紙の本
壮絶なドラマ
2021/09/15 09:25
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投稿者:すずらん - この投稿者のレビュー一覧を見る
アルツハイマー病のメカニズムの発見から最新の治療薬アデュカヌマブの開発まで、30年以上の科学の歴史が綴られた本です。
医学や薬学の知識がないと難しかったり分かりにくいところもありますが、この本の主軸はそこではありません。医師、科学者、患者さんとその家族。それぞれの立場でこの病気に苦しむ人を救おうとする熱いドラマがあります。読み進めていくうちに世界中で行われていた活動がまるで伏線を回収するかのように1つになっていくのは、まるで良くできた小説を読んでいるかのように錯覚させます。
医療従事者やアルツハイマー病を知りたい人だけでなく、医療系学部の学生とそれを志す中高生、科学にあまり興味がない人にまでもオススメしたい一冊です。
紙の本
なんだか心が温かくなる
2021/09/11 21:18
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投稿者:FA - この投稿者のレビュー一覧を見る
『アルツハイマー病は、1960年代までは精神医学を研究しているものの中でも、ほとんど顧みられることのない分野だった』
こんな時代に、原因物質を探していた研究者がいた。出だしに青森県の、アルツハイマー病の家計の話がなかなかに、刺激的だ。こういった人たちにとっては、この病の克服はまさに”救済”だ。
日本企業エーザイの奮闘するところは、本当に引き込まれた。
本当に多くの研究者が日夜取り組んでいるのがわかった。克服にはまだまだかかりそうだけど、読んでみて、なんだか心が温かくなるとともに、勇気づけてくれた。
紙の本
アルツハイマー病新薬に期待
2021/06/17 12:16
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
アルツハイマー病の病態と研究の歴史がよく分かる。そして、期待?の新薬の開発経緯が、簡明に記され、適応となる病態がなぜ初期アルツハイマー病であるかも理解できる。新薬としての抗体治療薬は、人が元来持っている自然抗体であり、その自然抗体が十分に産生できない病態が認知症の発症につながるのかもしれない。良い本でした。
紙の本
アルツハイマー病の薬開発を巡るノンフィクションの大作!
2023/12/06 07:36
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
自然科学系の翻訳家の青木薫さんに「優れたサイエンスフィクションは海外の本を訳すしかないと諦めていたが、この本は日本のサイエンスフィクションの転換点」とまで言わしめた、アルツハイマー病の克服に挑んだ科学者達のドラマを綴った、日本人の著者によるノンフィクションです。
アルツハイマー病の克服を目指して新薬の研究が始まる1980年代から始まり、昨年FDAで認証されたアデュカヌバムの申請というこの分野での最先端までをカバーしています。
生化学や医学の知識がそれほどない私が「読めるのかなあ」、と不安もありましたが、読み始めるとそんな心配は一切不要です。
アルツハイマー病の克服に関してその都度最低限の医学的な説明はありますが、それは適度な詳しさにとどめられており、読者のその分野の知識を必要とはしていません。それよりも長年の研究の積み重ねには、多くの研究者がバトンを受け渡すようにして継続され、アデュカヌバムの成果へとつながる様子が生き生きと描かれています。
多くの研究者が描かれていますが、最も読んでいて切ないのは、自らアルツハイマー病の克服の研究に携わりながらアルツハイマー病を若くして発症した研究者のエピソードです。自分自身が発症するという現実の持つ意味を自身が専門家であるが故に、より深く認識できるという現実の残酷さは読んでいても辛くなります。この研究者はやがて研究の最前線からは退くことを余儀なくされますが、自ら治験に参加するという道を選びます。
研究途上でガンに罹患し、成果を見届けることなく亡くなった研究者や、データ捏造の誘惑に駆られて研究界から去った研究者、研究開発に携わる製薬会社での人事により左遷された研究者など、研究の開始から約40年間の間に、いかに多くの人の人生が関わってきたのかが伝わる1冊です。
また、新薬の研究開発というのがどのようなプロセスを踏むのかという点についてもドラマを見ているかのような臨場感で追体験できる点も本書の読みどころです。10年以上の年月、数千億円を超える費用、新薬の効果を信じて協力した数多くの治験参加者や医療関係者の協力のもとに実施された新薬の治験において「効果なし」と判定された時、「この薬に希望を持っている多くの患者の落胆を思うと、世界が崩れるような感覚がした」という治験の責任者の心情の描写は見事でした。
