紙の本
マンガ編集者としての知識を生かした珍しいミステリー
2012/07/22 07:53
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投稿者:本を読むひと - この投稿者のレビュー一覧を見る
このミステリーの面白さは、マンガ(本作では全般的に「漫画」と表記)という「表現」への考察が、そのストーリーに深くかかわっているところにある。ミステリーという謎解き中心のエンターテインメントにおいて、文学、絵画、映像等どのようなジャンルであろうと「表現」が筋立てにかかわると面倒になりそうだが、俎上にのるのがマンガという超エンターテインメントなものだけあって、あまり堅くなっていないところがいい。
阿島文哉という著名なマンガ家が亡くなり、遺稿のなかに猟奇的な内容の短編マンガが見つかる。未公表の、その謎のマンガをめぐって物語は展開される。
フィクションとしての本小説には阿島文哉のような架空のマンガ家が登場し、その位置や個性が描出される。私にとって面白かったのは、それとともに現実のマンガ家の名前が登場するところだった。著者の分身っぽい主人公の「漫画編集者」醍醐真司のセリフあるいは内心の思いを少し引用したい。
《「おれの勝手な評価だけどさ。巨匠の中で本当にスジがあるのは、手塚治虫と白土三平と藤子不二雄と楳図かずおの四人だけだな」》
《醍醐がもし、怪奇漫画の最高傑作をあげろと言われれば、まず楳図かずおの『イアラ』と答える。一九七〇年代、ある漫画雑誌の編集長が『イアラ』を直木賞候補に推したが、そのため二度と事務局から推薦用ハガキが送られなくなったという逸話がある。醍醐は、この編集長の思いは間違っていないと考える。》
また戸村和也という年の割に若作りの言葉を口にするマンガ家はヒロインの水野優希に、「森田さんの持論はね、今の漫画を進化させたのは手塚治虫や横山光輝、白土三平だけじゃない。桑田次郎とか、次の世代の小沢さとるや久松文雄とかに影響を受けた漫画家も少なくないっていうものだったんです」などとマンガ論をぶつ。「森田」はこのミステリーの登場人物だが、他は日本のマンガ史に現実に存在する人たちである(久松文雄のみ未知の名だったのでウィキペディアで確認)。その他、石森章太郎の名も複数箇所に登場するが、改名後の「石ノ森」でないことに注意したい。架空のマンガ家と現実のマンガ家の名が入り混じって語られる本作において、改名後の名を几帳面に記述する必要性はない。ともあれこの小説には、現実と架空のマンガ家の名が併記して言及され、登場し、日本のマンガの歴史や表現性が説明される。
こうした現実のマンガ家の評価が作者の評価と一致するかどうかを詮索しても仕方ない。そもそも小説の面白さとは、そうしたことを曖昧にできるところにあるからだ。とはいえ主人公醍醐は、その職種(マンガ編集者)が作者と同じであり、醍醐のマンガ表現へのうんちくとともにマンガ家への評価も作者のものだとしてもよいかもしれない。
さて作者のマンガ表現への並々ならぬ考察が、このミステリーのかなりの部分を支えているのは明らかである。「超一流の漫画家」のマンガ術というべきコツを醍醐が考えるところなど面白かったが、私としては『闇の伴走者』を超一流の、はもちろん、一流のミステリーと呼ぶにはためらいをおぼえる。そのためらいの理由を説明できるほどに、ミステリー小説へのうんちく力がないと断らねばならないが。
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なかなか面白かった。
伝奇ミステリーで、漫画を題材にいろいろな伏線を貼りながら、驚きの展開をもたらす。
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マンガを題材にしている&作者が元マンガ編集者ということで、どうしてもマンガを読んでいる感覚になってしまう。
でもそれは別に悪いことでもなく、逆にそういう受け入れ方を狙っているフシもある。
ただ逆にそうなるとキャラクターのビジュアルが想像でしかないのが物足りない。
この作品をそのままマンガにすればもっと面白くなるのに、とまでは思わないが、同じプロット(原作)からならマンガにした方がより魅力的になっていたような気がしないでもない。
ストーリー自体は二転三転あるが、ちょっと冗長かも。連載っぽく、要所要所ではまとまってるが、全体通すと軸が弱いかなという印象。
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漫画好きでミステリ好きなら絶対に読むべしの本ですね。 最近漫画の原作者の小説というと「城平京」さんの本を読んで気に入ったのですがまた一人小説を追っかける人が見つかった気がします。 おもしろい漫画とはどういうものか、編集者と漫画家の関係とは、いろんなうんちくと、ミステリ的などんでん返しが一緒になった傑作だと思います。
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漫画界の裏の顔を垣間みることができました。
この人が怪しいっと思っていたら二転し〜。
浦沢氏の漫画の原作も担当しているという作家さんですが。
読んでいて浦沢画が頭に浮かんできました。
「らしいなあ〜」と思ったり。
この物語を浦沢漫画でぜひ読んでみたい!
