紙の本
古事記の始まりと完成に至るミステリー
2019/06/15 18:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
新聞の書評欄で紹介されていたので実際に読んでみた。この作家の作品は初めて読むが、古事記に関するストーリーである。古代の奈良時代以前の時代設定である。そこから時間が経過し、壬申の乱を経るまでである。スタートは乙巳の変、すなわち大化の改新で蘇我氏が事実上滅びた時点である。
タイトルは蘇我の娘の古事記とあるが、蘇我氏が古事記を書いたという意味ではない。主人公は渡来人の船氏である。船氏はいわば記録係で、それまでの倭国の歴史を綴ってきた。とはいえ、何の記録もないので語り継がれた話をまとめるという仕事である。時は皇極女帝が践祚した斉明女帝の時代である。
この斉明帝の時代は内外ともに動乱の時代であった。それとともに継体大王以前の神代の時代からようやく律令の社会になってきた。呼び名も大王から天皇に変わってきた。とはいえ、これ以前からの大王の系統は続いてきたわけで、それを記録係の船氏が着実に記録してきた。
ところが、船氏がひそかに記述してきた王位の記録軽視した天智、大友天皇から天武天皇へと変わり、朝鮮半島での権益争いの失敗も収まってきた。記録軽視の時代から船氏が書き残した記録をもとに、古事記が誕生したというのがおおまかなストーリーである。その経緯は本書の巻末に記されている。
古事記の著者としては稗田阿礼と太安万侶があげられているが、その経緯は曖昧である。しかし、ここで書かれている船氏の記録がなければ、古事記はなかったという主張である。古代の物語は現代版の王位継承に焦点を当てている黒岩重吾のストーリーが広まっているが、記録を軽視するという意識はなくても、それを几帳面に記録する余裕などはなかったであろう。そういう点で最古の史書である古事記に焦点を当てた本書は、なにやら古代のミステリーを紐解く面白さを表現しているようだ。
紙の本
新しい語り口の古事記
2017/06/21 15:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙巳の変で蘇我宗家が滅びた時に蘇我氏が所有していた『天皇記』も焼失したと伝えられていたが、形を変えて、残っていたとするフィクション。蘇我家に仕えていた船恵尺がなんてかしてまとめてきた歴史書を残そうとし、またその子どもたちの艱難辛苦の人生。古事記の内容とシンクロして進む物語。
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古事記を口伝したとされる稗田阿礼の原型となる少女の物語。蘇我滅亡から持統天皇の時代までに、百済から渡った船の一族がどのように生きてきたかを感じることができる。
渡来人の立ち位置の難しさや、その時代の政変の意味とか、
神話にみる人間の本質とか、色々な側面から物語を見られて興味深かった。
物語そのものは一人の少女の成長を追っていく感じで、そこに対する感動までは正直感じられなかったのだけど、久々に読む歴史物の良さになんだかほっこりした。
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本当に近年、古代史が熱い!
これも思わぬ掘り出しものだった。特に奈良県出身の自分には舞台の飛鳥の里などが手に取るように分かり、自分の知る故郷の風景の中に1000年以上も前の人たちが生き生きと蘇る様が目に浮かぶようだ。
作者の、まだ3冊目?の作品らしい。ソフトなタッチの筆致はいかにも女性らしい。『恋歌』『阿蘭陀西鶴』をものした朝井まかてか、『小さなお家』の中島京子を思い出す。
「古事記」の謎は昔から良く聞かされていた。 国史といわれる「日本書紀」が時の天皇の勅で編まれたと伝えられるに対し、作者不詳だったり、後世の創作とされたりと諸説フンプンだった。
中学か高校の頃に「古事記」の編者と言われる太安万侶の墓が茶畑の中から見つかったと話題にもなったものだ。あの頃は、なんでそんなに大騒ぎしてるのか、まったく理解できてなかった(後で記憶をたどると、太安万侶の実在が証明されたとかの話だった)。
そんな多くの謎の残る「古事記」の成立譚を、本書は皇極四年(六四五)の乙巳の変(我々は大化の改新として覚えた、中大兄皇子、中臣鎌足のクーデーター)から、壬申の乱の後までの時代を通し描く。
実在したという百済からの渡来人船恵尺とその一族、そして息子ヤマドリ、娘のコダマの生涯が、時の政変、時代の要請に翻弄されながらも朝廷の記録を司る「史」(ふひと)という立場で謎の裏国史とも言える「古事記」に深く関わっていくという筋書きだ。
「古事記」の作者とされる稗田阿礼、太安万侶の存在すらうっちゃって自由奔放に走る筆が、実に活き活きとあの時代を描き出す。
まさに恵尺が最初に国史に取りかかった折に語るこの言葉のように。
「自分が求めていたのは、遠い昔からこの国に連綿としていきつづけてきた人間たちの、なまなましい喜怒哀楽の物語だ。絵空事ではない、生身の人間としての物語。」
遠いあの時代の様子が、生々しく蘇る。
また、章ごとに語り部が子ども時代のヤマドリ、コダマに語って聞かせる神代の物語が挿入される構成も楽しい。あぁ、まさにこうして語り継がれて、やがて「古事記」に結実していったというのが分かる仕掛けになっている。
最終的に、稗田阿礼でもない太安万侶でもない者が「古事記(ふることぶみ)」を編むことになるのだが、その者が語る言葉が実に素敵だ;
「私は、歴史というのは、滅びた人たちの歴史のことだと思うのよ」(中略)「そこからこぼれ落ちた人たちの歴史を、私はすくい取っていきたいの。そうでなければ、彼らの魂が消えてしまうもの」
古代史という謎多き時代に見事に編み出された歴史フィクションだ。
