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戦場の画家 (集英社文庫)
著者 アルトゥーロ・ペレス・レベルテ (著),木村 裕美 (訳)
地中海にのぞむ望楼で、戦争を撮り続けた元カメラマンが、写真では表現しきれなかった戦争風景の壁画を描いている。ある日、見知らぬ男が画家の元を訪れる。男は元クロアチア民兵で、...
戦場の画家 (集英社文庫)
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商品説明
地中海にのぞむ望楼で、戦争を撮り続けた元カメラマンが、写真では表現しきれなかった戦争風景の壁画を描いている。ある日、見知らぬ男が画家の元を訪れる。男は元クロアチア民兵で、10年前、旧ユーゴ紛争中に撮られた1枚の写真は、カメラマンには名声と栄誉をもたらし、被写体の民兵には拷問と悲劇の連鎖を引き起こした。その清算にきた男は画家を殺すと宣告。蘇る過去、そして驚愕の日々が…。【「BOOK」データベースの商品解説】
【Vallombrosa Gregor von Rezzori賞(2008年)】【Saint‐Emilion Pomerol Fronsac文学大賞(2008年)】【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
終わりの始まり、あるいは、始まりの終わり。
2009/08/22 17:39
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:求羅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この世に生まれ落ちた瞬間から、誰しも「死」を背負っている。人の一生はいわば、死へのカウントダウン。
命の猶予期間をどう過ごし、どのように意義づけるのか。そんな鋭い問いかけが、深々と胸に突き刺さる傑作である。
旧ユーゴ紛争中の兵士を写した一枚の写真。
カメラマンには戦争写真家としての地位と名声を、兵士には拷問と悲劇をもたらした。
それから10年後。地中海にのぞむ望楼で戦争風景の壁画を描いて暮らしている主人公フォルケスのもとへ、元クロアチア民兵が訪れる。マルコヴィチと名乗るその男は、自分の人生を大きく狂わせた主人公に復讐しにやって来たのだった。
物語は、フォルケスとマルコヴィチの6日間にわたる対話を軸に、戦場カメラマン時代の回想や壁画制作の様子を織り交ぜながら展開していく。淡々とした対話ながら、長い間死線を彷徨ってきたふたり、そして今なお命のやりとりをするふたりの間には、ピンと張り詰めた緊張感が漂う。
撮影者と被写体。殺す者と殺される者。どちらにも自分なりの言い分がある。立場の異なる両者はしかし、戦場をその身で体験した、最も共感し合える関係でもある。ふたりの対話はあたかも、「殺す理由」と「死ぬ理由」を確認する共同作業だ。
緻密な構成、縦横無尽に展開される絵画論や戦争論、ラストまで緊迫感をもって描かれるミステリー仕立ての本作は、ひとつの完成された芸術品のような美しさである。写真でも絵でもなく、小説でしか表現できないこの世の真実が、ここにある。
物語を通して、長年戦場ジャーナリストとして活躍してきた作者の筆は、容赦なくリアルに戦争の悲惨さを浮き彫りにする。が、作者の真意はその“特殊性”を強調することではない。むしろ、「特別なことはなにもない。あなたの人生とおなじですよ。ほかの人たちとおなじです。」(P.315)と、私たちの日常と戦場とを隔てる心理的な壁を取っ払うことにあるのだと思う。
フォルケスの論理には人生に対する諦念を(最後にマルコヴィチが主人公に放つセリフが痛烈だ)、マルコヴィチの理屈には責任転嫁を。ともにある種の“逃げ”を感じてモヤモヤしてしまった私だが、戦争の犠牲者の「生きていた証」を撮り続けたフォルケスの恋人・オルビドの姿勢には、救われる思いがした。
人は皆、死から逃れることはできない。けれど、その限られた一生をどう肉づけし、形づくっていくのか―それを決めることは、誰にでもできるのである。
紙の本
小説より映画にしたら素敵だろうなあ、って思います。もちろん、日本映画では絶対にダメ。やっぱりフランスかイタリア映画。想像しただけで海の碧さが目に浮かびます。でも、小説で読むと、少し地味・・・
2009/09/03 19:39
