紙の本
まるで舞台のように
2020/06/11 16:10
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
音楽に詳しくないので調べると、「輪舞曲」というのは「古典的な音楽形式」のひとつで、「ロンド」ともいわれ、「異なる旋律を挟みながら、同じ旋律(ロンド主題)を何度も繰り返す形式」とある。
大正時代の新劇女優伊澤蘭奢(いざわらんじゃ)の生涯を描いた長編小説のタイトルに朝井まかてがこの「輪舞曲」と付けたのは、一人の女優を主軸にし、そこに関わっていく4人の男を描きながら、それでも描きたいのは彼女の、時代と戦い、家と戦い、性と闘う、そんな姿だったからかもしれない。
大正時代とはいえこれは歴史小説で、伊澤蘭奢という女優のことを全く知らなかったので、ウィキペディアで調べたが、小説に出てくる主要な人物は実在することがわかった。
彼女を愛人にした内藤民治、彼女が愛した徳川夢声、彼女を慕う福田清人、そして彼女の息子である伊藤佐喜雄。
この男たちにはそれぞれ違う姿を見せたといえるかもしれないが、実際は男たちが勝手にこしらえた姿ともいえる。
それでいうなら、伊澤蘭奢は間違いなく女優であったのだろう。
だからだろう、ラストで関東大震災で焼野原となった東京の片隅で彼女が演じた「桜の園」の舞台を見たという男が登場し、彼女の舞台に感動したことを伝える場面がある。
それはいかにも造られたラストであったが、この男もまた伊澤蘭奢という女優に魅せられた一人だったことは間違いない。
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初出 2018〜19年「小説新潮」
伊澤蘭奢という女優を知らなかった。子供を残して離婚、上京し、松井須磨子なき後の大正後期から昭和初期に新劇を代表する女優になり、38歳で亡くなったという足跡は史実のとおりに書かれている。。
この本は、恋人であった徳川夢声、パトロンで愛人だった内藤民治、取り巻きの帝大生で文学者となる福田清人、蘭奢の息子で後に芥川賞候補となる伊藤佐喜雄が遺稿集を作るために集まったところから始まり、それぞれからみた蘭奢との日々が綴られていく。
佐喜雄から福田清人への手紙の中で、福田が水城茂人のペンネームで書いた童話の感想を、後味に刃物で切り取ったような現実感があると書いているのだが、私はこの本がそうだと感じていた。鋭い切れ味の刃物で伊澤蘭奢の人生の断片を鮮やかに切り取って、私の胸を切り開いてそこへ埋め込んだかのように生々しい姿を感じ取った。さすが作者の筆の力は一層上がっている。
読後に検索して見た伊澤蘭奢の写真は、さすがに人を惹きつけてやまないと思わせる女優の姿だった。
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大正期の伝説の女優・伊澤蘭奢の女優人生を描いた作品。
蘭奢は夫と暮らした東京で観た松井須磨子に憧れ、郷土・萩に逼塞した後に子・佐喜雄を残して離婚、二十七歳で単身上京し女優を目指します。やがて頭角を現し、「四十になったら死ぬの」とうそぶいていた通りに絶頂期の数え40歳で突然世を去ります(脳溢血)。
その蘭奢の姿を4人の男、旧制高校の受験生の頃から関係を持った活動写真弁士の徳川夢声、女優としてのパトロンで愛人の出版社社主/政治フィクサーの内藤民治。火遊びの相手で後に児童文学者となる帝大生の福田清人。そして息子で後の芥川賞候補作家の伊藤佐喜雄の語りで描いて行きます。
しかし凄まじい人生です。それを激しすぎないように上手く描いていると思います。
例えば「手紙」という章はいきなり蘭奢の葬式のシーンで始まり、そこから振り返るように蘭奢の死の前後が語られます。最後まで死のシーンは出て来ません。8つの章から成りますが、何れも蘭奢の人生の転機をわざと外し、それをエピローグ的に語って行くという手法を取っているのです。語りの方法としてまかてさん上手いな~と思います。大正ロマンの時代を超え、個性的に生き抜いた一人の女優の姿がくっきりと浮かび上がります。私は好きですが、評価は分かれるかもしれません。
ちなみに『女優X―伊沢蘭奢の生涯』夏樹静子 (著)と言う本も有るようです(私は未読)
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何でもコロナに結び付けてしまう。島村抱月がスペイン風邪で亡くなった時代に活躍した女優のヒストリー。終盤盛り上がる。^_^小説や芝居では一人の人間には一つの心しかないような表現をするけれど、本当は相手によって心も変わるんじゃないかと思うのよ。関係性によって、無数の心を持っているって^_^by伊澤蘭奢
