historianさんのレビュー一覧
投稿者:historian
第二次大戦回顧録抄
2015/09/06 20:29
チャーチルの第二次大戦回顧録
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
第二次大戦中ずっとイギリスの首相を務め戦争を指導したチャーチルは、戦後ものすごく膨大な紙数を誇る『第二次大戦回顧録』を著した。これはその要約版。政治家でも歴史家でもない一般人が読むにはこっちの方が手軽でいいでしょう。
主要参戦国の最高指導者が自ら書いたというだけでも大変貴重だが、英国目線で第二次大戦の経過を簡潔明瞭に述べ、そこここに鋭い考察を入れてあり、一つの作品としても価値が高い。さらにルーズベルト米大統領とのナマのやりとりも記されたり、太平洋の戦闘にもきちんと関与していたり、山本五十六に並々ならぬ関心を持っていたりと新しい視点も見つかり、新鮮な内容もあった。
銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎 上巻
2015/08/31 14:19
分厚いけどすごく勉強になる。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
なぜ現代の世界はヨーロッパやそれに連なる北アメリカの国々が支配しているのか?という素朴だが考えてみると答えがわからず実に奥が深い疑問に、著者が膨大な紙数を費やしてある単純な仮説を導き出した一冊。内容は本当に興味深く、数々の身近なトピックを持ち出して飽きさせないように書いてあるが、それに応じて本当に分厚く圧倒的なまでの文字数があるので、その点は覚悟して読んでください。
承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱
2019/12/15 23:43
過小評価されてきた日本史上屈指の大事件
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一口に武士の時代とは言っても、平清盛や源頼朝はまだまだ朝廷の枠組み内にいたと言っていい。それがいつ誰がひっくり返したかといえば、1221年の承久の乱で北条義時がやったのである。だが相手は歴代でも屈指の英主である後鳥羽上皇であり、決して鎌倉側が勝つべくして勝ったわけではなく、勝敗が逆になった機会はいくらでもあった。それがなぜ鮮やかに鎌倉側が勝ち、「武者の世」を到来させる壇ノ浦よりも関ヶ原よりもずっと大きな歴史的変動を生む結果になったか、本書は最新の知見を交えて論じてくれた。昔教科書で教えられた歴史がひっくり返される名著である。
ガリア戦記 改版
2015/08/16 14:55
珠玉の戦記・・・だけど読みにくい
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一国の指導者が自ら遂行した戦争をを記録した、しかもそれがローマという最初の超大国で、カエサルという最高の政治家であり軍人であり文筆家である人物が著したという点で、非常に貴重で優れた戦記。一般人が読めばスリルに満ちた戦争の記録であるし、組織の指導者が読めば教訓に満ちた参考書になるはずである。ただ、岩波文庫のポリシーなのかもしれないが、文字が小さくて文語調で読みにくい!もうちょっと現代文風に訳してほしいところではある。戦闘の地図が載っているのはありがたいけど。
2020/09/12 20:05
歴史の常識を覆す革命的な一書
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大河ドラマなどでは幕府の人間は勝海舟を除いて因循姑息で頑迷な愚者であり、薩長の若き志士たちが乾坤一擲の革命を起こさなければ、日本はついに欧米列強の植民地になり果てていたに違いないというイメージがまかり通っている。この本はそういった嘘をすべて暴き立て、真実を白日の下にさらした革命的な一冊だ。幕府は積極的な人材登用で開国という難事を成功裏に進めつつあった、それを長州のテロリストが暴虐の限りを尽くして妨害した、坂本龍馬は実は重要なことを何一つ成し遂げていない、奇兵隊はごろつき集団でその規律たるやひどいものだったなどなど、維新のヒーローのほとんどは実は唾棄すべき悪人だったことが明かされる。特に山県有朋と井上馨の両名は維新早々に大疑獄事件を臆面もなく起こして汚職大国ニッポンの源流を作った張本人として教科書に載せねばならないだろう。
百年戦争 中世ヨーロッパ最後の戦い
2020/07/03 00:04
イギリスとフランスを生んだ百年戦争
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
現在の英仏両国を見て、昔は二つとも同じ国だったといわれてもちょっと信じがたいだろう。では、いつイギリスとフランスは別々の国になったのかといわれると、シャルル7世が百年戦争に勝利し、すべてのイングランド人がブリテン島に逃れた時なのである。それに至るには実に複雑で紆余曲折を経た両陣営の衝突・駆け引き・内訌があった。世界史の教科書ではせいぜい半ページで終わってしまうこの戦争を詳細に解説してくれた本書は、両国の歴史を知る上で役に立つこと間違いないだろう。
天下分け目の関ケ原の合戦はなかった 一次史料が伝える“通説を根底から覆す”真実とは
2018/07/19 21:08
真の関ヶ原戦争が見える、目から鱗の一冊
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司馬遼太郎の「関ヶ原」に代表される今までの関ヶ原の合戦像に慣れてきた人々はこの本を読んだらショックを受けるかもしれない。日本史上、最も有名な事件の一つである関ヶ原の戦いを、徹底的に当時の一次資料だけから検証した本書では、有名な逸話のほぼ全ては後世の作り話であることが示されるにとどまらず、天下人の座を伺う徳川家康vs.豊臣家の忠臣・石田三成という構図すらひっくり返される。歴史好きなら必ず読むべき一冊だろう。
