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メフィストフェレス対ファウスト。究極の真理をめぐる天使たちのゲームのゆくえ?
2012/08/27 22:00
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
謎の編集者・コレッリはダビッドにある雇用契約を持ちかける。脳腫瘍により余命いくばくもないダビッドに再生手術を施し、莫大な前金を払う。その対価として、コレッリの描く世界観でもって、人々を信じ込ませ煽動する力を宿す物語を書くことを求める。新しい宗教の創造といえる。預言の書と考えるのもわたしの自由であり、新しい文化の創造と言い換えることもできる。
常に悪を欲して善をなす力の一部であるメフィストフェレス=コレッリがここにいる。そしてわたしは善悪の間に引きさかれた人間状況のシンボルとしてのファウスト=ダビッドを思い浮かべる。死人同然のダビッドにかすかな光がともるラストは少女グレートヒェンの天上の愛によって救われるファウストを重ね合わせる。
誘惑者・コレッリと魂を売るダビッドの白熱した対話は聖書にある「荒野の誘惑」であり、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』にある「大審問官」を髣髴させる。
イエズス会による異端審問が激しいさなかのスペインにイエス・キリストが現れ、大審問官がこのイエスを糾弾するという恐るべき寓話だ。その一節。
大審問官はイエスをこう弾劾する。
「自由の身になった人間は、ひざまずくべき相手を少しでも早く探し出そうと心労するのだ。それもすべての人間がいっせいに膝を折ることができる文句なしの相手だ。………まさしくこの、一緒にひざまずける相手を求めるということが、有史以来、各個人のみならず、人類全体のもっとも大きな苦しみだった。普遍的にひざまずける相手を探そうとして、彼らはたがいに剣で滅ぼしあってきた」
宗教の起源とは?支配・被支配の起源とは?戦争と平和と文化の根源?コレッリは「大審問官」の論理で、これこそが真実だとダビッドを恫喝する。人々を恐怖させひざまずかせて、一切の迷いを持たせぬ物語、これを疑問視する人々を敵とする教義、そして平和の救世主ではないぞ、戦士の救世主を現出させるベストセラーの執筆をダビッドに依頼したのだ。
魂の自由を求めるダビッドは絶対者の君臨を認めない。バルセロナは自治で生きるべきなのだ。この本心を隠して、延命のためにコレッリと契約を結び、コレッリを欺こうとする。堕天使を内にした天使たち、両極に分かれた究極の真理を実践証明しようとして、命がけのゲームが始った。勝者は?敗者は?そしてバルセロナは?
このような思いつきのたわごとを並べたのは読後に残った落ち着きのなさをなんとか宥めたいとの気持ちからなのだが、理屈っぽい作品と誤解されては心外。ゆっくりとした進行で始るが下巻に至れば、真相を探るダビッドの荒業、殺人犯としてダビッドを追う警察、そして予想を超えたハードバイオレンスの連続とページを追ってワクワクする上出来のエンターテインメントに仕上がっている。
それでもどこか合点のいかないところが残るから………
こう解釈しよう。
舞台がバルセロナの「ゴシック地区」だからではなく、この作品は正統のゴシック・ロマンスなのだと。
ところでゴシック・ロマンスとは?
「主としてゴシック風の建物を背景とし超自然的な怪奇を扱い、恐怖感を売物とする一群の小説。ゴシック・ロマンスは背景となる中世風の城、修道院、宗教裁判、牢獄などのゴシック的道具立てにおいて、その推理小説的な筋の展開において。その人物像とくに悪人像において、さらに人物の内面的分裂を分身の形で示す手法において、新しい特質を小説につけ加えている。とくに分身の手法はゴシック・ロマンスが人間の非合理的な内面、心の中の地下風景を探求していることを示している。(平凡社 世界大百科事典より抜粋)」
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最初はこれミステリー?て思う出だしだが、主人公が自分にオファーを出した謎の編集者の正体を追ううち、殺人事件が発生する。
終盤犯人が明かされるが、それでもなお、魔法の街バルセロナの不思議が残る。
全体的にバルセロナの街の魔法、魔術的な雰囲気をただよわせる本。
犯人探しの推理を楽しむのではなく、作者の魔術にのせられて読むのが良いと思う。
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読み終わるのが惜しい本。読み進みたいけど、読み終わりたくないというジレンマ。私は風の影よりも引き込まれた。こんな風に文章を綴れる作家はそうはいない。
後編は切ない展開で、最後は涙で目が…。
ストーリー、美しい言葉、とりわけ訳者さんの日本語力に脱帽です。
いろんな解釈が出来そうなので読み返したい。
4部作全部読むとまた新しい世界が広がりそう。待ちきれない。
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よんだ、よんだよ、おもしろかったけど、オチが想像と激しく離れた部分に着地して、あっそうゆう話だったの、そうゆう世界だったの・・・!?って。イザベッラがひたすら可愛かった。「友達だよな?」「死が二人を別つまで」いい子すぎる。
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結局最後まで不幸に見えますが
最後の最後でちょっと幸せ?
というかこれは、どこからどこまでが現実なのか
やっぱりマルティンはあのとき・・・?
でもあの恋愛っぷりは・・・?
解離性同一性障害??
