からだの「衰え」は口から　歯と健康の科学　健康寿命を左右する口のケアの最前線

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概要:

本書は、全身の健康と密接に関連する口腔の健康、特に歯の重要性と適切なケアについて、科学的な根拠に基づきながら一般読者にも分かりやすく解説した書籍です。「健康は口から」という考えを軸に、日本人の歯の現状、咀嚼の科学、歯周病とむし歯のリスク、中高年における歯のケアの重要性、歯を失った後の連鎖、高齢者の歯科治療、最新の歯科技術、そして日々の正しい歯磨き方法まで、多岐にわたるテーマを扱っています。本書は、読者自身の口腔への関心を高め、現在と将来の口腔状態を理解し、健康寿命の延伸に繋げるための知識と実践的な方法を提供することを目的としています。

主要テーマと重要なアイデア・事実:

1. 「健康」は口から：口腔と全身の健康の密接な関連性
日本人の歯の現状: 永久歯が失われる原因のトップは歯周病（37.1%）、次いでむし歯（29.2%）、破折（17.8%）であり、歯を失うことは食物摂取や栄養バランスの偏りを招き、将来の要介護状態に繋がる可能性があると指摘しています。
「当然ながら、歯を失うと食べ物を十分に咀嚼しなくなることから、食物摂取や栄養バランスのアンバランスを招き、将来の要介護状態にもつながると考えられています。」
歯周病の深刻なリスク: 歯周病は自覚しにくい進行性の炎症であり、口腔内の細菌が全身に影響を及ぼす可能性が指摘されています。心疾患、認知症、糖尿病などとの関連が研究で報告されており、安易に考えてはいけないと警鐘を鳴らしています。
「歯周病は慢性炎症で、常に体内に細菌をばら撒いている点も、非常に恐ろしい病気だといえます。」
「たとえば、歯周病原菌から動脈硬化を誘発する物質が発せられることから、血流が阻害されて狭心症・心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなります。」
口腔リテラシーの重要性: 高齢になるにつれて「もう年寄りだから、歯も噛んでさえいればいいわ」といった口腔の健康への関心の低下が、不十分な歯磨きに繋がり、むし歯を増やし、要介護へのアクセルを踏むことになる危険性を示唆しています。
「「もう年寄りだから、歯も肝かんできええわ」といって軽く見てしまうような口腔リテラシー（口腔の健康への関心度）の低下が、ちょつとずつ歯磨きをいい加減にしていき、その結果、むし歯が増えるとも考えられます。」
2. 「噛む」を科学する：咀嚼の重要性と脳への影響
咀嚼は脳と口の「共同作業」: 咀嚼は単なる食物を噛み砕く行為ではなく、口腔内の感覚（感性能力）、舌や頬を動かす能力、歯を噛み合わせる能力（運動能力）が複合的に関わる精巧なシステムであり、脳の中枢神経系とも密接に連携しています。
「こう考えると、咀嚼には、口腔内でピーナッツの粒がどこにあるかを感知する能力（感覚能力）と、舌や頬を駆使して上下の奥歯の間に運ぶ能力、歯を噛み合わせる能力（運動能力）が必要になります。」
歯の種類による役割分担: 前歯や犬歯は食物を噛み切ったり、噛みついたりする際に、奥歯は強い力を発揮して食物を噛み砕く役割を担っています。それぞれの歯の役割を意識した咀嚼が重要です。
「奥歯で噛むときは「脳内の力強く噛む機能」がより強くはたらき、前歯で噛むときは指で繊細につまむときと類似した脳活動を示すことが明らかになりました。」
咀嚼とストレス: 咀嚼はストレス発散の役割も担っている可能性が示唆されています。噛みしめや歯ぎしり（ブラキシズム）は、心理的なストレスと関連している場合があります。
3. 歯周病とむし歯：沈黙の病とそのリスク
歯周病の病態: 歯周病は、歯と歯を支える歯槽骨の間にある歯根膜の炎症であり、進行すると歯槽骨が溶けて歯が抜け落ちてしまう恐ろしい病気です。初期には自覚症状がないことが多く、気づかないうちに進行してしまうことがあります。
「歯周病は、「歯」と「歯を支えている歯槽骨」の間にある歯根膜の病気のことをいいます（「歯ぐき」は、歯肉と歯槽骨、歯根膜をまとめた表現です）。そして、その炎症が周囲にも広がるのです。」
歯周病原菌の全身への影響: 歯周病原菌は、血管を通じて全身に広がり、様々な疾患のリスクを高める可能性があります。動脈硬化、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、早産などとの関連が指摘されています。
「歯周病原菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスは、アルツハイマー型認知症だった患者の脳内からこの細菌が発見され、正常な人の脳組織からは検出できなかったことなどが報告されています。」
むし歯（歯冠部う蝕と根面う蝕）: 歯冠部う蝕は歯の見える部分のエナメル質から象牙質へと進行するむし歯で若年層に多く、根面う蝕は歯肉退縮により露出した歯根面に発生しやすく高齢者に注意が必要です。根面う蝕は象牙質がエナメル質より酸に弱いため進行が早い傾向があります。
「歯冠部う蝕は、奥歯の噛み合わせ面にある溝（小窩裂溝）に発生することが多く、エナメル質から象牙質に進行していくう蝕で、若い世代に多く見られます。」
「高齢者は「根面う蝕」に要注意／何事も「予防」が一番大切―う蝕の予防法」
4. 中高年は歯のケアが健康の鍵：オーラルフレイルと口腔機能低下症
オーラルフレイルの概念: 加齢に伴う口腔機能のわずかな衰えのことで、滑り台のように徐々に進行し、適切な対応をしないと食べる機能が低下し、栄養バランスが崩れ、ひいては全身のフレイル、要介護状態へと繋がる可能性があります。早期に気づき、適切な介入を行うことで進行を遅らせたり、健康な状態に戻したりすることが可能です。
