限り、コミュニタリアニズムという考え方は興味深いし、これからの社会で役に立つものだと思う。だが、この本に「どのように共通善の政治学を実現していくか」という重要な部分が抜け落ちていることが残念だった。それが重要なことなんじゃないか、と。
まあ、従来の閉鎖的かつ排他的な「ムラ社会」でも、砂粒のように孤立した個人の集合体である「都市社会」でもない、緩やかなコミュニティというのが、目指すべきだということは考えた。
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マイケル・サンデル、コミュニタリアリズムを理解しようと思って読んだけど、ムツカシイ。。
コミュニタリアリズム・・・「共通善」の実現を目指す。
「共通善」社会にいる人々が「これが必要だよね」「これが大事だよね」ということ、地域社会の未来のありようと、その方法に対して、合意形成して、実現していく。これってNPOがやっていることだなと思った。権力者が決める、それに従う、批判するという構図じゃなくて、社会の課題に対しての方法を共に形にして、且つそれに対してのお金の流れもつくる。
今のお仕事でまさにやっていること。
地域固有のものを仕事にして、お金の流れをつくる。
それを地域の人々でやっていく。
それがやっていける地域のつながり。
それを政治思想という形で理解するのもよいかと思いました。
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現代の政治思想コミュニタリアニズムの入門書。ロールズのリベラリズムに対して出て来た経緯、一般的に権威的と思われるコミュニタリアニズムの誤解への解答、サンデル・ウォルツァー・マッキンタイア・テイラー等の論者の論点、共通善とは何か、現代日本における問題点などを分かりやすくまとめている。
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サンデルの本を読んでいたので、コミュニタリアニズムに対する漠然としたイメージはできていた。「共通善」を追及し、民主主義を大切にする思想。自分が属するコミュニティやその伝統を重視し、民主主義を堅持する手段として経済的な平等を重んじる。ただ、「共通善」とは何なのかがイマイチよく理解できていなかったので本書を手に取った。
本書はまず、コミュニタリアニズムが政治思想のどの軸にあるかを明らかにする。筆者によれば「リベラルに近い中道左派」であるという。しかしこの解説は「極左(共産主義)⇔左派(社会主義)⇔中道(リベラリズム)⇔右派(保守主義)⇔極右(ファシズム)」という直線的なイデオロギー分類に基づいている。
政治思想はポリティカルコンパス(http://sakidatsumono.ifdef.jp/draft3.html)のように2次元的に解釈したほうが理解しやすい。ポリティカルコンパスで言えば、コミュニタリアニズムは第2象限の「保守左派」といって差し支えないだろう。
次に筆者は代表的な4人のコミュニタリアンとその主張を紹介する。
金銭などのような「外的な善」ではなくコミュニティ全体の善、「内的な善」を求めるのが人間の本性であるというマッキンタイア。
社会とのつながりをもたない原子論的個人主義を批判したテイラー。
人間は自分が属するコミュニティの歴史と伝統を背負った存在(負荷ある自我)であるとし、個人がもっている正義(=権利)よりも共通善を重視するサンデル。
コミュニタリアニズムに基づく福祉政策の原理を説いたウォルツァー。
以上の4人を代表的なコミュニタリアンとして挙げ、本書全体をとおして彼らの主張を援用する。
さて、コミュニタリアニズムの重要概念である「共通善」だが、この本では明確な定義のなされないまま用語だけが頻繁に出てくる。あまつさえ、「公共善」という、よく似た紛らわしい用語まで断りなしに登場する。文脈から「共通善」はコミュニティ成員の一人一人の心の中にあるもので、「公共善」は為政者がめざすべき善であるということはなんとなく分かったが。また、「共通善」は、それぞれの伝統をもったコミュニティの成員が判断するものである以上、普遍的なものではないらしいということもわかった。
本書によって、確かにコミュニタリアニズムについて知識を深めることができたし、いろいろと考えをめぐらせることもできた。
コミュニタリアニズムの潮流をサラッと俯瞰できる良書だが、文章のつながりが分かりにくかったり、具体的な事例が少なかったり、筆者個人の印象で語られる部分は今一つ説得力に欠けたりと、不満に思うところもいくつかあった。
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コミュニタリアニズムは共通善(みんなの幸せ)を目指す政治形態。
おそらくは日本語を話し、日本の文化・道徳を共有しているであろうコミュニティは家族→町内会→日本国のようなものでまとまろうといっていると思う。
具体的にはどんなものを実現したいのかがわからなかったです。
リベラルやリバタリアニズムなどの批判は所々に書かれています。
コミュニタリアニズムは排他的ではないそうです。
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平成18年に出版された本を偶然読む機会を得たのでして、久々に「リバタリアニズム」「ネオリベラリズム」なる文字に出くわしました(笑)。
著者が推奨する「コミュニタリアリズム」なるものの解説・入門書です。
内容は
第1章 批判や誤解に答える
第2章 コミュニタリアリズムとは何か?
第3章 共通善の政治学
第4章 現代の政治理論との関係と影響力
第5章 家族と教育
第6章 地域社会
第7章 経済政策と社会保障
第8章 国家と国際社会
です。
思うに、人も、社会(コミュニティ)も国家も行動原理を保有しながら日々の活動を行うのですが、主義主張が異なっていても、お互いその行動原理が理解できていれば、賛同出来たり、反対出来たりできるのです。
支離滅裂なものに対しては信頼も信用も出来ないのは当然なことであるのですが、まぁとにかく、人も、社会も、国家も、常に謙虚に、いただいた命を価値あるものにすべく理想とするパースペクティブを定め、日々切磋琢磨したいものです。
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コミュニタリアニズムの誤解を解く。決して個々人の人権や自由を損ねるものじゃ無いと。そして現代のコミュニタリアニズムはいわばリベラル・コミュニタリアンであって、現代の諸問題にも有効に使っていけるんだよ。という話。
うん。まぁ。そうだよね…。くらいの感想。
文中沢山のコミュニタリアンの著書が紹介されているので、気になったところに派生した方がいい気がする。よくわかってないのにわかった気になる。
「負荷無き自我」というコミュニタリアンの批判もよくわかるんだけど、結局現代の日本でコミュニタリアニズム的言説を持て囃すと、個人や特定の層を圧殺する方向にしかいかないってことはコロナ禍でよくわかったと思う。
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現代のリベラルなコミュニタリアニズムを参考文献をあげながら丁寧に解説している入門書.資本主義による経済成長が地球環境を破壊しつつある現代において,我々はどの方向に進むべきかを考えるときに参考になる.