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暗い抱擁

著者 アガサ・クリスティー (著) , 中村妙子 (訳)

気高い美女イザベラには婚約者がいた。が、冷酷ともいえる野心家ゲイブリエルに荒々しく抱擁されて彼女は悟った。この心の歪んだ男を救わなくては。彼女は婚約者を捨て、ゲイブリエル...

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暗い抱擁

税込 1,012 9pt

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商品説明

気高い美女イザベラには婚約者がいた。が、冷酷ともいえる野心家ゲイブリエルに荒々しく抱擁されて彼女は悟った。この心の歪んだ男を救わなくては。彼女は婚約者を捨て、ゲイブリエルとの駆け落ちを決心する……新たな道へと歩む女の姿をキリスト教的博愛をテーマに描く、至上の愛の小説。

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みんなのレビュー18件

みんなの評価4.0

評価内訳

紙の本

人の心はミステリ

2004/07/25 18:48

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る

人の心の何と計りがたいことか。そして、人の心の真相が、見る人によって様々に違って見えることの不思議さ、不可解さ。本書を読み終えて、まずそう思いました。
殺人事件などが起きる訳ではありませんが、人の心はミステリといった意味合いで言えば、『春にして君を離れ』同様、何とも味わい深く、強烈なミステリです。

事故によって、身動きがままならなくなった男性、ヒュー・ノリーズ。彼が、コーンウォールの町で過ごした時に出会った人たちの行動や言動を、傍観者の立場から書き記していった第二次大戦下での記録。その記録の中から、ジョン・ゲイブリエルという男と、ファム・ファタル(運命の女)の役割を担うひとりの女性の姿が、生き生きと眼前に描き出されていきます。
なぜ、その時、そういう行動をとったのか?
本人にも定かでない、しかし、そうせざるを得なかった心の不可解さ、計りがたさが、ヒュー・ノリーズの記録を通して、読者の前に提示されます。この辺のクリスティーの筆致の精妙さ、おぼろげだったものが徐々に形を整えてくるプロットの力強さは、実に読みごたえがあるなあと唸らされました。

また、本書では、登場人物の言葉を借りる形で、クリスティーがシェイクスピアの作品、『ハムレット』と『オセロ』をどう捉えていたか、かなりはっきりと分かる件りがあるんですね。特に、後者の『オセロ』に出てくる最重要人物と言ってもいいだろうイアーゴー。彼のことを、本書の登場人物が自分と重ね合わせて語る台詞に、とても興趣をそそられました。
「そうか。クリスティーは、シェイクスピアのこの作品をそう捉えていたのか。鋭い指摘をしているよなあ。流石だね>クリスティー」と、そう思いましたよ。

ラスト一行に込められた意味深さ、その衝撃も、かなりのものがありました。結構くるものがありましたね、このラスト一行は。
心にずしんとくるラストの衝撃については、巻末解説で宇田川拓也さんが書いておられるとおり。本書の味わいを捉えた解説文は、見事。クリスティーの作品を読む前に目を通したのですが、本書を読む気が一層募った解説文でありました。

クリスティーが、メアリ・ウェストマコット名義で発表した1947年の小説。
原題は、The Rose and the Yew Tree 「薔薇とイチイの木」。
冒頭に提示されたT・S・エリオットの詩句 > から取られています。

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紙の本

人生哲学をちりばめたキリスト教的愛の話

2020/09/10 07:32

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:まいみ - この投稿者のレビュー一覧を見る

原題は『The Rose and  the Yew Tree』というタイトルで『暗い抱擁』という邦題は本編を読むといまいちしっくりきません。

イチイの長い一生を過ごすことが約束されていた中世の女王のように典雅な美女、イザベラが優秀で勇気もあるが品がなく容姿にも平民という生まれにも劣等感を抱き憎しみに捕らわれていた男、ゲイブリエルを愛し短いバラの一生を送った物語です。

やはりこの2人が中心となった物語なのですが、作中でイザベラとゲイブリエルが対話する場面はさほど多くなく、2人の関係を恋愛ものとして楽しむには選挙の話等、他の話があまりに長く続きます。

イザベラは美しいセント・ルー城にあっても、汚ならしい裏町の見すぼらしい家にあっても、美しいまま少しも変わらずただ自分でいることのできるある種無敵の女性です。けれど、彼女にはたった1つだけ弱点があります。「死」が恐ろしいのです。もし自分が男だったら戦場へ行っても逃げだすだろうと言いますし、恐ろしさのあまり死体には小鳥であろうと触ることを嫌がります。しかしそんな彼女はゲイブリエルを銃口から庇って死ぬのです。唯一の恐怖を承知の上で自分を庇ったイザベラを見て、彼女の愛にすら猜疑的だったゲイブリエルはそれをようやく理解し、冒頭の聖人とすら称されるほどの人物に変わります。

内心絶望していたゲイブリエルは作中神すら信じられないと述べています。しかし同時にキリストならば信じられるとも言うのです。何故なら彼の愛は罪人と共に地獄へ行くほど深いものであるとゲイブリエルには思えるからです。そしてイザベラは結婚について誰かの生活の一部になることだと述べ、生前ゲイブリエルの一部にはなっていないとも重ねて明言しています。
そんなゲイブリエルは本編の最後をイザベラの死に対する台詞でこう締めています。
「いや、違う、それは!結末じゃあない。それこそ、はじまりだったんだ……」

クリスティの人生哲学がちりばめられた少し理解し難い作品ですが、読んでみて不思議と愛や生き方というものについて感じさせるものがあります。それはやはり、最も恐れていた死を彼のために受け入れるという最大の献身をもって、イザベラがゲイブリエルの一部となり、彼女の定義する結婚を果たしたであろうことに起因している気がします。

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紙の本

人の心は

2019/11/27 14:07

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る

メアリー・ウェストマコット名義で発表した、ミステリーではない小説だそうですが、人の心はミステリーだと感じました。

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紙の本

面白かったです

2021/11/19 11:42

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:iha - この投稿者のレビュー一覧を見る

主人公は、シェイクスピア戯作オセロに登場する小悪党イアーゴのごとく野心的で嫉妬深い男と、受動的で何事にも抗わず逆らわない捉えどころのない不思議な女性です。男はその劣等感から女の琴線に触れようと躍起になるも、最後まで女性のまゆひとつしかめさせることはできません。物語は悲劇的な様相を呈してきますが、世俗とは一線を画した女性の凛とした態度が美しくもありました。とにかく不思議で不条理な物語です。

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2007/09/18 21:49

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2009/11/06 11:35

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2009/11/04 19:17

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2010/10/17 19:45

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2011/08/14 01:01

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2015/10/13 22:13

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2016/11/08 02:43

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2017/03/17 23:20

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2020/02/06 19:31

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2020/10/13 11:19

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2020/12/19 08:12

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