紙の本
「亀と観覧車」の対極にある様な長編
2017/10/17 17:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タンポポ旦那 - この投稿者のレビュー一覧を見る
冒頭から“柚木草平シリーズ”を思わせる樋口有介独特のペースで、一気に物語に引き込まれた。旧作の「雨の匂い」文庫版解説で、小池啓介氏が樋口作品について「ほとんどの作品において、人と人との距離感を描いてきた」また「距離が生む人間心理の機微をバリエーション豊かに描いてきた」と評しているが、本作は正にその新しいバリエーションと思う。
主人公・玲菜の性格付けは、草平シリーズや「八月の舟」などに見られる少年のパターンで、「風町サエ」や脇役はともかく、少女としては珍しく感じた。それだけに、近作で言えば「亀と観覧車」の涼子との対比が面白く、作品的にも対極にある気がする。涼子は人と距離を離す事を自ら求め、孤独を際立たせて行くが、本作の玲菜は、特殊な家庭環境に育つ故に“普通”を求め、人との距離の測り方を知らないが故に、距離を詰めてくる人に新鮮な興味を抱くとともに、彼らとの関わりで“普通”への道を探ろうとする。“前向きさ”では「サエ」に匹敵する造形が好ましい。
玲菜を取り巻く人物像もなかなかに魅力的で、それぞれの背景設定がストーリーに奥行きを与えていると思う。
作中、玲菜が新前橋と富岡を訪れたシーンで、度々「なにが悲しくて人は、こんな町に住むのだろう」という独白が出てくるが、比較する対象を持たず、幸・不幸が分からない玲菜も、やがては“普通”を知り、比較する対象を得て行くと思われる展開に、草平シリーズの様な読後感を味わった。
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【わたしは生まれたときからずっと逃げています】〈あの人〉から逃れるために、母親と二人で住む場所を転々とする十四歳の玲菜には戸籍がない。ところがある日突然、母が姿を消した。
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樋口有介書き下ろし新作。
最後まで心の奥底で不穏さにハラハラしたが、ストレートに読後感がよかった。
主人公のキャラクターが老成し過ぎているから、青春小説としてのアンバランスさが拭えないのはいつものこと。
素敵な話で、これが年一以上のペースで読めるなら、他の趣味は別に要らんと思ってしまう。
☆4.5
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主人公の14歳の少女、玲菜(れな)は母と二人、町から町への逃亡隠遁生活を続けながら育ってきた。当然に住民票もないので学齢にもかかわらず、学校に通ったことはなく、母の指導のもと独学してきた。これまで友人は皆無であり、今住んでいる川越では、暇なときにバイトに出るJKカフェでのスタッフとの人間関係があるだけの生活。
そうしたなか、一人で勉強している玲菜のために教科書を探してくれるリサイクルショップ川越屋の主人、秋吉とその孫の牧生とも顔見知りになったある日、突然「あの人に見つかった」という電話を最後に、母は消息を絶つ。学校とも、社会ともつながりのない玲菜を一人残して。そして始まる川越屋の二人との生活。
幼少のころから学校へも通えずに母と二人逃亡生活を続けてきた玲菜が利発で「完璧な鼻」の美少女、そして玲菜が転がり込むことになった川越屋の男二人が意外に真っ当な人間であったりして、アウトラインの設定の割には、心温まるほっこりした読後感の作品。
設定は角田光代の「八日目の蟬」に似ているところもある。
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ハートウォーミングなお話で、そういうのが好きなかたには良いお話だと思う。
でも、残念ながら私には響かなかったりする。
どこに「孤独」が描かれてんだろ?とか、こうもうまくいくのは、詰まるところは主人公、美少女だからじゃね? とか、ろくでもない感想しか湧いてこないねぇ。
偶々直前に同じく戸籍(国籍)のない10代女子のお話「夜また夜の深い夜」を読んだせいかもしれんけど、こういう育ちの子が、こうも良い子ちゃんでいられるのかねぇ?リアリティ無さ過ぎやろ。
ハートウォーミングというよりファンタシィの世界。
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展開が意外すぎて物語として引き込まれて読みました。
良い悪いとか現実的に有りなの?とかは置いておいて、とても気持ちがあたたかくなるストーリーでした。
14歳の玲菜が、大人っぽすぎてかわいそうで…幸せになってほしいな。
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今となっては唯一単行本を買う作家さん。
しかし、新作出てたの知らなかった!
