商品説明
獅子心王リチャードとイスラム最高の武将サラディンとの激戦。「地中海の女王」ヴェネツィアを飛躍させた第四次十字軍。謎に満ちた神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ二世の外交戦術。そして第七、第八次十字軍を率い、聖人と崇められたフランス王ルイ九世の実像……。堂々たるシリーズ完結にふさわしい「戦争論」の極致。
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紙の本
クリスマスに思う、宗教的寛容について
2011/12/25 14:45
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
『十字軍物語』完結篇の本巻では、英国王リチャード1世に率いられた第三次十字軍による聖都奪還から描かれる。
リチャードの果敢な戦いぶりには敵方のイスラム教徒さえも舌を巻き、彼らはこの勇猛な王を「獅子心王」と名づけた。かつてその武勇と知略とでイェルサレムを陥落させたアユーブ朝のスルタン、サラディンもほとほと手を焼き、ついにイェルサレムにおけるキリスト教巡礼者の安全を保証することで講和にもちこむ。その後、サラディンの弟アラディールによって二人の結んだ協定は更新されつづけ、四半世紀ものあいだ巡礼者の安全は守られた。
巡礼者の安全を確保するのが目的の十字軍であるから、これは大きな前進にはちがいなかった。しかし、イスラム教徒と講和を結ぶこと自体が許せないヨーロッパのキリスト教徒、ことにローマ法王のインノケンティウス3世は、イェルサレムの奪還に固執し、第四次十字軍が送りだされる。だがこれは、法王の意図に反して、ビザンティン帝国を滅ぼし、ラテン帝国を建てただけで終わる。やはり宗教的憎悪にかたまった法王代理ペラーヨに率いられた第五次十字軍も失敗に終わる。
そして第六次十字軍を率いたのが、ドイツ皇帝フリードリッヒであった。シチリア王でもあった彼は、イスラム教徒の行きかう環境で育ち、アラビア語も自由にあやつる、他宗教に対する理解と寛容とを兼ね備えた人物であった。同時に彼は大規模な船団と大量の武器をもって相手を威圧する術も心得ていた。対するイスラムのスルタン、アル・カミールはアラディールの息子で、少年時代リチャードとの講和に父と同席し、リチャードから騎士に叙され、剣をもらったという思い出をもっていた。そんな宗教的偏見とは無関係の二人は互いに通ずるものがあったのか、両者は一戦も交えることなく、イェルサレムをキリスト教徒側に渡すことで講和を成立させる。その後ふたたび15年の平和が訪れる。
ところが、血を流さずに講和をしたことで、今回もローマ教会の怒りを買う。彼らは、イェルサレムがふたたびイスラム教徒に占拠されたのを機に、第七次十字軍を派遣する。率いるはフランス王ルイ9世。しかし彼は大敗北を喫し、「二万五千はいたと思われる軍勢の中で、帰国できたのは5千人から多く見ても七千。八千が改宗したりしてイスラム社会に溶解し、おそらくは1万以上が殺されたり病死した」。ローマ教会は、自身の無能により膨大な数のキリスト教徒を死に追いやったこの王を、聖人の列に加えた。
その11年後、キリスト教徒最後の砦アッコンがマメルーク朝によって陥落する。そこから逃れフランスにわたった聖堂騎士団をまっていた運命も悲惨であった。十字軍とのかかわりを嫌う王フィリップ4世が騎士団の罪をでっち上げ、彼らを宗教裁判にかけたのだ。多くは拷問で命を落とし、団長も最後は火あぶりにあって死ぬ。
本書においては、一方で中世キリスト教会の不寛容さが、それに対して、もう一方では現地で剣を交えるキリスト教徒とイスラム教徒のあいだに生まれた、宗教をこえた尊敬と思いやりが、あざやかな対比をもって語られている。結局、聖地に平和をもたらしたのは、戦う者同士が到達した寛容の心であり、宗教に関係なく経済的利益を求める現地人の人間としての自然な欲求であった。
教養の意味についても考えさせられる。サラディンとその一族、あるいはリチャードやフリードリッヒは生まれが高貴なこともあり、高い教養を備えていた。塩野も述べているように、教養は彼らの宗教的寛容を育むのに寄与した。奴隷上がりのマメルーク朝の指導者は無教養ゆえの不寛容さでキリスト教徒を殺戮した。一方、ローマ法王のような知識をきわめた者でさえ不寛容となりうる。無知は確かに人を不寛容へと導くが、教養も使い方によっては同じ結果をもたらすものなのだろう。