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40歳で亡くなった女優伊澤蘭奢の人生を3人の愛人と1人の息子を中心に描かれている。
印象に残った文章
⒈ 絹糸の神経を撚り合せて、雑縄の意志を作れ。
⒉ 彼女は自らの意志で、我々の前から去ったんだ。
⒊ 僕にとっては、たった一幕の母でした。
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流石まかてさんらしく、流麗な文章に巧みな章立て、敢えて何というか人生の転機箇所をずらして描くなど、その手法・手腕も既に名人芸の域。しかし、主人公の生き方にあまり共感できなかったので面白くはなかった。非常に残念な一作。でもこれからもまかて作品は読んでいきます。
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昭和初期の劇団状況がよく分かり文化の香りがする.そして,かくも女優になることは女性にとって戦いの連続だったのだということもわかる.伊澤蘭奢の軌跡を語る係りのあった男たちが感じた彼女の姿のたくさんの面,それも演技だったのだろうか.
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ご本人を知っていたら面白かったのかも?そもそもこれはパートナーのお母さんから送られてきた本なので自分で選んで読んだわけではないため、評価することが間違っているので評価なしです。
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大正-昭和期に舞台と映画で活躍した女優が主人公の、作者得意の女性の一代記。
活躍した期間も含め、短い生涯を生きた女性だが、徳川無声を始めとする周辺の男性たちを絡めることで、物語は膨らむ。
(歌舞伎などの)旧劇に対比し女性を女性が演じる新劇、無声映画、トーキーなど、主人公やその周辺の人々を通じて当時の興行界の移り変わりを追体験できる。
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「私、女優になるの。どうでも、決めているの」
夫と一人息子を田舎に残し一人で上京。
田舎の訛りが抜けない。
躍りも唄も満足に出来ない。
年齢的にもそんなに若くない。
誰もが無謀な夢だと思っていたのに、思った通りやり通す信念の女性。
大正から昭和初期を駆け抜けた伝説の女優・伊澤蘭奢。
3人の愛人と息子、4人の男達が彼女の人生を振り返り、彼女の死と向き合う物語。
互いを規制しつつも案外仲良くやっている4人がとても印象的だった。
4人の男達は互いに距離を保ちながら、蘭奢を中心にして周りを踊らされていただけなのかも。
あの時代、田舎で生まれ育った女性がこんなにも自由奔放に生きていけたなんて。
周囲の目も気にせず自分の意思を貫く強さがとても眩しい。
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大正時代、夫と子どもを捨てて上京し、遅咲きながらも新劇を代表する女優の一人となった伊澤蘭奢の生涯を描く。
蘭奢の破天荒な生き方は、パトロンや恋人、息子など、彼女の周囲にいた4人の男性によって語られる。当時の演劇事情を背景に、こういう女性がいたのかと興味深く読んだ。
ただ、事細かな説明がある割には、肝心な女優としての熱意や、生身の女性としての激しい心のうちなどが思ったほどには伝わってこない。
余談になるが、作中に出てきたチェーホフの『桜の園』、4月にシアターコクーンの舞台を観に行くはずだったが、コロナで公演は中止になった。蘭奢の演じた役は大竹しのぶ、ほかに宮沢りえ、黒木華、生瀬勝久など実力のある役者たちがそろっていたので、とっても残念。舞台のシーンを読みながら、この俳優たちの顔を思い浮かべてしまった。
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関わった男性の回顧を通じて伝説の女優の生き様を描いた作品。読みやすいが、その女優を全く知らない。演劇にも疎いので、面白さ半減以下。自分の無知を知った本。
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伊澤蘭著(いざわらんじゃ)1889-1928 享年38.