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『BILLY BATT』などの原作者の長編小説。
物語の展開はさすがに巧い。
しかし、主人公の男性キャラと女性キャラがいまいちなような気がする。
漫画ならともかく、小説だといまいちイメージが湧かない。
ラストもいまいち尻つぼまり気味。
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漫画家、その編集者の世界が丁寧に書かれていて、
探偵役の二人の男女のキャラクターがちょっと変でそこがよく、
物語も何度か大きく状況を変え、
最後まで飽きずに読みました。
この二人の組み合わせで、次の話が読みたいです。
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漫画原作者・編集者という事で期待して読んだが、評判程個人的には…でした。
ダラっとした感ありまして、都合よく進むのはまぁイイとしても主人公が見えてこないので自分としては駄目でした。
ただストーリーは勿論読ませますので。
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マンガからはその筆致や構図により、他人(マンガ家)の肉体や存在を強く意識させられるのが重荷で、所持しないことにしているのだけれど、この作品はそんなマンガの原稿がメインのアイテムとなる物語。
編集者目線での業界やマンガ家の描写、プロはマンガをどう描いているか、といった枝葉の話のほうが面白かった。
ストーリーもよいのだが、ややひねりすぎの感も。ただノンブルの入れ替えで話の内容が全くの別作品のごとくに変わるという事実に驚いた!
醍醐のキャラもよく立っている。潔癖症で商店街フェチなんて…ちょっと憧れる^^
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漫画編集者の描くミステリ。ということで漫画界の裏をいろいろ知ることができるのも楽しい一冊。「漫画編集者」って、読者としてはあまり重きを置いていない存在でしたが。そんなに重要な存在だったんですねえ。
ミステリとしても読み応え十分。あの漫画は、漫画としても見てみたいなあ。でも文章だけでもイメージが浮かびます。そこに隠された意図と真相にはまさしく絶句。
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(No.12-69) ミステリです。
『水野優希は出版関係専門の調査会社でフリーの調査員をしている。夫とは離婚係争中。
会社から回ってきた今度の仕事は大手出版社「英人社」の案件。昨年他界した有名漫画家・阿島文哉の管理室から出てきた画稿について調べてもらいたいという、阿島の未亡人・淑子からの依頼だ。
未発表で誰も見たことがない画稿。何より内容に相当問題がある代物。阿島が描いたのか?それともほかの誰かが?
阿島文哉全集の企画が進行している今、変な話が出てきては困る出版社。何が出てきても真相を知りたい淑子夫人。
優希は取っ掛かりとして、今はフリーで仕事をしているが以前英人社の編集者だった醍醐真司を紹介してもらう。
醍醐は能力はあるが、あきれるほどわがままな人物だった。優希が初めて会ったときの感想は「十分以上いっしょにいたくない男」。
しかし二人は協力して調査に当たる。
このマンガに描かれているのは本当にあったことなのか?真相に迫る二人に・・・・。』
作者の長崎さんはマンガ原作者・マンガ編集者です。週間マンガ雑誌の編集長も経験。
フリーになってからも浦沢直樹氏と共同制作で爆発的ヒット作品を生み出している有名な方らしい。私は浦沢直樹さんの名前は知っていましたが、そこ止まりで・・・。
ストーリーもですが、作者がよく知っている世界を扱って書いた小説なので、その薀蓄がものすごく面白かったです。
漫画家さんが実名でたくさん語られ、いいのかな~と心配になるくらいでした。
ストーリーとほぼ無関係に突然映画DVD「僕のエリ」のことが出てきて、長崎さんこの映画が好きなんだろうなと思いました。
残念だったのは私に少年(男性)マンガの知識があまりなかったこと。少女マンガなら少しは知ってるんですが。でもさすがに手塚治虫やその後の数人については知ってたので、話題に付いていけました。
でも編集者の仕事については全く知識がなかったので、へぇ~!の連続。
小説としては説明部分が多い感じもしましたが、あまり気になりませんでした。何でだろう?不思議。
ミステリーとして充分堪能できました。
主人公の優希がちょっと弱い(体力的には強い)のが気に入らなかったのですが、それを補って余りある強烈な個性の醍醐だったので、これでバランスが取れていたのかなと思えます。
猟奇事件を扱っていますが、気持ちが悪いシーンはほとんどありません。ラストも感じが良かったです。
久し振りに回りに布教したい本に出会いました。
ベストセラー作家さんの本は、布教する必要は全然ないので・・・。
読み始めたら一気にいけます!
