紙の本
充たされない何かを扱うのが巧い
2023/05/30 17:43
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
結婚しても充たされない何かを抱えてる男女を描いた群像劇。実社会には知り合い同士がこんなギスってるコミュニティないんだろうけど、不倫・育児・パパ活・DV、どの問題をとっても全然あり得る悩みだし、怒りとか悲しみとか諦念の描き方はさすが金原さんって感じた。
金原さんの作品は面白いとか面白くないとかを超えて、いつも真剣でエグくてキツい。特にキツかった描写が、自分の人生の面倒を見てくれる相手を探し求めてるパパ活女子が、オッサンとカフェで交渉しながら脳内で今日の稼ぎを計算してるシーン。読んでるだけで自己肯定感下がる結構ハードな文章だった。
紙の本
アタラクシア
2023/02/20 13:04
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投稿者:すみれ - この投稿者のレビュー一覧を見る
金原ひとみさんの小説を読んでいる!!と感じる本です。文字から、なにかすごく大きな感情が流れ込んでくるあの感じは本当に素晴らしいです。
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アタラクシアとは、「心の平穏」という意味だという。(解説P360)
わたしは特にこの言葉の意味を調べることもなく読み始め、「なんかフランス語なのかなぁ」くらいの感じで読み進めていった。
この言葉の意味を知っていて読むのと知らないで読むのとで、大きな違いがあったようには思わない。
いずれにせよ、この、心というより胸全体に広がる、痣のような痛みには、変わりないのだろう。
誰にも共感できないようで、誰にも共感できるような、不思議な連作短編集。
金原さん特有の、他人との独特の距離感でもって描かれていて、つまり全員人との適切な距離感を保ててない。
というか、適切な距離感の人なんて金原さんの作品においてはモブキャラでしか出てこないのだけれど(褒め言葉)。
最も掴めないキャラクターは由依。
彼女が主人公になる章ですら掴みにくい。
掴みどころがないキャラクターだからか、描写が深すぎない。
しかし、いやだからこそ、そこには「掴めない」「何を考えているか分からない」というキャラクターの幅があって、この幅が作品に深みを与えているのかもしれない。読み進めていくと、由依からは断続的な痛みが、どくどくと、しかし冷淡に伝わってくる。だらだらと血を流し続けていて、由依本人もそれを分かっているのに見ないふりをしているような、そんな痛みだ。
桂の章で、由依の壮絶な体験が語られるのだけれど、桂というフィルターを通しているため、やはり由依の本音は分かりにくい。しかし、そこにあるのは確かな痛みなのだ。
この作品の中で由依は「軽薄」と言う言葉で表現されているのだけれど、金原さんはこういう「軽薄な人」を描くのが上手で、以前読んだ『軽薄』を思い出した。
そんな由依と比べると、英美や真奈美の方が共感はしやすい。
うまくいかなさを嘆き、人に当たり散らす英美は人間らしくて危うくて、今必死に生きているシングルマザーは似たような苦しみを抱えているのではないだろうか。
個人的には真奈美の、彼女の、安心材料としての不倫というのがすごい共感できてしまって。
その癖他人の不倫に正論でぶつかっていくところとか、その癖自分は夫の暴力を放置していて、その客観的に見たらぶっ壊れている精神状態、だけど本人からしたらギリギリでバランスを取っているその状況こそが安定している状態だと思い込まされている感じがなんともわたしにぐさぐさと刺さりまくる。
そのアンバランスさが自分の中ではベストなバランスで、「普通の」バランスでいこうとすると、逆にバランスを崩してしまうような。この危うさがとても上手に描かれている。
枝里は由依の妹に当たるわけだけど、枝里もなんだか瞬間を暴走するかのように必死に生きている。金原さんの作品を読んでいると、「なんでこの姉妹こんなに病んでるの」と、よく思う。
親子関係の描写が少ないからそこは推察するしかないのだけれど、金原さんの作品は、その「病み」をあんまり親のせいにして描いてないんだと思う。全部自分の選択、とは言わないけれど、基本的に親は介在してなくて、自分と、自分が築いてきた人間関係がそこにあるのみ。
それがより一層、登場人物の孤独や寂しさを引き立てている感じがする。
そして、最後に。
あんまりうまく言えないんだけど、やばい男って、結局やばい。
と、ここまでは読み終えた直後に思っていたこと。
だけど今はもう一つだけ言いたいことがあって。
暴力はよくない。
だけど、ただ暴力を断罪するのではなく、なぜ暴力に至ったのか。その経過に、わたしは耳を傾けたい。それが理解できるかできないかではなく。とにかく丁寧に。
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出てくる登場人物がみんな苦しみもがいている。
幸せを求めているのにどうしても思い通りにいかない。
ポジティブなストーリーが好きというわけではないが、ずっとずっと重たくて、読んでいて少し疲れてしまうかな。
章ごとに色々な立場の人間目線からストーリーが描かれているが、気持ちよく繋がっているわけではないのが、読みにくかった。
蛇にピアスも読んだが、著者の思考もメンヘラっぽいのかなと思った。
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なんというか…おもしろかった。怖かったけど。怖すぎて気持ち悪すぎたけど、頑張って読み切ってよかった。
ラスト、えってなった。なんでなんで?殺された22歳って知らない人?