女優としての時間は1917からのわずか11年。この方のことはを存じ上げなかったのだが、検索すれば経歴もご尊顔の画像もいろいろ出てくる。言葉どおりの1冊の本になる半生。
短くも退廃的で美しい文化が興った大正という時代を体現したかのような女優。彼女に関わった4人の男性の洋館での会食ではじまる幕明けは、とても良いいざないの場面。カタカナ表記で効果的に時代を表せる特殊な時期だよなあ。スプウン、とかね。
裏表紙にもなっているジャスミンの花はときどき物語にも出てくるが、読み進めて彼女の人となりを知るうちに、あの妖艶で繊細な香りがたしかに良く似合う、と記憶のなかからあの香りを鼻奥に感じつつ読んだ。
アーティストだよなあ。今で言う、表現者として沼にはまって命まで削ったかんじ。
こういう自己愛の強さみたいなもの、いま情報化社会で倫理と他者批判に疲弊する現代人は見習うべきところがあるかもしれない。みな幸せなことばかりではなく、やりたいこともこれが正しいのかも自分でもわからず、自省のほうの思いに支配されて、望みのままに生きることを我慢したり諦めたりしてしまうけれど、彼女はへこたれない。人としての暮らしを豊かにすることは捨て、女優であることの本質に心血を注ぐ。終盤で“緩やかな自死”という表現が出てくるけれど、この表現がとても腑に落ちた。
ラスト、表現者冥利に尽きるとある男の思い出話で閉じる場面はこれまた美しい、涙涙。
あんまりネタバレを書きたくない、書くべき作品でもないとおもうのでへんな感想になっちゃったな、
でも久々に重みと胸が埋まる密度のある実在の方の半生を描いた小説、でした。
これ(ある意味、皮肉にも)映画になるんじゃないかな。業界の方にはたまらんだろう。主役を誰が演じるか、楽しみ。もし実現したらジャスミンの香のアロマを控えめに持ち込もう。
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大正時代に女優で活躍した伊澤蘭奢(三浦繁)の物語だが、登場人物が多彩で驚いた.愛人関係だった内藤民治、カツベンの徳川夢声、近代劇協会の上山草人、新劇協会の畑中蓼坡等々.津和野に旧家に嫁いだ繁が子供を置いて東京に出て女優になることは当時としては破格の事件だったはずだ.様々なエピソードがあったが、徳川夢声がトーキー映画の出現で苦労する話が面白かった.息子の佐喜雄の存在も話を面白くしていた.
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新劇や無声映画の女優として活躍したのはわずか10年ほど、伝説の女優「伊澤蘭奢の人生を描いた物語。語り手は彼女のパトロン、元愛人、燕、息子の4人。
語り手を見るだけで彼女の波乱万丈で華やかで実は空虚だったかも知れない人生を想像できる、そういう構成もさすが朝井まかての上手さ。
当時は文学と演劇と映画が今より密接に関係していたからだろうか?演劇関係にはとんと縁のない俺でも見知った名前が少々出てくるが、それ以上にのめり込めないのは、やはり興味のない世界だからか?それでも、演劇の魔力にとりこまれ、わずか10年の女優人生であっても、その世界に大きな影響を与えた彼女は凄かったのだろうし、そのパワーに巻き込まれていった男たちも、振り返れば幸せだったと思えるのは、なんという生命力なんだろうと思える。
物語が終わって、わずか数年後に日本は、文化が著しく衰退するような道を歩んでしまうのだが…、それを観ずに済んだ蘭奢は良かったのかも知れないなぁ。無粋の極みやからね戦争は。