紙の本
理性で考えられるリーダー
2012/01/29 18:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズ最終巻。
最終巻では、第3字十字軍から第8字十字軍までが描かれています。第3次では獅子心王リチャードが、第6次では神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒが、そして第7.8次ではフランス王ルイがそれぞれ軍を率いていきます。
第1.2次では領主クラスが主役でしたが、この巻では歴史上、個人名もよく知られている王たちが聖地奪還を目指して動きます。
ただ、それぞれの目的は異なります。単に「キリスト教の聖地を奪還するため」というわけではありません。あるいは、法王との関係の中で、あるいは経済的な理由から、もちろん宗教的な理由から動いた王もいます。
印象的なのは、フリードリッヒ。聖地を交渉の末、奪還したものの、法王側は「血を流さない奪還はあり得ない」として、2度も破門されてしまった件。
当時の価値観が宗教主体であったということは理解できますが、世俗の王としては、それだけでは統治できないのも事実。”法王とうまく渡りをつけながら”目的を果たすこと様子が、語られています。
最終的には、キリスト教側はパレスチナでの領地を失うわけですが、十字軍のもうひとりの主役である「宗教騎士団」の敗戦後の動きも読んでいて面白い部分です。
組織が構成されるには、その目的が存在しなければなりません。宗教騎士団はいくつか存在していましたが、「聖地奪還」という目的がなくなってしまった敗戦後は、同時にその存在理由も消滅してしまいます。
宗教と政治、そして経済的な理由から、複雑な経緯を経て現在のパレスチナの状況まで至ったわけですが、宗教上の理由が大きくなると、他の要因は後回しにされ戦争状態になるようです。これはキリスト教側もイスラム側も同じことが言え、その両陣営の状況によっても、問題が複雑になる時期もあるということ。
理性で考えられるリーダー、しかも周りの様々な障害物を自分の有利な方向に変えつつ、事態を自分の計画通りに進められる能力が求められるのは、今も昔も変わらないはずです。
龍.
紙の本
教訓が詰まった日本人必読の書
2015/08/30 16:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:historian - この投稿者のレビュー一覧を見る
サラディンを破り譲歩を強いた戦上手の英王リチャード1世、交渉によってイェルサレムを奪回した神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世、比類無いほど高潔で敬虔だったが戦争には負けてばかりいた仏王ルイ9世。彼らの奮闘も空しく、1291年最後の拠点・アッコンが陥落し、200年に及ぶ十字軍は終わりを告げた・・・
この作品には定説を覆す新説が載っているわけではなく、丁寧に十字軍の歴史と登場人物たちの生き様を描いている。それ故にかえって、現代の政治や外交にも通じる教訓があふれていると言えるだろう。歴史に学ぶことが少なく、外国の文化や宗教に疎い我々日本人としては必読の書と言える。
紙の本
塩野先生は中東はお嫌い?
2012/06/14 04:31
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たぬき - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ローマ人の物語」を初めに読んで、毎年楽しみに拝読させて戴いた以来すっかりはまり、「我が友マキアヴェッリ」「三都物語」等々、以前の著作も楽しませてもらいました。塩野先生が書かれるイタリア関連の著作には、根本には愛(執着と言った方が正しいのかも知れません)が感じられますが、この本には残念ながら、と言うことです。塩野節は相変わらずなので、そこは安心して読めます。