ミステリーが好き、マンガが好きな方に、力いっぱいお勧めします。
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緩やかに感じた話の進み具合も、だんだんとスピードが上がっていって読みやすくなっていきました。ミステリーとしては伏線もわかりやすくて、やっぱりね~の展開だったけど、度々出てくるこの回想シーンにとてもいい味があります。そして、漫画家と漫画編集者の関係や漫画史の変遷、漫画業界のことが、こと細かく語られているところも好奇心をくすぐって、面白かった。
主人公はどっちなのか、そこが曖昧な気がしたけれど、読んでいてとても楽しかったです。
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大御所漫画家・阿島文哉の死後、全集を出す企画が持ち上がった。
画稿を整理していた阿島の未亡人・淑子は画稿管理室で未発表の原稿を発見する。
それは女性を拉致監禁し、死に至る姿をスケッチし殺害する「漫画家」さんを描いた作品。
これは本当に阿島が描いた作品かを調査することを依頼された水野優希は、大手出版社を退職独立した漫画編集者・醍醐真司に調査の協力を依頼。
やがて作中の被害者が、35年前の連続女性失踪事件で失踪した女性と酷似していることが判明。
阿島はこの事件と関係があるのか?この原稿は何のために描かれたのか。
初めての作家さん。ですが、この方がプロデュースした漫画は読んでいます。
その経歴を知っているため、どうしてもその漫画作品たちと比べちゃうのが自分でも残念でした。
面白くて、ほとんど一気読みだっただけに、真っさらな頭で読みたかったなぁ。
飽きさせない展開に、立ってるキャラ達。このあたりはもう、さすが。
そんでもって漫画好きにはたまらない裏話満載で、話のスジそっちのけで楽しませていただきました。
ただ作中に出てくる作品たちは古すぎて知らないものがほとんどでしたが。
とにかく始めから映像(画像?)が頭に浮かんでいました。
もちろん画は浦沢さん。というか、もろに浦沢漫画でしょう。
細かい視点の切り替えに、二転三転する真相。
読んでいる最中、特に『MONSTER』を思い出しちゃいました。
連続殺人だったり、重要な作中作があったり?
浦沢さんに漫画化してほしかったのですが、カブっちゃうからムリかな。
これサブタイトル「醍醐真司の猟奇事件ファイル」ってなっていますが、第2作とか出るのかな?
ぜひ読みたいですが、漫画絡みの猟奇事件を考えるのって難しそう・・・。
でもなんとかがんばってほしいです。次回作も期待しています。
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水野優希に有名漫画家阿島文哉の未発表作品の調査依頼があった.漫画オタクの醍醐真司とのコンビで1970年代に起きた連続誘拐事件の真相に迫る.漫画の歴史を紐解くような真司の喋りが面白い.登場人物が多いがそれぞれ大事な役割を持っており,緻密な構成で組み立てられたミステリーだ.
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漫画原作者・編集者の著者が描いた、漫画原作者・編集者が絡んだミステリ。
当然ながら漫画に関する薀蓄が盛りだくさん。漫画をあまり読まない私だけれど、製作裏話など興味深く読めた。元編集者の醍醐が、ウザめの変人ながらも一本、筋も通っていて、憎めぬキャラ。元警察官の女性調査員とのコンビも凸凹ながらイイ感じ。事件のほうはこれであっさり犯人が分かるのかと思いきや、二転三転。意外な展開ではあったけれど、逆にご都合展開になってしまって、あまりピンとこなかったのが残念。
主人公の二人のキャラが良かったので、シリーズ化したら面白そう。