と、ぐるぐるしちゃいます。
この作品が
読まずにおられない大作なのは確かです。
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ネタバレ注意!これはなんだろう?見事にひっくり返された。こっちに行くか?と唖然です。不滅の光の復讐か。この方向はジョナサン・キャロルですかね~~全然よそくできなかったのでびっくりです。でも面白かったです。下手な感想が書けない本です。塔の館はやっぱり焼けました。これは予測の範囲内でした。だけど、主人公ダビッド、マルティンがこんなことになるとは・・・ジャンルを超えた・・・そりゃ越えますね~許せない人もいるかもしれないけど、許します。これぞ、ミステリ!!さいごは怒涛の展開でした。イサベッラ、幸せだっただろうか?良かったけど、前作の「風の影」の方が好きです。
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なんというのか、ミステリにファンタジーにホラーにあまりにいろいろ入り混じってしまい、自分のなかでどうカテゴリわけしたらいいのか苦しむ作品。私の中で消化できないので★三つ。
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20世紀初頭のスペイン バルセロナを舞台にした、ゴシックミステリー。若くして色々な不幸に見舞われ、絶望している作家のもとに現れた謎めいた編集者。編集者の依頼に応えて本を執筆することを約束すると、作家を蝕んでいた病が癒える。魂(作家の魂は本に宿るという)と引き換えに死から解放された作家の周囲で、不可思議な事件が続発していく。
古い呪われた館や、街の地下に広がる本の迷宮、古い写真の謎など、道具立ては面白かった。ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」にも少し似た、陰鬱だけれども耽美的な雰囲気。でもそういった道具立てが機能しきっていない感じがした。
私には物語の核心がイマイチ掴みきれなかった。
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その話は、夢幻なのか、現実なのか。
手に入れたと思った愛は、一瞬のうちに姿を消し、哀しみと憂いを秘めて再び姿を現す。
支えられた人もいつか目の前から消え去り、我が身だけがつと残る。
いのちは…生きる目的は…どこにあるのだろう。
サフォンが紡ぎだす物語に、読者はただ酔いしれてしまう。
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よくわからないけど、引き込まれて読破
誰がいったい何のために、が今ひとつよくわからなかった
原書ならわかるのかなー、と初めて思わせた書でもある
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「寓話」を作ろうとして逃げ、自身が誰にも読まれない「寓話」になった男の話…かな?
途中主人公と同じように何が真実かわからなくなり翻弄される。
解説読むまで正体わかってなかったよ…。とほほ。
「風の影」には及ばないものの作品の雰囲気は相変わらず好き。
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バルセロナ、作中にガウディの建築が出てきます。当時のあんな薄暗い雰囲気の中だと、さぞおどろおどろしく奇怪に感じがしたのだろうな。
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『風の影』と時代は違うが、『センペーレと息子書店』の佇まいが変わらずあって、呪われた『塔の館』とともに、繋がっていく物語の面白さがある。最後になっても謎がすっきりしたわけでもなく、クリスティーナの写真でますますホラー的な要素が強まって、精神病との境界が不明だ。ただ、イサベッラの手紙は真実の愛が確かにあって、本当にただ一つの美しい物という感じがした。
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20世紀前半のバルセロナを舞台にした、きらきらしいゴシック・オペラ。
上巻よりも幻想小説になっているので、おお、こう来たか!と‥
上巻でも十分その要素は出ていたんだけど、ミステリ読みでいける範囲内だったのよね。
「忘れられた本の墓場」で見つけた「不滅の光」という本を持ち帰ったダビッド・マルティン。
宗教書のように見えた本は、書き手が錯乱しているかのような内容。
しかも、ダビッドの住む「塔の家」の前の住人マルラスカが書いたものだった。
マルラスカには、いったい何が起きたのか‥
ダビッドの前に、依頼どおりの本を書いてくれたら巨額の金を支払うという編集者が現れる。
どこか不気味な編集者コレッリの仕事をすることを、最初はためらうのだが‥?
前の契約が終わっていないあこぎな出版社が放火で焼失し、ダビッドは自由の身に。しかし、それで警察に疑われることに。
運命の女性クリスティーナが、ダビッドの元にやってくるが‥?
行く先々で不思議な出来事が起こり、つぎつぎに不慮の死が‥!
めくるめく感覚、惑いと恐怖のさなか、若い助手のイサベッラとの友情が一筋さわやか。
思いがけない結末に、静謐な印象が残ります。
エピローグが1945年6月で、「風の影」の冒頭に繋がるのも楽しい。
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上巻を読んで、今回は正直ちょっと期待外れかな?と思っていました。
ゴメンナサイ!!
下巻では、謎になっていた様々な出来事が繋がって、
本当にページを繰る手が止まりませんでした~><
前作で登場した少年ダニエルが、こんな形で出てくるなんて嬉しい。
「天使のゲーム」のエピローグが前作「風の影」に繋がっているのですね。
プロットの巧みさ、溢れ出す美妙な言葉の奔流に圧倒されました。
ミステリというよりは、幻想小説のような趣ですね。
イサベッラとのかけがえのない友情、
クリスティーナとの身を焦がすような切ない恋も物語に華を添えています。
それにしてもラストの展開は驚きですね…!(好きです^^)
さて、この<忘れられた本の墓場>シリーズは四部作になるとのこと。
パズルのピースが全て埋まった時、どんな世界を見せてくれるのでしょう?
今から待ち遠しいです☆