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夢の階段
著者 池波正太郎 (著)
微禄の若者小森又十郎は、辛夷の花のようだと憧れていた首席家老の娘の再婚相手に指名され、夢見心地。しかし三日後、彼は周囲の猛反対を尻目に縁談を断り、武士を捨て、陶器職人とな...
夢の階段
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夢の階段 改版 (新潮文庫)
商品説明
微禄の若者小森又十郎は、辛夷の花のようだと憧れていた首席家老の娘の再婚相手に指名され、夢見心地。しかし三日後、彼は周囲の猛反対を尻目に縁談を断り、武士を捨て、陶器職人となる道を選んだのだった……表題作他、処女小説「厨房(キッチン)にて」から、直木賞受賞第一作「踏切は知っている」、「忠臣蔵余話 おみちの客」まで、〈作家池波正太郎〉誕生の跡をたどる、ファン必読の未刊行初期短編9編。
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紙の本
素朴でスタンダードなデビュー当時の短編集
2007/11/18 21:40
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波正太郎の短編集である。9編の短編が集められている。本書の特徴は、まだ池波が駆け出しのころの作品を集めたところであろうか。駆け出しのころとは昭和30年前後である。今から半世紀、50年も前の作品である。
戦後、ようやく10年が経過するころでもある。私はてっきり時代物だとばかり考えていたのだが、ほとんどがその同時代を生きる主人公が描かれている。例外はタイトルとなっている『夢の階段』と『忠臣蔵余話 おみちの客』の2編だけである。
この2編のうち、『夢の階段』は信州某藩での物語、もう1編は忠臣蔵余話とあるとおり、吉良上野介に仕える武家の話である。
池波正太郎の同時代の人物をテーマにした小説は、私にとっては実は初めてである。最初に登場する『厨房にて』は、航空会社の外国人パイロットの家に仕える使用人夫婦を主人公に描いている。戦争によって複雑になった兄弟との人間関係など、特別にどうということのない日常である。それにしても、時代を反映しているのだろうか、外国人の家に仕える使用人とは、あまり見聞しない仕事ではないだろうか。そこが読者の興味を引くのだろう。巻末の解説によると、この作品は池波の処女作だそうである。それだけに、池波自身の身の上をなぞっているそうである。
『機長スタントン』は、『厨房にて』の続編とでも言えるような舞台設定である。スタントンは、やはり外国人パイロットである。同じ主人に仕える出入り業者などとの関係を描き、これまたどうということのない日常を小説にしている。
『あの男だ!』は、駅のガード下で呑み屋を経営している主人に訪れた偶然の出会いを描く。主人は戦後まもなく犯罪を犯したことがあったが、その被害者が彼の店を訪れた。弱みを握られた人間の行動と心理を巧みに描いた作品である。
本書のタイトルになっている『夢の階段』は、藩の首席家老の娘の再婚相手に選ばれた武家のストーリーである。一度は承諾した再婚であったが、突然断りを入れた。親戚一同は面目丸つぶれである。親友の武家にも理由を聞かれたのだが、答えなかった。その後、20年の年月を経て、お家騒動が勃発した最中に再会した2人の会話は興味深かった。
いずれの作品も、きわめてスタンダードな短編ではあったが、池波の小説家としての将来を伺わせるものがあったと思う。