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者紹介から入る書評、っていうのは野暮なようですが、今回はあえてそれをします。だって、この名前聞いて、あ、あの、なんて言える人は殆どいないと思うんです。で、結局、いい作品なのに読まれない、なんていうのは凄く勿体無いことです。勿論、出版社にとっても作者にとっても、何より読者にとっても。
で、アルトゥーロ・ペレス・レベルテですが、
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1951年スペイン・カルタヘナ生まれ。テロリズム、密輸、国際紛争を専門に現場を取材する記者として活躍。86年に作家デビュー、『フランドルの呪画』『ナインスゲート呪のデュマ倶楽部』が世界的ベストセラーとなる。『サンタ・クルスの真珠』と『戦場の画家』で国内外の文学賞を数々受賞。作品はスペインの教材書にも採用され、「ナインスゲート」をはじめ映画化作品多数。今や絶大な人気と尊敬を集める現代スペイン最大の作家、ヨーロッパ文学界最重要の作家のひとり
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とあります。あ、『フランドルの呪画』の人! え、映画「ナインスゲート」の原作者! げ、現代スペイン最大の作家、ヨーロッパ文学界最重要の作家のひとり! なんて驚いてしまうわけです。ま、知っているというだけで、読んだことはないし、見てもいないことも事実ではあるんですが。でも、「現代スペイン最大の作家」はともかく「ヨーロッパ文学界最重要の作家のひとり」というのは凄い文句です。カバー後の案内には
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地中海にのぞむ望楼で、戦争
を撮り続けた元カメラマンが、
写真では表現しきれなかった
戦争風景の壁画を描いている。
ある日、見知らぬ男が画家の
元を訪れる。男は元クロアチ
ア民兵で、10年前、旧ユーゴ
紛争中に撮られた1枚の写真
は、カメラマンには名声と栄
誉をもたらし、被写体の民兵
には拷問と悲劇の連鎖を引き
起こした。その清算にきた男
は画家を殺すと宣告。蘇る過
去、そして驚愕の日々が…。
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とあります。で、目次から全体構成をみると
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地図 クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ/世界の紛争地
登場人物
戦場の画家
訳者あとがき
付録
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となっています。で、全体を読んだ印象を先に書けば、これはいかにもヨーロッパの作家による小説だなあ、ということでしょう。でも、訳者あとがきは、少し褒め過ぎ。ミステリとして結末は読めるし、主な登場人物マルコヴィチ、フォルケス、オルビドの三人を其々、戦争、論理、芸術、に喩えるのは間違い、というか安直でしょう。過ぎたるは及ばざるがごとし、です。
それを理解して頂くためにも主な登場人物について紹介をしておきます。今も生きていて直接物語に関係してくるのが三名、回想など語られるのが一名、計四名しか登場しないお話です。そういう意味では極めて理解し易い物語、とはいえるでしょう。
まず、殺人者に付け狙われる戦場の画家、アンドレ・フォルケスがいます。話の中では、戦場の画家、元カメラマンとありますが、具体的には、戦場での様々な光景を写してきた職業カメラマンで、いくつものい賞を受賞している初老の男です。恋人を戦場で亡くし、その後もカメラマンとして活動をしていましたが、やがて引退。
今は、地中海のプエルト・ウンブリア近くの望楼を買い取り、その内壁に直接、戦争の絵画を描き、それで内部を埋め尽くそうとしています。年齢ははっきりしませんが著者アルトゥーロ・ペレス・レベルテと同じ50代とみてよさそうです。ちなみに、アンドレ描く戦争の壁画は、その作業風景とともに公開されていなせん。