しゃおさんのポストで知って、すぐに本屋へ。
樋口有介特有の雰囲気はそのままなんだけれど、何かが違う。
全然嫌な違和感じゃなくて、何が違うのかなぁと考えていたら、登場人物達の人物像というか描かれ方が違うんだ。
特に主人公。
これまではどこか達観していたり斜に構えていたりしていたけれど、すごく素直。
あと、しっかりと感情表現するから、まわりの人達もそれに対してストレートに応える。
樋口作品らしいハードボイルド要素の強い作品もいいが、こういう優しさで包まれている作品もいいなぁ。
またこういう雰囲気の作品、読んでみたいな。
帯のコピーもいいな。
前向きさと少しの寂しさみたいなのを感じる言葉遣い。
この二行で、しかもほとんど平仮名で作品全体を現してる。
読み終わってから見て、さらに感じるなぁ。
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あなたの隣にいる孤独
樋口有介さん。
あの人から逃れるため、母親と2人。
住居を転々として暮らしている15歳の主人公。
戸籍もないので、幼稚園小中学校へ、通った事がない。
リサイクルショップで買った教科書で、
独習して。保険証もないので、
体に気を使い玄米を食べる。
それでも。
母親が大好きなので、2人で仲良く
暮らしている。
DV等で、あの人から逃げてるのかな?と
思いきや。
実は違った!
そして、匿ってくれた
口が悪いが優しい
リサイクルショップの人達。
あっという間に、
読めて。終わってしまった。
この後、どーなってしまうのか?
とても気になる本でした。
おもしろかった。
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かなりショックな事実を突きつけられた時、一人ではなかったのだから玲菜は幸せだ。
戸籍はなくても大事に育てられ、母親がいなくなってからも周東と秋吉に助けられ。でも本当の家族の存在を知った時、いつも隣にいた人が本当の家族ではなかったと知った時の孤独感はどんなものだったのだろう。
この後の玲菜の人生が気になる。
【キャスティング】
玲菜 ➡ 橋本愛
周東 ➡ 松田龍平
秋吉 ➡ 柄本明
母親 ➡ 木村佳乃
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+++
14歳の玲菜(れな)には戸籍がない。母親は〈あの人〉から逃げるために出生届を出さなかった。母と二人、町から町へひっそりと移り住み、ここ川越にも二年。一人で勉強している玲菜のために教科書を探してくれるリサイクルショップの主人、秋吉とその孫の牧生とも顔見知りになったある日、突然「あの人に見つかった」という電話を最後に、母は消息を絶つ。学校とも、社会ともつながりのない少女を一人残して…。
+++
戸籍がなく、学校にも通えず、追手を逃れるために数年で引っ越すことを繰り返して14歳まで育った玲菜が主人公である。リサイクルショップで買った一年遅れの高校の教科書で自習し、いつか戸籍を手に入れて本物の高校生になることを夢見ながら、フェイクの制服を身に着けてJKカフェでアルバイトをしている。そんなある日、母からの切羽詰まった電話で、「あの人」に見つかったから帰ってくるなと言われ、行き場をなくした玲菜は、教科書や必要なものを買っているリサイクルショップに世話になることになる。この店の店主の秋吉も、たまたま手伝っていた義理の息子の周東も、ひと癖もふた癖もありそうな人たちなのだが、何かと助けになってくれ、玲菜の事情を探り当てることになる。前半は、母娘と追手のスリリングな物語かと思いきや、話は思わぬ方向に展開し、どうなるのかと思っていたのだが、母から連絡があったあたりから、なんとなく雰囲気がだれてきたような感じもある。面白くないわけではないのだが、いろんな要素を突き詰めきれていないような印象なのは、ちょっぴり残念である。考えさせられる点は多々あった一冊である。
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「ぼくと、ぼくらの夏」「風少女」「夏の口紅」「枯葉色グッドバイ」「月への梯子」など、樋口有介さんの作品にはノスタルジー、切なさと優しさ、そしてあたたかな余韻が残ります。「あなたの隣にいる孤独」(2017.6)も期待通りの作品でした!
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*“あの人”から逃れるために、母親と二人で住む場所を転々としてきた十四歳の玲菜には戸籍がない。その母親が突然、姿を消した。学校とも、社会ともつながりのない少女を一人残して…心震える物語*
うーん。内容の割に悲壮感がないのは救いですが、樋口氏特有の飄々としたおとぼけっぷりが今作は冴えず、物足りない読後感でした。「生きていくだけなら、たぶんね、なんとかなるね」も特に響かず、帯広告にするほどでもなかったのでは。お話自体はキレイに収束しているので、まあ…。
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なんだこれは、
おとぎ話か?
出だしは無戸籍児という
今どきのテーマだなと期待したのだけど……
中盤は「8日目の蝉」みたいなのかと思いきや
そうでもなく
展開の軽さについていけなかった。
とても結構なお歳のオジサマが
描かれた作品とは思えない。
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戸籍がない子。「あの人」から逃げ回る。ってあるけれど、そんなにさみしさや孤独、悲壮感は感じさせることなく。個性的な登場人物もいてその後どうなるか楽しめたけれど、まあ、起伏ないところが良いんでしょうね。ユーモアありの独特の世界だったな。
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これは、あれパターンだな、と早々に気づいてしまう自分が憎い。
最後まで秋吉さんが謎で、やっぱりすんなりいろいろ行くもんじゃないんだなというのが、小説の中ぐらいいいじゃないと思うけれど、そうもいかない。
2018/1/23読了