ミケランジェロ・プロジェクト ナチスから美術品を守った男たち 上
2016/01/28 19:22
大戦中の知られざる災厄。
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第二次大戦中、ヨーロッパ全域においてかけがえのない人類の宝である美術品が、かつてないほどの危機にさらされていた。戦火による焼失や破壊もさることながら、ナチス・ドイツは大戦中、占領した国々から美術品といえば根こそぎ略奪していたのである。それらを探し、取り戻し、無傷で故国に戻すために、立ち上がった9人の男女。だが、その前途には幾多の苦難が待ち受けていた。
延々と文章が続いている上に、写真や地図や図も少ないので、非常に読みにくいし、何回か読み直さないと理解できない箇所もある。もうちょい翻訳や編集を頑張って読みやすい物にできないだろうか・・・。内容自体はスリルもあるし、知られざる戦争中の災厄や決して華々しいことをやったわけではない主人公たちの苦闘を描いたという点では、十分楽しめる物だっただけに、残念である。
翔ぶが如く 新装版 10
2015/08/30 16:29
一つの時代の終焉。
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転戦の末、追いつめられた西郷・桐野ら一党は城山において自刃、西南戦争は終わった。しかし、大久保の政権も長くは続かず、翌年に不平士族の凶刃に倒れる。こうして、一つの時代が終わった・・・
この大長編の魅力は、主人公の西郷と大久保の友情と葛藤だけではなく、準主役の桐野・川路、更にその周囲の薩摩人も長州人もその他要人も反政府の人々も、無数の登場人物に惜しみなく紙数を割いて描写した点だと思う。間違いなく、司馬遼太郎の傑作の一つといえる。
平清盛と後白河院
2015/08/29 13:23
平家物語史観が覆る、目から鱗の本です。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大河ドラマの「平清盛」や古典の平家物語しか見たり読んだりしてこなかった方々にはこの本の内容は実に新鮮であろう。従来の史観からでは予想もできないような真実が論証されている。後白河法皇は若い頃はとても帝王になれる見込みはなかった、平清盛と重盛は一枚岩では無かった、宗盛は有能な官僚であり重盛の地位は生前から脅かされていた、清盛の権力は治承三年のクーデター後ですら絶対的な物ではなかった・・・などなど、最新の研究結果が盛りだくさんで目から鱗の本である。とても「平家にあらずんば人にあらず」という状況ではなく、様々な勢力があらゆる縁故関係を結んで暗闘に明け暮れていた実情が分かる非常に勉強になる本と言えるだろう。
オリエント急行の殺人
2015/08/18 19:00
一度は読んでほしい探偵小説
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言わずとしれたアガサ・クリスティの傑作の一つ。2015年1月に日本風にアレンジしたドラマも放映されたので買って読んでみたが、オリエント急行という舞台といい、入り乱れる証言や証拠といい、意外すぎる真相といい、誰が読んでも引き込まれる探偵小説であることは間違いない。よく読み返してみると「ここはおかしくないか?」というつっこみどころがあったり無かったりするが、まあこだわらずに読むのもいいでしょう。
THE内科専門医問題集 WEB版付 1 総合内科Ⅰ Ⅱ Ⅲ・消化器・循環器・内分泌・代謝・腎臓
2021/07/16 20:25
値段以上の価値あり。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
内科専門医試験を受ける前に当然準備の勉強をしなければならないのだが、何から勉強すれば分からなかった自分にとって本書はまさに救世主だった。J-OSLERの疾患リストを網羅した設問で解説も充実しており、国家試験が終わって忘れ去っていた、他科の知識を効率的に思い出すことができた。本番でも本書に記載されていた内容が多く出題され、改めて感謝した次第である。
観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い
2019/12/15 23:32
歴史上、地味だが重大な事件
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どうも室町時代というのは大河ドラマでも滅多に取り上げられず地味な印象を持たれがちだ。それは足利氏が絶対的権力を確立できないまま衰退してしまったからだが、その根本的原因はこの観応の擾乱にある。しかしこの事件を詳細に取り上げた本は今まで無かった。その意味で本書は室町時代を紐解く一書と言えるだろうし、乱世の収拾と平和の持続に必要なことを教えてくれる。
2018/07/01 13:03
画像診断の良い入門書
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消化器内科に入るのに肝臓の画像も読めないようでは…と思って買った本だが、予想外に重宝している。もちろん目の前の患者の画像も読まなければ実力はつかないが、それも知識ゼロからやってはダメで、この本のようにcommon diseaseからレア疾患まで詳細な解説と症例画像を載せてくれた教科書が絶対に必要なのだ。電子書籍版でかさばらないのでさらにおいしい。