文章のリズム感や日本語に無理が無くて読んでいて非常に心地よいのは、本書が母国語を日本語とする日本人の著者による本であることによる部分が大きいと思いますし、それがすっとこの本の世界に入って行ける要因だと思います。各章の最後は、日経新聞の「私の履歴書」を想起させるような、「次はどうなるんだろう?」という好奇心を掻き立てる結び方になっています。翻訳された本ではない、日本人による本だからこその文章だという気がしました。
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アデュカヌバムの開発に携わる研究者や患者、その家族の背景がテンポよく纏められている良書。科学的な内容も充実している。
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【はじめに】
まず、この本はとても面白い。世の中にサイエンス・ノンフィクションというジャンルがあるが、日本人がここまで面白いサイエンス・ノンフィクションを書くことができるのかと思うと感動した。大河内直彦の『チェンジング・ブルー』や千葉聡の『歌うカタツムリ』もサイエンス・ノンフィクションの名作だが、いずれもその道の専門家が自分の研究領域について書いたものである。本書『アルツハイマー征服』は、いくつかの領域でノンフィクションを書いた著者が、専門外のアルツハイマー治療にテーマを定めて長年追いかけた上で物にしたということで日本のサイエンス・ノンフィクションの領域において特別なものだと評価できる。著者がかけた時間に見合うだけの素晴らしい出来で、興味がないという人にも無理矢理にでも薦めたい本である。
【概要】
物語はまず青森の家族性アルツハイマーの患者のエピソードから始まる。家族性アルツハイマーは本書で扱うアルツハイマー征服の旅の中でも非常に重要な役割を果たす。物語の入りとしても素晴らしいし、また最後の患者会(DIAN)へのつながりなど後半でのエピソードの回収もあり、この辺りの作品としての作りこみも本格的な欧米の一流のサイエンス・ノンフィクションらしく素晴らしい。
認知症は、人間の寿命が伸びて人生100年時代と言われるようになった現代において、ますます大きな社会問題となり、また数多くの個人や家族に悲劇的な結果を与えるようになった。その原因のひとつでもあるアルツハイマー病は、一説では、世界で5,000万人を超える患者がいると言われ、日本国内でも約400万人がこの病に苦しんでいるという。脳の神経細胞の変性によって、何よりも自分が自分でなくなるという、空恐ろしさがこの病を特徴付ける。著者は2002年からこの病について次のノンフィクションのテーマとして興味を持ち、物にしようと考え続けてきたという。そのときから今まで、この本で書かれているような多くの出来事があった。著者のように関係者の中に深く入り重要な要素を取り出していくということがなければ業界の外には知られることがなかったようなドラマがそこにはあったのだ。
アルツハイマー病治療の短い歴史の中では、日本の研究者も重要な役割を果たしている。具体的には発症メカニズムのアミロイド・カスケード仮説や、アルツハイマー病遺伝子の発見にも日本人が深くかかわっている。また本書の前半、日本の製薬会社エーザイでのアルツハイマー治療薬アリセプト開発の物語が一つの軸にもなる。開発を主導した杉本八郎の執念や現社長の内藤晴夫の決断が、まるでエーザイ内部にいたかのように感じ取られる。ひとつの薬の裏に、多くの人間のドラマがあることを静かな情熱とともに思い出させる。またひとつの創薬には、治験に莫大な費用がかかり、またゼロか百かの博打でもあり、その莫大な費用負担とリスクは権利を売買してヘッジするというビジネスの世界につながるということも、とてもよくわかる。
またデール・シェンクらを中心とした創薬ベンチャのアセナ社の物語ももうひとつの軸となる。有望な科学者が情熱をもって取り組み、成功を収める。ただし、その成功のせいでマネ���ゲームに巻き込まれ、チームはバラバラになっていく。しかし、デール・シェンクが端緒を付けた抗体薬で、対症療法薬ではなく根本治療薬とも期待されるアデュカヌマブが、アリセプトを開発したエーザイと米バイオベンチャのバイオジェンの手によって、途中ももろもろダメになる危機がありながらも、フェーズ3治験を済ませて米FDAへ申請をした、というのが本書が刊行された状況だ。
【所感】