真奈美と別れる時の荒木の優しい感じがすごくこの小説のなかの唯一の正気な感じで救われたと思ったのに…
金原ひとみってすごいの書くんだな。
他のも読も。
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アタラクシアとは、哲学で「心の平静・不動の状態」を指し、古代ギリシャの哲学者エピクロスは、この境地の実現が哲学の目標と説いたという。
そんな言葉とは真逆な内容。
最も幸せな瞬間を、夫とは別の男と過ごす翻訳者の由依。浮気する夫や文句ばかりの母親、反抗的な息子に、限界まで苛立つパティシエの英美。妻に強く惹かれながらも、何をしたら彼女が幸せになるのか分からない作家の桂……。
望んで結婚したはずなのに、どうしてこんなに苦しいのだろう──
結婚=心の平静というような思いでその道を選んだはずなのに、その選択ゆえに心の平静からかえって遠ざかってしまう登場人物たち。
そのドロドロとした感情に飲み込まれて、読んでいるこちらも「アタラクシア」からは遠いところへ投げ出されたような読後感でした。
そしてラストが本当に衝撃的。
そこが繋がるの!?とつい読み直すはめに。
金原ひとみさんの本は初めて読んだけど、重たく苦しく、でもどこか刺さるので手元に置いておきたい一冊になりました。
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始めて読みました。金原ひとみさん。
とても重くて登場人物誰にも共感できない、むしろ不快な気持ちになってしまって…
ただ、作者さんの熱量がすごかった。魂の叫びというか葛藤とか苛立ちとか。言葉がすごい熱量を持ってぶつかってくる感じ。
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アタラクシアとは、心の平静・不動の状態をいい、ヘレニズム時代のギリシア人の倫理観、特にエピクロスの処世哲学では幸福の必須条件とされたとのこと。
心の平静・不動のために、ある種の痛みが必要な人たちを描いた連作短編集、と言ったところか…
金原さんの小説は、なんというか中毒性があるんだよな…非常に危険な麻薬みたいな…味を知ってしまうとどんなに痛くても抜け出せません泣
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丁寧に描かれている本だと思った。
だけど、欲張りや感情の表し方が下手な人ばかりで、
読み終えた時に疲労感。
好きか嫌いかと言われたら、得意ではないと答える本。
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・どの登場人物にも好感を持てずに終わった。
・この本に出てくるキャラクターは、自分で自分のことを幸せにしようという意欲がないので、読んでいて自分とは人生の進め方が違うなと思った。そして少し不快にも感じた。
・どの登場人物もかなり突飛な行動や言動で現実味がなかった。話としては面白いところもあるが、果たして人間はこれほど単純なんだろうか…。どの登場人物も弱さや葛藤があるが、どれも取ってつけたようなものに思った。この小説は、ただの作り話でそれ以上の真実とか、面白さはこの中にはないなと思った。
・どの登場人物も話す時やモノローグで、複数の例えや比喩がきて、それから主張がくるので、一つ一つの文が長くてしつこいと感じた。
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登場人物一人一人の心理描写が丁寧で、文章は長いんだけど、それなりに引き込まれて一気に読んだ。
もしかしたら、こういう描写は苦手と感じる人もいるかもしれない。でも、人間の本音なんて、分かりやすく理路整然となったものではないし、感情を一気にバーッと書き連ねてるからこその、生々しい本音が表現されているのだと思うので、良かった。
一番つかみどころのない性格と思われる由依だけれども、自分の気持ちに正直に生きてる姿を見て、これはこれでアリだなと思った。
「不倫と正義」(新潮新書)とセットで読むと、面白い。
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冒頭、由依と瑛人の幸せな恋人同士の時間から始まる。それが、他の登場人物の目線による物語が進むにつれ、由依には夫がいることが分かり、さらに由依の掴みどころのない冷ややかともとれる人物像が浮かび上がってくる。
由依の語りの部分から受ける印象と、他の登場人物から見た由依の印象とのギャップを理解するのが難しかった。
読み終わって荒木の正体を知るにあたり同じことを思った。人の実像を本当に掴むことは難しい。だからこそ他人と一緒にいる結婚というものも難しいのかもしれない。
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由依の気持ち、瑛人の気持ち、真奈美の気持ち、みんなの気持ちが、手に取るようにわかった。荒木はオフ会の彼だったってことですか?
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カップルやそれに関係する男女の、それぞれの視点から心境を描くお話。
登場人物のどれも好きになれなかったが、読み進めていくうちに、どの登場人物とも共感できる気がした。
自分とは違う性格の人物でも、自分と何かしらの共通点があったり、登場人物のイヤな面にも共感できてしまうのは、自分にも同じようなイヤな面があるのかな、と気づかされた。もっとそれぞれの人物のその後を追ってみたくなった。おすすめ。
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キレッキレで驚異的な語彙力がたまらない。
「一緒にいることの絶望」という発想が斬新で
不思議と全否定できなかった。
世界観にどっぷり浸かりながらそれぞれの立場で考えるとなぜか共感してしまう。