オルビド・フェラーラはフォルケスの愛人です。イタリア系女性で、父はイタリア人、母はスペイン人で、ともに良家の出です。父親はフィレンツェとローマに大きな画廊を持ち、オルビドもピカソ、キリコなど有名な画家とも面識があります。フォルケスと知り合ったとき、27歳でした。
裕福で美人、性格がはっきりしていて、男性に好かれるタイプのため奔放な生活を送ってきましたが、フォルケスと知り合ってからは彼とだけ付き合うようになります。常に彼と戦場に赴き、自らも写真を撮るという行動的な女性でしたが、戦場にいたときフォルケスの目前で流れ弾に当たり亡くなります。三年付き合ったとあるので享年30でしょう、小説では回想の女性として登場します。
アンドレの写した写真によって人生を狂わされてしまい、殺人者となって画家の前に現れるのがイヴォ・マルコヴィチ。元クロアチア民兵で、ヴコヴァルが陥落しそこを死守していた生き残りです。彼の疲労困憊した姿を写したフォルケスの写真は評判を呼び、当時27歳のマルコヴィチは有名になります。
ところが、そのせいで敵対するセルビア人に顔を知られ、虐殺の仕返しとして彼の妻子は凌辱の果てに殺害されます。その様子は、日本人が南京でおこなったというそれと殆ど変わることのない残虐で容赦のないものでした。マルコヴィチ自身も捕らえられ拷問され、二年半にわたって監禁されます。そして彼は自分を不幸のどん底に陥れた男に復讐をしようと、望楼に現れたのです。
ちなみに、マルコヴィチは生前のオルビドを偶々戦場で見かけ、そのことを覚えています。彼女が亡くなったのは、アンドレによってマルコヴィチの姿が撮影されて何日かしてのことでした。その場にいたわけではありませんが、マルコヴィチは彼女の死のことを知っています。アンドレが元クロアチア民兵の悲劇について全く知らなかったのとは対照的です。
カルメン・エルスケンは、望楼を臨む湾の遊覧船の女性ガイドで、いつもほぼ同じ時間にフォルケスの望楼に聞こえるような声で、「現在は、ある有名な画家が住み、円塔の内部を飾る大壁画を制作中です」と説明をしています。年齢は30歳前後で、肉感的な美女、ということにしておきます。声が美しい、とありますから、それゆえに今の職業に就いた、と考えたほうがいいかもしれません。
地中海の青空にくっきり浮かび上がる白い望楼と、そこに一人引きこもり戦争の画を描いて内壁を埋め尽くそうとする初老のカメラマン、復讐のために忍び寄る貧しいみなりの元民兵、海上の遊覧船から聞こえる若いガイドの声、そのまま絵になってしまいそうな景色ですが、その中でドラマが密かに進行していきます。
装画 岡本三紀夫、装丁 米谷耕二、地図作成 寺嶋弘樹(ナッティワークス)とあります。カバーは地中海の望楼写真のほうが相応しかったんじゃないでしょうか。それと、地図ですが舞台となっているプエルト・ウンブリアの位置がわかりません。私の見落としでしょうか?
紙の本
戦争で喪失してしまうもの。
2010/10/10 03:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦場取材でうっていた元報道カメラマンの主人公は現在隠棲し、
戦場の絵画を描き、"戦場の画家"と呼ばれています。
そんな彼のもと、元クロアチア民兵が訪れます。
元民兵は言います「自分はあなたを殺しにきた」と。
過去、絵画、写真、戦争をめぐる二人の静かで過剰な駆け引きがスタートします。
最初に書きますが、これ、ミステリじゃないですね。
又、エンタメ小説でもないかも。
一応、ミステリ仕立てになっているし、エンタメ小説の手法で書かれていますが、
著者が書きたいものは、全く違います。
もっと重いテーマ、戦争で失われてしまうもの、傷ついてしまった過去とどう向き合い、
どう折り合えばいいのか、、そんなものが内包されています。
一応、ラストに向け、謎が明示される仕組みになっていて、ぎりぎりミステリともいえるのですが、
これらの重いテーマのほうが、メインです。
著者はスペインで有名な国際サスペンスを主に描くエンタメ作家で、自身も、戦場取材、紛争取材の
経験をもつとか、エンタメ小説で成功したのちに、満を持して戦場取材の経験を
エンタメ小説の手法を借りて描いたというのが、正直なところだと思います。
著者自身も、経験を小説に昇華させるのには、数年の時間を経ないといけなかったという
事実からわかるとおり、この戦争で失ってしまうものは、はかりしりません。
エンタメ小説だと思って読んだら、重い気分になるヘビーな一冊でした。