「オーラルフレイルとは、口の中のフレイル、つまり口腔の機能の弱まりを表す概念で、加齢とともに少しずつ噛む力や飲み込む力などが弱くなり、食事の栄養バランスが崩れることも一因と考えられています。」
口腔機能低下症: 日本老年歯科医学会が提唱する、オーラルフレイルよりも具体的な口腔機能の低下の状態を示す概念で、7つの項目（口腔衛生状態不良、口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能低下、嚥下機能低下）で評価されます。これらの項目をチェックすることで、早期に口腔機能の低下に気づき、歯科医療の介入に繋げることが期待されています。
「2024年に「定義」されたのです。そのことは後ほど触れましょう。」
「口腔機能低下症が歯科の介入へ引き入れることができるという意味で、福音をも��らす可能性があります。」
歯の喪失と栄養摂取: 歯の数が少なくなるほど、カロテンやビタミンCといった栄養素の摂取量が減少し、炭水化物の摂取量が増加する傾向があることが研究で示されています。これは、食べやすい食品に偏ってしまうためと考えられます。
5. 「歯が抜けた」から始まる悪循環：補綴治療の重要性
歯の喪失がもたらす連鎖: 歯を失うと、咀嚼能力の低下だけでなく、発音や審美性にも影響が出ます。放置すると、隣の歯が倒れてきたり、噛み合わせが悪くなったりするなど、さらなる問題を引き起こす可能性があります。
義歯の役割と重要性: 義歯は、失われた歯の機能を回復させるための重要なツールです。適切な義歯を装着することで、咀嚼能力の改善、栄養摂取の改善、発音の改善、審美性の回復などが期待できます。
栄養指導の重要性: 義歯を装着したとしても、バランス良く何でも食べられるように、歯科医師による栄養指導も重要です。近年、歯科医院においても栄養指導の必要性が認識されつつあります。
6. 高齢者の歯科治療：誤嚥性肺炎予防とQOL向上
高齢者と誤嚥性肺炎: 高齢者は、嚥下機能の低下により、食べ物や唾液が気管に入り込みやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。口腔内の細菌が肺に侵入することも、誤嚥性肺炎の原因となります。
「高齢者の命を救う口腔ケア」
「要介護高齢者だけでなく、健常な高齢者にとっても、口腔ケアは肺炎予防に有効であることが報告されています。」
口腔ケアによる誤嚥性肺炎予防: 歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔ケア（歯磨き、歯間ブラシ、舌ブラシ、義歯清掃など）や、介護者による食後の丁寧な口腔ケアは、口腔内の細菌数を減らし、誤嚥性肺炎の発症リスクを大幅に低下させることが研究で示されています。
インプラント、ブリッジ、義歯: 歯を失った場合の治療法として、インプラント、ブリッジ、取り外し可能な義歯があります。それぞれの特徴を理解し、自身の状態や希望に合った治療法を選択することが重要です。
7. 最新歯科技術はどこまで進んでいるか：デジタル技術の活用
歯科医療におけるデジタル技術の進展: 近年、歯科医療においてもデジタル技術の活用が進んでおり、精密な診断や治療計画の立案、効率的な義歯製作などに役立っています。
3Dプリンターによる義歯製作: 3Dプリンターを活用することで、より短時間で、より精度の高い義歯を製作することが可能になっています。これにより、在宅の高齢者など、歯科医院への通院が困難な患者さんにも、質の高い義歯を提供できる可能性が広がっています。
健康データの活用: 医療と歯科医療のパーソナルヘルスデータを統合的に解析することで、将来的な歯の喪失リスクを予測し、最適な治療時期や方法を提案できるような仕組みが求められています。
実践編 今日から始める「正しい歯磨き」
歯ブラシの選び方: 歯ブラシの毛先の形状（平切り、先細毛など）、硬さ、ヘッドの大きさなどを考慮し、自分に合った歯ブラシを選ぶことが重要です。
歯磨きの方法: 歯ブラシを適切な力加減（150〜200g程度）で、歯面に対して適切な角度で小刻みに動かし、一本一本丁寧に磨くことが基本です。磨き残しを防ぐために、磨く順番を決め��おくことも有効です。
歯間ブラシとデンタルフロスの活用: 歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間や歯と歯ぐきの境目の汚れを除去するために、歯間ブラシやデンタルフロスを併用することが重要です。
フッ化物配合歯磨剤の使用: むし歯予防のために、フッ化物（フッ素）配合の歯磨剤を使用し、歯磨き後は過度にすすぎすぎないようにすることが推奨されています。特に高齢者の根面う蝕予防には、高濃度のフッ化物配合歯磨剤が有効です。
定期的な歯科医院でのチェック: 毎日丁寧に歯磨きをしていても、磨き残しがあったり、自分では気づかないうちにむし歯や歯周病が進行したりすることがあります。そのため、定期的に歯科医院を受診し、歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニングやチェックを受けることが重要です。
結論:

本書は、口腔の健康が全身の健康に深く関わっていることを改めて認識させてくれるとともに、生涯にわたって健康な歯を保つための知識と具体的な方法を提供してくれる貴重な一冊です。特に、高齢化が進む現代において、オーラルフレイルや口腔機能低下症といった概念を理解し、早期からの適切なケアを実践することの重要性を強調しています。読者一人ひとりが自身の口腔に関心を持ち、積極的にケアに取り組むことで、健康寿命の延伸に繋がる可能性を示唆しています。