著者の前作『逢坂の六人』も是非読んでみよう。
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書き下ろし
百済系渡来人「舟」氏が直面した大化の改新から壬申の乱までの激動の物語で、豪族連合のヤマト政権から天皇中心の中央集権国家に変化していく過程で否定され滅ぼされた蘇我氏の赤ん坊を、舟氏の長が極秘に救い自分の娘として育てるのだが、その盲目の娘コダマの波乱の半生記でもあり、古事記のなりたちの物語でもある。
税吏の舟氏は、文書吏としても「大王記国記臣連伴造国造百八十部并公民等本記」(すめらみことのき・くにのき・おみむらじ・とものみやつこ・くにのみやつこ・ももあまりやそべならびにおおみたかららのもとつふみ:本文中では音読みになっているが、なつかしい!)を編纂した(と描かれる)が、盲目の娘はこれをそらんじ、聞いた神々の説話を結びつけて生き生きとした物語として語るようになる。
史学概論の最初の講義で「歴史」を意味するドイツ語には”Geschichte”(記録されたできごと)と”Historie”(物語られた歴史)があると教わったが、さしずめ後者としての古事記の成立を、物語を担った人々の人生に想いを寄せて描いてみせた著者の視点に、なるほどとうなずかされる。
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雨だから1日読書。家にこもって読んだからこそ、余計に際立つ壮大さだった。物語は語り手のものであり、聞き手のものであり、両者に受け入れられたものが今に残ったのだと思う。伝えたい気持ちが、何かを残す。1000年以上も前の物語が今に残ることの素晴らしさを思う。
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乙巳の変から壬申の乱と政情穏やかならざる時代を、百済人の家族の視点から描いています。仕えていた蘇我入鹿から生まれたばかりの女児を託されたことで、時代の激動に飲み込まれます。コダマが愛らしいキャラなので感情移入してしまい、物語の展開に一喜一憂します。虚実を自在に織りまぜていて、だれずに一気読みできます。古代史入門としても高校生くらいから広く手に取られるのもいいですね。
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教科書でしか知らなかった登場人物が
いきいきとその時代を生きる。
ヤマドリとコダマの切ない恋物語。
1300年以上前の時代に
壮大なロマンを思う。
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歴史物は好きでよく読むが、乙巳の変(大化の改新)から壬申の乱のあたりの話は読んだことがなかったので新鮮だった。古事記のなりたちを絡めた斬新な話ではあったが、登場人物を含めなんとなくほんのりと柔らかく、面白かった。
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この時代、何と言っても額田王。子供の頃に読んだ、大和和紀「天の果て地の限り」と里中満智子「天上の虹」で刷り込まれちゃってますw。それらに比べると、登場人物がいずれも印象薄い。それなりの物語なのになあ〜。地味な話だった。
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蘇我蝦夷の命を受け、国史編纂に携わることになった百済からの渡来人船恵尺は、乙巳の変で中臣鎌足・中大兄皇子に討たれた入鹿の娘を我が子と偽り育てることになる。その娘コダマは後に失明するが、兄のヤマドリは美しい盲目の妹のそばを片時も離れず、妹の世話をしながら成長していく。
乙巳の変・壬申の乱という古代の一大事件を背景にした歴史小説。読み応えのある秀作。
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乙巳の変で暗殺された蘇我入鹿の娘を助け、我が子として育てた百済出身の渡来人一族の長・船恵尺。父の代から蘇我氏の命によりこの国初の国史編纂にたずさり、それをきっかけに入鹿と親しくなり、赤子だったその子を助けることになる。コダマと名付け我が子として育てるも、なんの因果か、コダマは目が見えない。だが、次男・ヤマドリが片時も離れず、コダマを守っている。月日がたち、コダマの出生の秘密を知る中臣鎌足により命の危機があったり、コダマ・ヤマドリが夫婦になり、幸せな時間が過ぎていく中、またも時代が不穏なものに…壬申の乱である。またも争いのために人生を狂わされるコダマ。いろんな語り部から聞く神話なども合わせて載っていてストーリーもどちらも読みごたえあり。
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乙巳の変から壬申の乱までを描いた奈良時代のお話。古事記がどうやって成立したのか、蘇我氏や大王のことを、渡来の一族の兄妹の視点から描かれている。昔語りとして古事記の内容にも多く触れている。自分もその時代に生きているかのように感じることができる。
2018/1/27
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蘇我入鹿の娘を主人公として、大化の改新から壬申の乱までを描き、その主人公が古事記を記したとした歴史小説。歴史の事実を詳細に調べつつ、面白い展開になっている。楽しく読めた。
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「こんなに面白い物語はそうそうあるものではない」という言葉に釣られて読んだが、最後までノルことができなかった。