アデュカヌマブの最後を見ることなくがんに倒れた天才デール・シェンク、社内抗争に一度は敗れた杉本八郎、自身が研究するアルツハイマーの病魔に捉えられた科学者ラエ・リン・バーク、ここまでの人間ドラマを書くことができるのは丹念な取材と人間関係の構築と取材対象へのレスペクトがあったからこそであろう。そこここに著者の登場人物らに関する静かで熱いパッションがにじみ出ている。
本の内容で、色々と紹介したいと思ったことはあったが、誰も著者よりもうまくこの物語を語ることはできないだろう。とにかく、サイエンス・ノンフィクションが少しでも好きだという人にはぜひ読んでほしい。
私が大好きで、そして信頼するサイエンス・ノンフィクションの翻訳者の青木薫さんが、この本について次のように書いている。
「私がサイエンス・ノンフィクションの翻訳を志したのは35年ほど前のことですが、当時、欧米の力量あるライターと日本の書き手のあいだには、埋め難いギャップがあると感じていました。なんといっても、取材力が違う。とりわけ現代の科学現場を描こうとするとき、欧米の一流のライターは、関係者への丹念な取材にもとづいて、登場人物が、悩み、苦しみ、挑戦し、泣き、笑う...そういう人間ドラマをみごとに描き出し、人間の営みとしての科学を生き生きと伝えることができる。ああ、これは、地理的な距離もあるし、言葉の壁もあるけれど、なにより文化的な蓄積がちがうな、そう簡単に乗り越えらるギャップではないな、と思ったのを覚えています。
しかし、このたび本書を読んで、著者の下山さんは、そのギャップに橋を架けたのだ、と思いました。本書には、日米欧の多彩な登場人物が、丹念な取材にもとづいて生き生きと描き出されています。下山さんの念頭には、欧米の一流ライターが到達している高みがあったのではないでしょうか。ギャップに架かったこの橋を、今後、日本の新世代ライターが続々と渡っていくのが見えるようです。そうであってほしいと思います。アルツハイマー病という本書のテーマに興味がある人だけでなく、日本のサイエンス・ノンフィクションの転換点を目撃したい人にも、強くお薦めしたい一冊です。」
まったくもっておっしゃる通りと膝を打つ。本の表紙には英語で"Conquering Alzheimer Disease"とある。著者にその気があれば、英訳されて海外でも相応に評価されてもよいと思わせる力作。まずは日本でぜひとも売れてほしい。
本書刊行後の2021年2月、アデュカヌマブのFDAの審査期限が3月から6月に3か月延伸された。これは、もう少し時間をかけて確認したい点が見つかったということで、ポジティブな兆候だという。もちろん、この薬が万能であるとは思われず、どうであってもアルツハイマー征服は現在進行形として続いていく��まずは、多くの人がアルツハイマー病の悲劇を避けることができるようになり、そしてヒューマンヘルスケアのエーザイには薬の承認とともにさらに頑張ってほしいと応援したい気持ちになった。そして僕らもより明晰な頭で人生100年時代で晩年を送るのだ。
超お奨めです。
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2021年6月7日 FDAが条件付きで承認した。今後、臨床試験の実施が要求され、その結果によっては承認の取り消しもありうるとのことだが、それでも大きな一歩だ。これをきっかけとしてアルツハイマーを含む認知症の治療に向けた医学的進歩が加速していくことを期待する。
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『チェンジング・ブルー』(大河内直彦)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4006032803
『歌うカタツムリ』(千葉聡)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4000296620
青木薫~『アルツハイマー征服』圧倒的な取材力と筆力で読ませるサイエンス・ノンフィクション!(HONZ)
https://honz.jp/articles/-/45882
下山進~「結論は3カ月延長に」アルツハイマー病の根本治療薬は承認されるか (President Online)
https://president.jp/articles/-/42909?page=2
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アルツハイマー病についての情報を与えてくれる。
アルツハイマー克服の歴史が分かる。
アルツハイマー病に挑んだ人、今挑んでいる人や組織・会社のことが分かる。
アルツハイマーで苦しむ人たちのことが理解できる。
今日現在は、人類がアルツハイマーを克服できる入り口に差し掛かった段階であるかも知れない。
FDAでもうすぐ一つの契機となるかも知れない治療薬の承認が出る可能性がある。
非常に読みやすく書かれた深い内容です。
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とっても面白かった。小間切れに読まないで一気に読んだ方が理解しやすいかと途中から飛ばし気味で。
もう1回読み直したい。字が小さくて、そこが難点。
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エーザイ 杉本八郎 1961年入社 在社中にふたつも新薬をあてた 1990 人事部へ 1997 筑波の探索研究所に副社長で戻る
認知症の尺度 HDS,MMSE p100 ADAS 79点満点 変化捉えやすい
E2020 ファイザーの助けをえて国際化
p207 真理もはじめは少数派である
p250 エーザイはアリセプト以降新薬を上市できず、アリセプト、パリエットという2大商品の特許切れの時期をむかえることになった
p270 2014 DIAN研究 dominantly inherited alzheimer network trial 家族性アルツハイマー病の家系の人々について発症前からPETスキャンなどで、脳内の変化をしる目的ではじめられた
2000年代なかばに行われていたバピネツマブなどの治療は介入の時期がおそすぎたのではないか?
p283 内藤晴夫 総合製薬の看板をおろし、認知症とがんの2分野に絞っていくことにきめた
p298 森啓 大阪市立大 退職 田宮病院
DIAN-J 研究代表 池内健
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患者さんや家族の苦しみ、アセナ社の研究者たちの苦闘の歴史、アデュカヌマブの逆転、その後どうなるのだろうか?
連綿と続く、思いは報われるのだろうか?
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アルツハイマーが(その全てではないですが)遺伝子により発症するとは認識していませんでした。…というか、最近はあらゆることが遺伝子によることが分かってきているのですね…こちらで子どもを眼科(近視)に連れて行った時も、腰を痛めてレントゲンを撮ったときも「遺伝です」と言われました。
…それはさておき、この本、良質の科学ノンフィクションです。内容はかなりのドラマ。(但しテーマは重い) 認知症治療薬のリーディングカンパニーとしてエーザイさんも深く関わり、この本にも多々登場します。あとがきにあるように「欧米の科学ノンフィクション」を彷彿とされる日本人著者による佳作。
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アルツハイマーの創薬の歴史、それに関わる研究者、医師の情熱、人生模様に感銘を受けた。
縦糸、横糸として織り成す様々な人々の努力、情熱、生きざまがあり、その中で新しい治療薬、治療方が生み出されるのだと胸が熱くなった。
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自分には若年性アルツハイマー症と診断され、今なおその病と生き続ける父がいる。そんな父を始めとする患者さんやその家族のために、新薬の開発に心血を注いでくれてきた研究者の生き様をこの本で知り、何度も心が震えた。ありがとう。これからも頑張ってください。
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不治とされる病。立ち向かう研究者。閃き、汗を流す。立ちはだかるいくつもの関門。何年もの積み重ね。やっと審査の土俵に乗る。厳しい。後少し、もう一歩で挫折する試薬がある。期待されながら、果たせず朽ちる研究者。成果の果実を得るのは歴史の中のわずかなタイミング。闘いが続く。痺れを切らす患者。禁断の出生前診断に行きつく。生まれてこない方がよい命。能力の限界とはなんと残酷なことだろう。しかし、科学そして人類はそれをバネにして発展してきた。この本の物語は後一歩の未知の展開を残し終わる。それは現実の今に続いている。
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一人一人が懸命に生きること。
それは、その人にとっては、報われないかもしれないが、全体として考えれば、変化や結果をもたらす糧になっている。
だから、大きな世界から見れば、決して無駄でないことがわかる。
そんなことを感じました。